気になる女がいる。 毎日、毎日、飽きもせず同じルートを走っているには訳がある。 同じ場所で、いつも見かけるセーラー服を着た少女。 彼女の視界に入る、その一瞬だけが共有出来る唯一の時間。 その一瞬を求めて、今日もあの道を走る。 恋のはじまり今日も日が暮れようとしているのを一号生寮の窓から確認した。 学ランを脱ぎ、シャツ一枚で外へ出る。 ここからあの場所まで、シャドーを混ぜつつ走れば20分。 丁度いい時間だ。 「毎日精が出るな、J」 「桃・・・行って来るぜ」 「ああ、頑張れよ」 そう言いながら、欠伸をしている一号生筆頭に軽く手をあげ、寮を出る。 男塾から裏通りを通って、商店街を突き抜けて見えてくる川沿いの道。 ペースと時間配分を乱さぬよう計算しながら、見慣れた景色を走り抜ける。 そして、 いつもの場所より少し離れたベンチに、彼女が座っているのを見つけた。 どうしようか。 彼女の視界に入るか入らないかのギリギリの場所で、シャドーをしながら考える。 リアクションなんて起こせるはずもない。 きっかけもナシに話しかけるほど女慣れしているわけがなく。 結局、いつも通り、何事もなく彼女の前を通り過ぎる。 ふと、彼女の前を通り過ぎる時。 彼女の顔を隠している雑誌に目がいく。 あれは今月まだ手に入れていないボクシング専門雑誌に間違いなく。 もしかして、と期待を抱く。 きっかけが一つ、見つかったのかもしれない。 あっという間に彼女の前を通り過ぎて、1日が終わる。 けれど明日はいつもと違うかもしれない。 こんな自分を見たら、仲間は皆笑うかもしれないが。 帰り道、同じ雑誌を見つけたが、何故か買う気にはなれなかった。 彼女の視線を辿る⇒ |