たった一つの仕草に、 たった一つの行動に、 どれほど私が胸を高鳴らせるのか、 貴方は知らずにいて欲しい。 「届かなくてもいい」なんて嘘 1第一印象は、静かな人、だった。 物静かで、冷静で、けれど研ぎ澄まされた刃のように熱い人。 初めて意識したのは任務の時、土方さん達の所へに向かう私を援護してくれた、その頼もしさ。 良くは思われていないだろうから、あの時は少しでも役に立ちたくて、頼りして欲しくて、貴方が敵に囲まれても尚、一所懸命走った。 君、と 静かに呼ばれる名前がこんなにも心地良いものだと、どうして気付けたでしょうか。 貴方がくれるほんの少しの優しさが、どれほど私に熱を持たせるか、どうして知ることが出来たでしょうか。 真綿で包む、一方的に与えられる優しさとは違う、 時に厳しく、私を成長させてくれるほんの少しの思いやり。 それがどれほど私の心に響くか、貴方は知っているのでしょうか。 もし知っているのなら、きっと貴方はとてつもなく意地悪な人なのでしょう。 こんなにも苦しくて切なくて、まるで初恋のように高鳴る鼓動の引き金を、いとも簡単に引いてしまうのだから。 文机の上に置かれた、小さな包み。 その包みに気づいた時の私の驚きと嬉しさと、ほんの少しの胸の痛みを、貴方は知っているのでしょうか。 どうか知らずにいて下さい。 どうか気付かずにいて下さい。 叶わぬ恋を抱く憐れな女だと、思われたくはないのです。 身の程知らずな女だと、思われたくはないのです。 貴方の優しさが、時に私の身を引き裂こうとすることを、貴方は知らずにいて下さい。 貴方の優しさに引き裂かれるのなら、きっとそれは幸せなことなのだから。 届かなくてもいいのです。 この目に映るだけでこんなにも幸せなのだから。 ちゃり、と髪の上で微かになる簪に最初に気づいたのは井上さんだった。 「おや、どうしたんだい?かわいいのしてるね」 誰かに貰ったのかな?なんて笑いながら言う井上さんに軽く会釈する。 「君さ、自分が男装してる身だって分かってる?まぁ、似合ってるけどさ」 皮肉交じりにそう言ったのは沖田さん。どうしてだか、ちょっとつまらなそう。 「・・・・・・・・・・・・似合ってるな」 斉藤さんは少し間を開けてから、頭を撫でながら褒めてくれた。すごく嬉しい。 「おー!可愛いじゃん!すげぇ似合ってるぜ!」 平助君は手放しで褒めてくれる。永倉さんや原田さんも一緒になって似合うと言ってくれた。 そんな必要もないのに、屯所を一回りした。 けれど肝心な人にはまだ会えてない。 もしかしたら今日はもう屯所にはいないのかもしれない。 ああ、どうしようか。土方さんに聞いてみようか。 浮ついた心は右往左往してしまう。結論が出ないまま、中庭を行ったり来たり戻ったり。 「おや、どうしたんですか君」 よほど不審な行動に見えたのだろうか。 島田さんが声を掛けてきた。手には、何かの書きつけ。 「島田さん!いえ、なんでもないんです」 「その割には落ち着きなさそうでしたけどね。おや、」 島田さんの視線が髪の毛に止まる。 「やっぱり似合いましたね。いや、良かった」 「やっぱり・・・って?」 「ああ、山崎君がそれを買った時、私もその場にいたんですよ。あ、もちろん選んだのは彼ですよ」 「そうだったんですか。あの・・・今日山崎さんは?」 「任務に出ていますが、夕方には帰ってきますよ」 「ありがとうございます」 帰ってきたら、なんて言おう。 ありがとう、とそれから。 それから、どうして私に簪を? ほんの少し、少しだけ、期待してもいいんでしょうか。 それは愚かなことでしょうか。 →2 |