最近、各隊で密かに噂が流れていた。 「狛村左陣は新妻の作る愛妻弁当を毎日食べている」とか 「懐には妻の写真を忍んでいる」とか 「夜はそりゃあもうラブラブらしい」だとか 人の噂も七十五日というが寿命の長い死神の場合は一体どうなのだろう。 夫婦:噂噂の張本人・狛村左陣は知っていた。 噂の出所がほぼ確実に己の親友であることを。 最初は些細なものなので放っておいたが、噂には尾ひれが付き物である。 今やその噂は尾ひれが付き捲ってとんでもないことになっていた。 それもこれもやはりあの始終笑顔の親友のせいなのだ。 「どうすべきか・・・・・・」 隊長室で溜息混じりに呟くものの、どうしようもない。 所詮、噂というものは放っておくしかないのだ。 否定すれば怪しまれるし、だからといって肯定するのも馬鹿馬鹿しく。 そもそも噂というものは本人に分からぬようにするのが筋というもの。 それなのに。 「いや〜〜〜七番隊隊長さん聞いたで?羨ましいわ〜〜 僕も御見合いしてみよかな」 「狛村く〜〜ん。いやぁ目出度いねぇまずは一杯!」 何故か死神には野次馬性質の者が多い。 市丸・京楽を筆頭に更木や挙句の果てに藍染までからかいに来る始末である。 「どうしたものか」 心底うんざりと本日五回目の溜息を付いた。 「あ」 同時刻。 狛村は玄関に置き去りにされた弁当を見つけ声を上げた。 そういえば今日は自宅にいるうちから虚が現れたと連絡が入り、迎えに来た射場と共に家を飛び出したのだ。 「どうしようかな・・・・・」 せっかく作ったものだから食べてもらいたい。 けれど七番隊に行くのは気が引けた。 以前はまだ互いに他人同士の意識が強かった為、悪戯半分で行ったのだ。 さすがにまた恥ずかしい思いをさせると分かっていて行くのは躊躇われた。 「でもなー私のお昼には多すぎるし」 大きな重箱が二箱。とても一人で食べきれるものじゃない。 「ま、誰かに頼んで渡してもらえばいいかな」 こうしては七番隊へ向かうことになった。 瀞霊廷内はとある噂が蔓延していることを知らず。 「あれ・・・もしかしてさんですか?」 「え?あ、花太郎!?」 七番隊舎へ向かう廊下の途中出会ったのは四番隊で共に働いていた山田花太郎。 嬉しそうに駆け寄ってくる姿は相変わらず小型犬に似ている。 「お久しぶりです!どうして此処に?」 「ああ、主人がお弁当忘れたから届けに」 「ごごごごご・・・・ご主人ですか?というと狛村隊長ですよね・・・?」 「うん、そう」 花太郎の必要以上の驚きように苦笑しながら内心やっぱりなと思う。 の結婚相手が決まった時四番隊は天地をひっくり返したような騒ぎになったのだ。 まぁ相手が相手だから致し方ないと思うけれど。 「別に怖くないのよ、あの人」 「いえいえいえ、そんな事思ってませんよ!?あ、でも仲がすごくいいらしいですね!」 「へ?誰に聞いたのそんなこと・・・」 「え?ああぁあああだ、誰だったかなーーー?」 「花太郎、すっごい怪しい」 「そそそそんなことないですよ!!僕は別に噂話とか好きじゃないですし!!」 「噂・・・・?」 「あ!」 しまった!と花太郎が口を自分の手で塞いだ時には遅かった。 が眼前まで迫る。 「花ちゃん?噂って何かしらー?」 「い、いえ、その・・・・」 「言わないとほっぺが伸びきってお餅みたいになっちゃうわよ〜〜」 「ひひまふ、ひひまふ(言います、言います)」 両頬を引っ張られて花太郎は観念したようにこくこくと頭を縦に振った。 そこでようやくの手が離れる。 「実はですね―――「花太郎!!」 「「へ?」」 突然の背後からの叫び声が花太郎の名を呼んだ。 二人が振り向くと四番隊第三席伊江村が慌てた様子で立っている。 「伊江村さん!お久しぶりです!」 「どうしたんですか?伊江村三席」 「おお、君か。丁度良い、君も来なさい! 狛村隊長が部下を庇い深手を負った!」 「左陣さんが!?」 「今救護室にいる。花太郎、ぐずぐずするな!」 「は、はい!」 救護室へ走り出す二人の後をは追った。 それは結婚前まで当たり前だった四番隊の仕事。 けれど傷ついたのが夫だというだけで、こんなにも胸が騒ぐ。 「左陣さん!」 慌てて救護室のドアを開けるとそこには右手を血に染めた夫の姿があった。 次へ |