人は時としてその運命に振り回され たまにその運命に救われたりもする。 夫婦:野次馬それは心地良い昼下がりだった。 たまの丸一日の休日に左陣は軒下で庭を眺めていた。 もう家の中で重い袈裟をする必要はない。 その事は思った以上に左陣の心を軽くさせていた。 「左陣さん、左陣さん」 パタパタと足音がし、新妻が寄って来る。 振り向くと大量の洗濯物を抱えていた。 「これ干したいので手伝って下さい」 「うむ」 籠の中の洗濯物のほとんどは左陣のものである。 でかい体躯が着る服は当然大きい。 断わる理由もなく、左陣は籠を受け取ると庭に出た。 ピンポーン。 「お客さん?」 滅多に鳴らぬ呼び鈴の音にが狛村を見た。 来客の予定は当然ながらない。 「ちょっと出てきますね」 再びパタパタと足音がし、は玄関へと向かった。 とりあえず洗濯物を干そうと左陣は物干し竿に手を掛ける。 随分長いこと一人暮らしだった左陣は家事もある程度手馴れていた。 「さ、左陣さん!大変!!」 妻が慌てて掛けてきたのは三枚目の着物を手にした時である。 先ほどとは違い、バタバタと廊下に響く足音が聞こえる。 「どうした」 「東仙隊長と部下の方がいらっしゃっいました!」 「・・・・・何?」 慌てて玄関に向かえば、人の良さそうな笑みを浮かべた東仙と苦笑している檜佐木・射場。 「やぁ、狛村」 「東仙・・・・如何した?」 「挨拶とお祝いにきたんだよ。友人代表としてね」 「奥方様、この前は馳走になりました」 「あ、いえ・・・お粗末さまでした」 「お初にお目にかかります。九番隊檜佐木と申します」 「・・・いえ、狛村です」 檜佐木と射場に馬鹿丁寧に頭を下げられ、はつられて腰を折る。 東仙はその様子に笑みを零した。 「ああ、これは奥方にお土産だ。上がってもいいかな?」 「あ!もちろんです、どうぞ」 は我に返った様子で居間へ向かう。 檜佐木・射場がそれに続き、玄関には狛村と東仙が残った。 「・・・・・・・どういうつもりだ?」 「君が惚気るほどの奥方に会いたいと思ってね」 「惚気てなどおらぬ」 「可愛い人じゃないか」 「・・・・・・否定はせぬが」 「全く羨ましい限りだよ」 笑みを絶やさず笑う東仙に狛村は溜息をついた。 笑顔なだけに何を考えているのか解らない。 ただ面白がっていることは確実だった。 「左陣さん?」 いつまで経っても居間に現れぬ二人に襖からひょこりとが顔を出した。 左陣は黙って頷きそれに答え歩き出す。 二人が居間に腰を下ろした所で、お茶が出された。 「粗茶ですが」 「どうもありがとうございます」」 やはり丁寧に檜佐木と射場が受け答えする。 おそらくこの二人は東仙に連れてこられただけなのだろうと思う。 もちろん純粋な好奇心もあったのだろうが。 「東仙様から頂いたお茶菓子出しますね」 そう言って妻が席を立った所で部下二人が溜息をついた。 「可愛い人ですなぁ」 「あの人が名前入りの愛妻弁当作ったんですか」 「凄かったぞ。なんたってLOVE左陣じゃったからな」 「仲が宜しいんですね。羨ましい」 うんうん、と頷きながら二人はどこか遠い目で妻の去った襖を眺めている。 なんと言ったらいいか分からず、左陣は頭を掻いた。 「貴公らは一体何をしに来たのだ」 「もちろん奥方を見物しに。それと渡したいものがあってね」 「先ほど土産を渡していたであろう」 「それとは別にね」 「なんだ」 「秘密」 これ以上ないというくらいの笑みに左陣は押し黙る。 こうなっては意地でも言わないに違いないのだ、この男は。 人が良さそうに見えるだけに性質が悪い。 「お待たせしました」 やがてが茶菓子を乗せたお盆を持って帰ってきた。 人数分を配り終えて、席につく。 そこで東仙は檜佐木に風呂敷袋を持ってこさせた。 なにやら長方形のやたら大きな風呂敷包みである。 「奥方にこれを。僕達が帰った後に開けてくれるかい?」 「あ、はい。ありがとうございます」 「きっと喜んでくれると思うよ」 風呂敷包みをに渡すと満足したのか、東仙は茶菓子に手をつけた。 それに部下二人が続き、やがて他愛もない話が始まる。 三人がにこやかに狛村家を去っていたのは一時間程経ってからのことである。 「・・・・・結局用事はなんだったのでしょう?」 「さてな」 「風呂敷包み・・・・開けてみましょうか」 「ああ」 が風呂敷包みを開くと中には一冊のアルバムが入っていた。 嫌な予感がする。 だがそれを言う前に妻がそれを開いた。 「あ」 が声を上げたのとほぼ同時に狛村は溜息をついた。 それは間違いなくアルバムで真央霊術院時代のものである。 「左陣さんだ!」 嬉しそうに妻が指差した写真には確かに昔の自分と東仙が写っていた。 一体どういうつもりか、あの男は。 「、それを寄越せ」 「嫌です」 アルバムを抱きしめるに狛村がにじり寄る。 こうして初めての夫婦喧嘩が勃発するのだが――――― が勝った事は言うまでもない。 次へ |