大きな蒲団が必要だと思った。

標準の何倍も大きい夫と自分が一緒に寝る為に。







驚く左陣の顔を思い浮かべ、は一人笑った。









夫婦:愛妻弁当













結局昨夜は困惑する左陣と蒲団を隣に並べ寝ることとなった。

もちろん触れ合いなど一切ないが、それでもは満足していた。

朝起きれば、大きな狼の顔をした男がすぐ傍で寝ている。

昨夜寝る前に蒲団屋に特注の蒲団を注文した事は夫には内緒である。








「行って来る」

「いってらっしゃいませ」




夫が出かけるのを見送り、は台所へ戻った。

余所余所しいのは嫌だから、昨日から名前で呼んでいる事に果たして夫は気付いているのだろうか?


忍び笑いをしながら、今日の予定を頭の中で思い浮かべる。

専業主婦だってそれなりに忙しい。

二人分並んだ食器を片付けながら、は頭の中で献立を考えた。

昨日から考えていた企みの一つ、俗に言う愛妻弁当を作るために。




良き妻を演じる為押し殺していた自分の人格が戻ってきた事を感じ、は一人で笑った。

















「さて、七番隊は何処かしら」





半ドンが鳴る頃、は久しぶりに瀞霊廷内を歩いていた。

だがの担当は東塔であり、西塔に位置する七番隊には当然行った事がない。

なんとか道行く人に道を尋ねながら七番隊の扉の前に行くと、そこにはサングラスを掛けた強面の男が一人立っていた。

確か七番隊副隊長の射場といったか。








「あの、七番隊の副隊長様でいらっしゃいますよね?」

「そうじゃが、おんしは?」





左陣に負けず時代錯誤の喋り方をする男は珍客に目を光らせていた。

風体だけ見るとただのチンピラである。






「狛村の妻で御座いますが、狛村は中にいますでしょうか?」

「は、狛村隊長の奥方様で。これは失礼しました!こちらへ」





この男、狛村の忠臣であるという噂は本当らしい。

一変して畏まった射場は隊長室へとを案内した。

ノックの際、「奥方様がおいでです」と射場が言うと狛村が自ら扉を開き顔を出した。

にっこりと笑って見せると、やはり困惑しているのだろう視線を感じる。



、どうした」

「お弁当を作ったんですが、如何ですか?」




余所行きの声でそう言って重箱を抱え上げて見せる。

ずっしりと重みのあるそれはかなりの量であることが容易に知れた。




「お嫌でなければ、こちらは皆様で」



もう一つ、別の風呂敷包みを射場に渡す。



「これは、どうもありがとうございます」


射場は畏まったようにそれを受け取り、深々と頭を下げた。

狛村にも重箱を渡し、二人に一礼する。


「では私はこれで失礼致します」

「いや、今お茶淹れますけん」

「いいえ、これから少し用がありますので」





射場の申し出を丁重に断り、は七番隊を後にした。










が立ち去った後、隊長室で重箱を開けた射場と左陣はしばし呆然とする事になる。

何故なら白米の上には桜粉塵と海苔を使って

『LOVE 左陣』と描かれていたからだ。







「仲が宜しいんですなぁ」


と、半ば感心したように言った射場に

狛村は言葉を返す事が出来なかった。












だが帰宅後、更なる苦難が待ち受けている事を左陣は知らない。









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