それは唐突に、しかし当たり前のように訪れた。







「お前には家の娘として狛村殿の元へ嫁いでもらう」










夫婦:祝言












それは所謂政略結婚だった。




家は姓こそ違うものの、護廷十三隊総隊長・山本重国の分家にあたる列記とした貴族である。

その一人娘のは幼い頃からいずれそれ相応の男の元へ嫁ぐ事が決まっていた。

その采配を振るうのは当然の如く山本元柳斎重国である。

元柳斎はの結婚相手を現七番隊隊長・狛村左陣と定めたのである。

両親は護廷十三隊隊長との縁談を喜んだが、相手が狛村であることには困惑を隠せなかった。

相手は素顔を決して晒さぬ、化け物と呼ばれる男である。







だが娘の幸せより家を重んじた両親はその縁談を受けた。








祝言は行われなかった。

狛村が表に出る事を疎んじた為である。

が初めて狛村と顔を合わせたのは、書類の上で夫婦となった後で元柳斎から結婚祝いに与えられた家へ引越した日の事である。


















それはとても大きな家だった。

与えられた鍵で中へ入って唖然とした。


敷地だけでなく、玄関も家具も巨大である。

まるで自分が蟻になってしまったかのような錯覚に陥った。

だがその疑問は夫となる男の姿を見て、すぐに解けることとなる。









「貴公がか。狛村左陣と申す。これから宜しく頼む」








それはあまりに強大であった。

通常の何倍もあろう体躯、袈裟を被り隠された頭部、感知しきれない程の霊圧。

嫁入りが決まるまでは四番隊第五席としてそれなりに働いていたは、必死で腰が抜けそうになるのに耐えた。





これが、自分の夫なのだ。







諦めは絶望を生む。

風呂敷に包まれたの荷物を手に取ると、左陣は廊下へ向かった。

慌てて後を追う。




やがて屋敷の最奥の部屋の前で止まると襖を開けた。

そこには予め頼んでおいたの心ばかりの嫁入り道具が置いてあった。






「貴公の部屋だ。好きに使うと良い」





とりわけ低くも高くもないくぐもった声が袈裟越しに聞こえる。

もう一度部屋を見回す。通常の大きさの家具と蒲団。





「あの・・・・旦那様のお部屋は?」




なんと呼ぶが迷った挙句、結局旦那様と呼ぶことにした。

両親から失礼のないよう散々言われていたし、だからと言って名前を呼ぶ気にはならなかったからだ。






「儂の部屋は此処とは離れておる。食事は部屋取る故運んでくれ」

「は・・・」






それはつまり――――寝室は別ということだろうか。

そして食事も一緒には取らない。








「儂は貴公に触れぬ。安心せい」







それだけ言うと左陣は踵を返し長い廊下のへと消え去った。

正直、何がなんだかわからない。

今日にでも手篭めにされるだろうと覚悟を決めてきたのだ。

それを触れぬと言う。









もしかしたら

狛村にとっても意に添わぬ結婚だったのだろうかと。

は畳の上に座り込んだまま、しばし呆けた。










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