お先真っ暗ってこの事でしょうか? 沈丁花怪奇談高校三年受験街道まっしぐら、。 只今有り得ない事実に遭遇、いや衝突中。 「とどのつまりは迷子かね?」 「うーん、まぁ・・・・そうなのかぁ・・・・」 目の前には中年の男性が二人。 一人はヨレヨレの開襟シャツに綿のズボン、頼り無さそうなヒョロヒョロの細体に剃り残しのような無精ひげを生やしている。 もう一人は茶色の和服(なんていうのかわかんない)に浅黒の肌。なんだかものすごく不機嫌そう(事実不機嫌なのだろう) 私はまだ彼らの名を聞いていない。 けれど私は彼らを知っている。 だって私の趣味はミステリー小説を読むこと。 この二人は現実には存在しない、小説の中の人物なのだ。 「声も出ないみたいなんだ。だからどうしたらいいのか・・・」 僕はひどく慌てていた。 早くこの少女を助けてあげたいと思ったからだ。 この少女はひどく存在が不安定で何処か儚い。 それが僕の彼女に対する第一印象だ。 「君は本当に頭が足りないね」 けれど京極堂は至極落ち着いてそう言い放った。 こんな時に何を言ってるんだろうと思う。 「な、なんだい、京極堂。僕は・・・・」 「声が出ないんだったら、紙に書かせればいいじゃないか」 「あ」 我ながら間抜けだとは思う。 物書きのくせして全くそれは思いつかなかった。 言われてみれば至極簡単な事だ。 「君、字は書けるだろうね」 京極堂が店の隅で小さくなっている少女に声を掛けた。 何故か肩を震わせた彼女は、自信無さげにコクンと頷く。 どうしてだろう。僕には彼女が僕達を恐れているように見えた。 京極堂が机の上から藁半紙と鉛筆を取り出し、少女に差し出す。 少女は鉛筆を必要以上に握り締め、小さな字でこう書いた。 『』 「ちゃん・・・だね。僕は関口巽」 自己紹介がまだだった事を思い出して自分の名を口にする。 「売れない書けない小説家だ。だが怪しい者じゃない。安心したまえ」 京極堂が余計な注釈を付ける。間違っていない事が痛い。 「こっちはこの古ぼけた本屋の主人だ。始終額に皺を刻んでいるが、怖がらなくてもいいよ」 負けじと応戦する。が、 「こちらの男よりは余程役に立つと思うがね。この男は鬱病に失語症に対人恐怖症をも併発するやっかいな人間だ。」 勝てるわけがない。 だがその遣り取りに少女がうっすらと笑顔を浮かべた。 僕もなんだが嬉しくなる。 京極堂はそれを見て、咳払いを一つした。 「さて、本題に入ろう。君は何処から来たんだい?迷子か?それでも家出かね?」 「さて、本題に入ろう。君は何処から来たんだい?迷子か?それでも家出かね?」 その言葉に私は笑顔を引っ込めた。 どうしようかと思案する。 本当の事を言った所で理解してもらえるはずがない。 迷子・・・・確かに迷子なのかもしれないけれど・・・・ 何処へ行こうとしたのか、何処へ帰らねばならないのか。 それはやっぱり言えない。 そう、私は気付いていた。 関口さんに手を引かれて坂道を登っていた時、一度だけ振り返った。 一番下に小さく煙草屋が見えた。 その煙草屋は・・・・・・・木造だった。 あの煙草屋は終戦直後からあるのだと聞いた事がある。 その頃は木造だったが、今は孫が引き継ぎコンクリートの二階建てだ。 ここは私の世界じゃない。 そして白昼夢を見ているわけでもないのだろう。 ここには確かな現実感がある。 黙ったままの私を二人が困ったように見つめた。 京極堂はこれ以上ないようなしかめ面をしている。はっきり言って怖い。 やがて諦めたように京極堂が口を開いた。 「君。帰る所はあるのかい?」 私は首を横に振った。 驚いたように関口さんが目を見開き、京極堂を見た。 「そうかい。じゃあ、ここにいればいい」 彼は溜息を一つ吐き、そうあっさりと言った。 今度は私と関口さんが驚く番だった。 なんだか猫の子でも預かるように簡単に京極堂はそう言った。 「きょ、京極堂!?」 「なんだい、関口君。間抜けな顔をして」 「だって君、そんなに簡単に」 「じゃあ君はこの子を外に放り出せというのかね」 「でも・・年頃の娘さんを・・・・」 「だったら君も今日泊まっていけばいいじゃないか。どうせいつものことだ。 そうと決まったら雪恵さんに連絡したまえ。第一本当は何しに来たのかね」 呆然とする私達を置いて、京極堂は一人延々と喋りだす。 とにかく私は一夜の宿を確保したらしい。その事に安堵する。 安心したらなんだか眠くなってきたかも・・・・・ 「二十箇月もの間子供を身篭っていることができると思うかい?」 私はその言葉を最後まで聞かずに眠りに落ちた。 |