激しく喉が渇いて水差しの水を一気に飲んだ。

小さな窓のから差し込んだ光が朝が来た事を告げている。






朦朧とする頭を抱えながら、堅い扉を開けた。









黒百合の章













起きて刑事室に顔を出すとすぐに、婦警さんが駆け寄って来てくれた。

昨夜、病院へ行かなくてはならなくなった木場はが帰る所のない事を察し、とりあえず警察の仮眠室へ行くように指示したのだった。

ここならば下手な宿よりは居心地がいい。

婦警に案内された社員食堂で食事を取っていると、スーツ姿の男性が定食の盆を持ちながら、の正面に座った。






さんですよね?」

「は・・・・はい」

「僕の事――――覚えてないかな?」





此処にいるという事は警察官、スーツ姿なのだから刑事なのだろう。

けれど考えてもよくわからなかった。

彼には一ヶ月前でも私の時間は四年の歳月が流れているのだから。








「ごめんなさい――――よく、」

「まぁ、そうだよね。木場の部下の青木と言います」

「もしかして・・・・久遠寺家の」

「そうそう。しかし君が無事だったとは木場先輩も人が悪いよなぁ。
いくら捜索を打ち切ったとはいえ報告くらいはするべきだと思うんだけど。
にしても・・・なんか感じ違うね?失礼だけど――――喪服かな?」






この場に不釣合いな服に青木刑事は首を傾げていた。

昨日寝る前に化粧は落としたから、多少の雰囲気の違いは喪服のせいだと思ってくれたらしい。

頷いて母の葬式があったと告げると、少し視線をを下げてそっか・・・と呟いた。







「とりあえず木場先輩から君を中禅寺さんの所へ連れて行くように言われてるから、食べ終わったら行こうか」

「はい・・・・わかりました」

「にしても・・・やっぱり・・・・大人びた・・・かなぁ?」






事実を知らない青木刑事は不思議そうに私を見る。

まさかもう22なんです、とは言えず曖昧に笑う。







しばらく無言で朝食を食べて、その後二人で席を立った。

パトカーに乗ることは少し戸惑ったけど、青木が気にしてないようなので後ろの座席に乗り込む。

木場は今、どうしているのだろうか。

あの少女は・・・・どうして――――――





昨夜はあまり眠れなかったせいか、うつらうつらし始めた。

寝てはいけないと、流れる景色に意識を集中する。

やがて見た事のある景色がちらほらと見え始めて、パトカーは眩暈坂の下で止まった。









きっと昨日のことを京極堂さんは覚えてる。

なんだか・・・この坂を登る時はいつも迷っているような気がする。






―――――会うべきか―――――会わないべきか―――――








前を歩く青木に置いていかれないように足を進める。

躊躇する間もなく、京極堂に辿り着いた。











「中禅寺さん、いらっしゃいますか?」






だが青木の声に反応したのは店の主人ではなく、






「おー!こけし君じゃないか!昼間っから一体なんのようだ!」







人様の座敷でのうのうと寝っ転がっていた探偵だった。




















木場は戸惑っていた。そしてどうしようもなく困惑した。

同時に憤慨した。それが何に対しての怒りかすら分からなかった。

陽子の叫び声が聞こえる。

スクリーンの中の声とは違う、それは本当の金切り声だった。






忽然、と神隠しにでもあったように、










柚木加菜子はベットから消えていた。













美馬坂研究所の巨大の箱の中で、木場は何かが崩れていくのを感じていた。