美馬坂の研究所から救い出されたが病院が姿を消したという報が入ったのは、突然だった。

は保護されてからずっと目覚めることなく、眠り続けていたのだ。

何か美馬坂にされたのかと精密検査をしたが異常は見つからず、私達はただ彼女が目覚めるのを待っていた。

その結果もたらされた報に、私は慌てふためき、京極堂の細君が淹れてくれたお茶をこぼしてしまった。











「ああぁあああ、どどど、どうして!!」

「分かりません、関口先生!突然いなくなってしまったということで―――――」








慌てていたのは私だけではなかった。

その報をもたらした鳥口と青木もまた大層慌てていた。






「それで、木場は・・・・」

「木場先輩は今別件で連絡が取れなくて、もしかしてこちらにさんがいるんじゃないかと」





目が覚めて、此処に来た事を期待したのだろう。

だが青木と鳥口の望みはまぬけに迎えた私と京極堂に無残にも打ち砕かれてしまったようだ。






「少しは落ち着かないか、関口くん」

「こ、これが落ち着いていられるか!君はどうしてそう落ち着いていられるんだ!!」

「なんてことないさ。彼女が匣の外を選んだというだけの話だろう」





事もなげにそう言った京極堂の言葉を、私達三人はただ口を開けて聞いていた。

何を言っているのか、さっぱりと分からなかったからだ。






「恐らく彼女は懸命にも―――――匣の中を見なかったのだろうね。」

「は、はこ!はこ?」

「なんですかぁ!また箱ですか!?」

「中禅寺さんは、彼女の行方を知っているのですか?」







はこ、その言葉はもう聞きたくないくらいのトラウマになっている私と鳥口はまたばたばたと慌てた。

その中でさすがというべきが青木が刑事らしく、疑問の言葉を古本屋に向かって吐く。






「よくやった、と褒めてあげるべきだよ、青木君。次会った時にね」

「また会えるんですか?結局彼女は何者だったんです」

「さぁて、それは、匣の外を覗く勇気がなくては知ることはできないね」

「外?箱の中・・・ではなく、ですか?」

「そう。外、だよ」






そう言って、京極堂は煙草に火をつけた。

どうやら私にとっての謎は、結局謎のままのようだ。









「このこと聞いたら、木場修も榎さんも怒るだろうなぁ・・・」

「そういや、木場刑事は青木さんが教えるとして、榎木津探偵には誰が言うんです?」

「それは関口君の役目と決まっているよ、鳥口君」

「お、おい、京極堂!!なんで僕なんだよ、絶対嫌だよ」

「往生際が悪いね。大丈夫だよ。あいつだって分かってるさ」

「何をだい?」

「奇跡というものはね、関口君。全て現実に起こった事実なのだよ。
その現象が起こる前には確かに奇跡だが、起きてしまえばそれはただの事実であり、現実に過ぎない」









京極堂の口から煙が吐き出される。

それは風に攫われ、私の疑問の言葉と共に空へ消えてしまった。












「この世に不思議なことなど何もないのだよ。関口君」











































――――――――昭和27年9月22日。

逗子湾に金色の髑髏が漂着した。

何人かの人間かそれを目撃したが、それは波にさらわれてすぐに海の中に消えてしまった。














――――――――平成20年9月22日。

逗子湾に金色の髑髏が漂着した。

何人かの人間かそれを目撃したが、それは波にさらわれてすぐに海の中に消えてしまった。

その目撃者の中に、一人の女性がいたことを、














今は、まだ、誰も知らない。