コトン、コトン、規則正しく揺れる電車の音はまるでゆりかごの中のように心地よかった。

すっと瞼を開く。

随分と寝てしまったようだ。

どうして、私は寝ていたんだっけ。







電車の中には私以外に一人しかいない。

は、懐かしい景色が流れていく窓をしばし眺めて、ふと向かいに座る男性を見た。







その男は随分楽しそうに箱を抱えて座っていた。

時々こしょこしょと話し声が聞こえる。

その様子は大好きな女の子と話している小さな男の子のようだとは素直に思った。








あまりに見過ぎただろうか。

男性が、ふいに顔を上げ、にっこりと笑った。








「ご覧になりますか?」







その言葉が何を意味しているのか、分かるのに数秒を要した。

彼が言っているのは、どうやら箱の中のことのようだ。









「きっと、彼女も喜ぶと思うから」










そう言って、木の箱の蓋を少しだけ開けて男は覗きこみ、またひそひそと何かを言った。

まるでその箱の中に誰かが入っているようだ。

彼女、とは人形か何かだろうか。

首を傾げると、やはり男は頬笑みながら、手招きをする。










「どうぞ、こちらへ」










その言葉に半分ほど腰が浮きかけた時、聞き慣れた駅の名前が聞こえた。

はっと、振り返り、窓の外を見る。

それは何日かぶりかの、平成の町並みだった。










「どうかしました?」








男はどこか悲しそうに、私を見る。


















―――――――――――――――――――――――――箱の、中には、




















―――――――――――――――――――――――――箱の、中には、何が在る?



















「いいえ、私は結構です」













その言葉を吐いた後、どくどくと心臓が脈打つのが分かった。

見たい、と一瞬でも思ってしまったから。

でも覗いてはいけない。なぜか、そう思った。













「そう、ですか―――――、それは残念です」












男は怒る風でもなく、ただ、やっぱり悲しそうに目を伏せて、箱の蓋を閉じた。

古くさいアナウンスが聞こえて扉が開いたのと同時に外へ飛び出す。

そこは想像した通り、見なれた近代的な駅で、躊躇することなくある場所へ向かう。

はぁはぁとみっともなく息を乱して、それでも走った。
















走った先には、真新しい墓があった。

墓石の前には少しだけひなびた菊の花が供えてある。

それは私がこの世界から離れていた時間を示していた。












「ただいま、母さん」












まだ優しかった頃の母が脳裏を過ぎる。

自然に音となった言葉を、小さく呟く。

その問いに答えるものは誰一人としていない。

少しだけ、それが哀しい。














「ありがとう、母さん」












白いワンピースの女性を思い出す。

私が哀しげに揺れた表情しか見たことがなかったけれど、私はあの時、彼女の最後の言葉を確かに聞いていた。

落ちる瞬間、囁かれたあの言葉を、
















『愛しい子。愛して、あげたかった』


















風が静かに流れ、白い花びらをそっと空へ運んでいく。

それはあっという間に光の渦となって消えた。

















「私は愛されていた。かけがえのない二人の母親に」














零れ落ちる涙を拭い、歩き出す。

大丈夫、と優しい声が、聞こえた気がした。