匣の中には探しものがあった。 それを木場が抱きしめた時、京極堂の憑き物落としが始まった。 それはまるで出来の悪い小説のように現実味のない言葉の羅列だった。 不幸な半生を過ごした、ようこ、など私には興味がない。 私が興味があるのは、あの、夏の、少女、 姑獲鳥となった女だけなのだから。 京極堂が物語を静かに語り始めた。 皆それに静かに耳を傾け、時折木場の怒声や美馬坂の反論が、まるでタイミングを外した打楽器のように私―――関口の耳に響いた。 なんてやかましい音なんだろう。 耳につく何もかもがうっとおしくて頭を振りながら、一歩、また一歩と鉄の箱に近づいていく。 が入っていた木の箱の、隣にそびえる鉄の箱。 さっき京極堂が示した鉄の箱の中に何があるのか、私はどうしてもそれを確かめたかった。 ふつふつと沸騰しかけの湯の気泡のようにだんだんとその気持ちは大きくなって私の足を動かしていく。 涼子の姿は消えていた。 それは一瞬だった。 ――――――確かめなければならない。 匣ノ中二ナニガ在ル? 今この場は京極堂の独壇場だ。誰、一人として私を咎めるものはいない。 ようこの甲高い声が聞こえる。何かをヒステリックに叫んでいる。 女が怒る声は嫌いだった。 私の居場所を無くす声だから。 音など、今の私には必要のないものだ。 あと、少し・・・・・ あと数歩でと木場の横に並ぶ。鉄の箱の目の前だ。 血がどくどくと逆流する音が聞こえるような気がした。 早鐘、など生易しい表現ではなく、まさしく金づちで身体を殴られているような、動悸。 あと、ほんの少し・・・・ 鉄の箱に手を伸ばしたところで、私の身体はいとも簡単に吹き飛ばされてしまった。 「な、なんだ・・!?」 「関口!・・・・もう止めないか教授!!!」 あまり聞くことのない京極の叫び声に私は、あ、と声にならない音を発した。 逆上した美馬坂が、木場からいまだ目覚めぬをひったくった、いや、奪い去ったのだ! 「!!てめぇ、なんのつもりだ!!」 「中禅寺。私は貴様の忠告など聞くつもりはない」 「おとうさん・・・・・」 「陽子、私と共に来い!お前を、私も愛してしまった――――・・・・・」 を腕に抱いて、陽子に手を差し伸べる。 それは語り手のいない無音映画のようだった。 陽子はその手を取る。 木場の静止も意味を成さない。 陽子と美馬坂の手が重なる、その刹那だった。 箱が、開いた。 匣の建物の中に響いていた重低音が止まる。 静寂の中、ギギギと鉄が擦れる音がし、 訳の分らぬ液体が溢れ出し、色とりどりのチューブが床に散乱する。 匣の中を私は、 見た。 |