点と点で繋がった何かが見えてくる・・・・はずだった。





だが聞こえてくるのは何故か・・・・・。









沈丁花怪奇談











木場は得心がいかぬように眉を顰めた。

だがそれとは裏腹に目の前の三人同様、手だけは動いている。

所詮空腹には勝てぬのだ、人間というものは。






「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」







ひたすら蕎麦を啜る音が聞こえる。

メシを用意しろと言ったのは木場である。

が、何故こんな状態で食べ飽きた蕎麦屋の蕎麦を食わねばならぬのか。





関口はあまり食欲が無さそうに、箸をどんぶりの中で掻き回している。

京極堂は不機嫌そうに、いかにも不味そうに蕎麦を啜っている。

まだ口を開く気配はない。

はそんな二人を交互に見ながら、緊張気味に蕎麦を口にしている。

木場と目が合うと困ったように苦笑した。






木場は最後の汁まで残さず飲み干すと、音を立てて丼を置く。

丁度京極堂も食べ終わったようで、手元に箸を置いた。








「で、久遠寺家はどうだった」





まだ二人食べ終わっていなかったが、構わず木場は京極堂を見た。

どうせ京極堂の独壇場だ。








「どうもこうもないよ」





だが口を開いたのは関口だった。

結局食べる気が無いのか、伸びきった蕎麦に手も付けず溜息を付く。



「突然訳の分からない事を言って、庭へ駆け出して行ったと思ったらそのまま帰っちゃったんだよ」

「そんなもん、いつもの事じゃねぇか」


榎木津という男に関してはそれはさして珍しい光景では無い。

付き合いの長い木場や関口なら尚更である。




「違うんだよ、それが――――」

「関口、君はちょっと黙っててくれないか」





だが結局不満すら言わせて貰える事もなく、京極堂の言葉に関口は閉口した。






「この事件は箱の中にいる限り解けない」

「あん?」

「内側にいる限り解けないですよ。そういう仕組みだ」

「そりゃ・・・・久遠寺家の事か?」

「それだけじゃない。警察も我々もこの事件の関係者そして犯人すら皆内側にいる。
外側にいるのは一人だけだ。そして榎木津はその外側を見た・・

「?」





関口は意味が分からず、木場と京極堂を交互に見た。

木場は顔を怖がらせた。無意識に煙草を取り出し火をつける。







「そりゃ・・・・礼二郎の妙な力のことか」

「そうです。そして本来外側を見る事が出来るのは榎木津一人のはずだった。
けれどもう一人・・・・存在してしまった。
それが物語を狂わせしまったんですよ」

「・・・・・犯人の筋書きが狂ったってことか?しかし犯人も箱の中にいるんだったら、外側にいる人間ってのは何者だ?
黒幕でもいるってのか。そもそもその外側ってのはなんだ」



木場が苛々したように煙草を咥える。

京極堂は一度目を伏せ、視線を一瞬だけ横に流した。

の瞳が揺れる。彼女は顔を伏せた。

関口には何故京極堂がを見たのかわからない。








「前にも言ったでしょう。我々にそれを知る手段はない。
おそらく知ってはいけないのだ。この世のことわりの内にいる限りは」

「お前ェさんの言う事は抽象的すぎんだよ。こっちは古本屋の抗弁聞きにきたんじゃねぇんだ。 関口、お前久遠寺家に行ったんだろう。最初から聞かせろ」

「えぇ?ん・・・んんと・・・・」

「関口の話など聞いてもなんの参考にもならないよ」

「ああ?聞かねぇわけにもいかねぇだろうが。第一まだこの娘と久遠寺家の関係を聞いてねぇぞ。関りがあるんだろ」

「さてね。予測する事は出来るがそれは真実ではない」

「予測出来てるならいいだろ。こちとらその予測すら出来てねぇんだ」

「今はまだ話す時ではない。それより捜査の方はどうだい?」

「ああ、そりゃ・・・・おい、関口、ちょっと席外せ」

「え?」

「気が利かないね、君も。君と隣の部屋でラジオでも聞いてたらどうだい」

「ああ、そうか・・・・」








そうか、と言いながらも実はよく分かっていなかった。

事件のことを彼女に聞かせたくないという事なのだろうが・・・・私も木場と同様、彼女と久遠寺家の関係は分からずにいるのだ。

そもそも関係というものは一方的では成り立たない。

ならばも彼らを知っている事にはならないだろうか。



とにかく立ち上がって、隣の部屋の襖を開ける。

関口に続いてが部屋に入って襖が閉められた。

なんだか気分が悪い。これじゃまるで囚人のようだ。






聞く気のないラジオを付けて私は彼女の横顔を見た。

久遠寺涼子とは違う意味で私はこの少女に不安を覚える。

何かを。この少女を見ていると何かを思い出しそうになるのだ。












初めて会った時の。

あのセーラー服に白い肌の。

長い髪が風に揺れて―――――

















――――――遊びましょう














私の手が無意識にその 白  い    へ    び     た








ああ、  私は――――――――っているのだ










少女の脅えた表情に私は哂った。