遠出していた影慶から土産に珍しいハーブティを貰った。 スィートドリームという睡眠効果のあるハーブクラフトだ。 影慶は適当に選んだだけだと言っていたがそうそうあるものではない。 同志に感謝しつつ、一人で飲むのは勿体無いと二人分のハーブを秤にかけた。 乱レ咲イテ、紅キ華「センクウ・・・・さん!?」 思わず悲鳴を上げそうになった。 だって、学校から帰ってあと五分で家、ってところで一人の男性が立っていた。 特徴的な髪型に黒いジャケットの中から垣間見える逞しい筋肉。見間違えるはずがない。 でも、どうして彼がここにいるのかなんて心当たりはまるでなくて。 思えば会うのはあの・・・夏祭りの夜以来。 頬に触れた、あの感触を思い出しそうになって慌てて頬を押さえる。 「久しぶりだな」 そんな私の傍に、まるであの夜のことなんて忘れてしまったかのような笑顔で、笑う。 意識しているのも頬が紅いのも私だけのようで。 「どう・・・したんですか?」 「珍しいものが手に入ってな。俺の周りに紅茶を楽しむ趣味を持つ者は少ないからな」 そう言って見せてくれたのは、ビニール袋に入っている紅茶の葉。 それがすぐにブレンドされた葉だと分かったのは以前センクウさんに教えてもらったから。 「それでわざわざ?」 「ああ、迷惑じゃなければ少し付き合わないか」 似合わない仕草で遠慮がちにそう言う。 断ることなんて、出来るはずがないのに。 確信犯なのかどうかイマイチ読めない。 いつまで経っても不思議な人。 「じゃあうちに来ますか?」 「いいのか」 「今、ちょうど誰もいないんです」 結局誘惑に負けて、彼を家に誘った。 祖父も出かけているからいつも賑やかな道場も今日は静かだ。 誰もいない、と自分で言ってドキっとした。 それをごまかすようにポケットから家の鍵を取り出す。 何処に通すか迷って、結局自分の部屋に案内してしまった。 うちの道場以外には来た事がないセンクウさんは物珍しそうに私の部屋を見回している。 センクウさんに頼まれたティーセットとポットに入れたお湯を持って部屋に戻ると、 私のベットの上に鎮座しているはずのぬいぐるみがセンクウさんの腕の中に収まっていた。 「セ、センクウさん!?」 「さわり心地がいいな、これは」 そう言ってビーズ入りのくまをふにゃふにゃと触っている。 笑いを抑えることの出来ない私にセンクウさんも笑みを零した。 「さて、紅茶、だったな」 「はい、そうです」 まるでここに来た目的を忘れていたかのように、センクウさんが私の手の中のティーセットに視線を移す。 ぬいぐるみを元の位置に戻して、紅茶の葉をスプーンで図ってポットに入れる。 その長い指先が動く度にドキドキしてしまう。 「さて、気に入ってもらえるといいんだが」 そう言って注いでくれた紅茶からは不思議な香りがする。 何かの花の匂いのようだけど、それが何かは分からない。 「飲んでみてくれ」 「はい」 香りを嗅ぎながら、ゆっくりとカップに口を付けた。 砂糖を入れていないはずなのに、ほのかな甘さが口の中に広がる。 「おいしい!」 「そうか。それは良かった。」 私が飲んだのを見届けてから、センクウさんも一緒にお茶に口をつける。 何気ない仕草に秘められた優しい想いに、少しだけ期待してしまう自分がいる。 しばらく、心地良い沈黙が続いた。 暮れる夕陽が、センクウさんの顔を紅く照らしている。 目蓋が、だんだんと重くなって、ゆっくりと――――・・・・・ 「?」 センクウが気づいた時には彼女は規則正しい寝息を立てていた。 座ったままのその、体制で。 睡眠効果があるものだが、紅茶ごときに即効性があるはずもない。 よほど疲れていたのだろうと、そっと彼女の身体に手を回す。 「無防備だな」 そんな彼女に苦笑を禁じえない。 二人きりの部屋で、何をされても文句は言えないのに。 けれど心の中でこんなチャンスを望んでいた自分も確かに居る。 己の中の醜い雄の本性を垣間見た気がしてセンクウは頭を振った。 やはり、彼女と自分とでは住む世界が違うらしい。 をベットに降ろし、そっと首筋に舌を這わせる。 襟元の見えるかどうかのギリギリの位置に、散らす紅い華。 その意味に彼女が気づいた時どうするかを想像して、冷笑した。 夕暮れが静かに二人を照らす。 まるで御伽噺のような、緩やかな時の中で。 センクウは隠し持っていた薔薇の花を一輪、彼女の枕元に置いてそっと部屋を出た。 誰にも渡したくはない、と。 センクウの心にもまた、独占欲という紅い華が咲き始めていたことを、 今はまだ、誰も知らずに ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 一応一話完結のつもりですが、結局続いていたり。 なんだかセンクウが増えそうな予感です。 |