どうせならばやはり男児がいいと思っていた。

けれど生まれてみれば、どうだ。

まるで天使のような笑顔に、もみじのような小さな手。

抱きしめれば壊れてしまいそうで、しばらく抱くことさえ怖かった。









愛しい、とその意味をようやく知った気がした。













影慶さん家の家庭の事情














男塾OB死天王の将、影慶。

現在防衛庁長官・大豪院邪鬼の秘書をしている38歳。

妻に先立たれ、娘の一筋で生きる男は悩んでいた。

実は、どうしても仕事で香港に行かなくてはならなくなったのだ。

期間は一週間。当然娘を連れて行くわけには行かない。




さて、どうするか。






センクウは今ロンドンで暮らしているし、羅刹はこの間から出張でパリへ行っている。

卍丸はこの間、を学校から勝手に連れ出しネズミーランドに行った挙句、連絡の一つも寄越さないという暴挙を犯したので問題外だ。

誘拐かと案じた邪鬼があやうく軍隊を使ってを探そうとする騒ぎになり、そのせいで仕事は全くはかどらなかった。


家政婦に任せるという選択もあるが、生活面はともかくボディーガードという意味合いでは全く頼りにならない。





しばらく考えて携帯を取り出した。

男塾の面子の番号を上から順に流していく。

た行でぴたりと指が止まった。






「こいつにするか・・・・」







影慶はディスプレイの『伊達臣人』の箇所で通話ボタンを押した。





















伊達臣人、男塾元一号生筆頭及び元関東豪学連総長。

現在泣く子も黙る伊達組組長をしている男は、己の部屋へ入る直前で足を止めた。

どうにもおかしな氣を感じるのだ、まるで幼子のような小さな氣。




まさかな・・・・




そんなはずはない、と首を振る。

此処には良くも悪くも世の中からはみ出した男達しか居ない。

気のせいだと己に言い聞かせ、障子を開けた。







「おかえりなさいませ、組長」

「おかえりなさいませ」

「あん!?」






いつものように伊達を出迎えたのは月光と雷電。

それはいい、問題はその横だ。

二人が放った言葉を真似するように舌足らずな可愛らしい声がした。




「おかえりなさいませ、くみちょ」

「なんだ、この餓鬼は」






畳の上に胡坐をかいて座っている月光の膝の上に小学生らしき少女がちょこんと座っている。

もちろん三面拳の二人に子供などいない。

白いブランスに上品なピンクのワンピースを着た子供はとても組員の子には思えなかった。





「影慶殿の一人娘だそうだ」

「可愛いでござるな」




膝の上の少女の頭を雷電が撫でた。

強面の男達に囲まれても怖がることもなく、撫でる手に気持ちよさそうに目を細めている。

なるほど、確かに可愛らしい。

伊達には子供など全て同じように見えるが、それでもこの少女は特別愛らしく見えた。



「本当に影慶の子か?」

「それは影慶殿に失礼だろう」

「まぁ、気持ちはわかるでござるが。きっと細君に似たのでござろう」



とりあえず月光の隣に腰を下ろすと、興味津々といった様子でこちらを見上げてきた。

大きな瞳がくるくると動く。




「で、なんで影慶の娘が此処にいる?」

「影慶殿が邪鬼殿と出張している間預かって欲しいそうだ」

「ああ?死天王はどうした?」

「センクウ殿と羅刹殿は今日本に居ず、卍丸殿はしばらく影慶家に出入り禁止だそうでござる」

「・・・・・どうせロクでもねぇことしたんだろ」

殿を無断で連れ出して遊びまわってたそうだ」

「・・・・・ロクでもねぇ」




ため息をつきながら、娘の頭を無遠慮に撫で回した。

まるで猫の子のように、その腕に擦り寄ってくる。



「おい、っつったか」

「はい、だてくみちょ」

「メシ、食いたいもんあるか」

「はんばーぐがたべたいです!!」




伊達の言葉にはい!っと手を上げて答える少女に三人の顔も思わず綻ぶ。

伊達は外で控えていた若い衆に板前を呼びに行かせた。





「お呼びでしょうか、組長」

「今夜の夕メシはハンバーグだ」

「はっ!?しかし組長は和食しか召し上がらないのでは!?」

「うるせぇ!!さっさと行きやがれ!!」




伊達が怒鳴ると板前が慌てて廊下を走っていった。

それと同時にの身体が大袈裟なまでにびくっと震えたのを三人は見逃さなかった。

月光がの頭を優しく撫でる。



「怖がることはない」

「くみちょ、わたしはんばーぐじゃなくてもいいよ・・・?」



不安そうにこちらを見上げる様は小動物を思わせる。

今まで子供と接する機会などなかった伊達は悩んだ末、月光を真似てなるべく怖がらせないようゆっくりとした動作での頭に手を置いた。


「たまには俺だって違うもんが食いてぇんだよ」


同じモンばかりじゃ飽きるだろう、と言うとの顔が途端に明るくなった。

月光の膝の上から伊達の方へ腕を伸ばしているにどうしたらよいか分からず二人を見る。




「抱いてやれ」

「伊達に懐くとはさすが影慶殿の娘ござる」




言われたとおりその腕を取り抱いて膝の上に乗せると、重みなど微塵も感じない代わりにほんのりと心地良い温かさを感じた。

影慶や死天王の親ばかぶりを笑ってはいられなくなりそうだと苦笑する。

やがて疲れたのか腕の中で眠り始めたを、伊達はそっと抱きしめた。

















その影では


「ふふっ、私の勝ちですね桃!」

「絶対伊達は落ちないと思ったんだが!!」

の可愛さを甘く見てはいけませんよ」

「あの邪鬼先輩が陥落したくらいだからな・・・」

「さぁ、とっとと5万払いなさい!!」

「くそ、絶対Jvs 赤石先輩で取り返してやる!!」



壮絶な賭けが繰り広げられてことを影慶も伊達も知る由が無い。












次回J vs  赤石 どっちが落ちるか対決(笑)














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この時煌鬼は鐘の中(笑)
J vs  赤石は需要があれば