知らないことなんて、一つもないような顔をして。





実は、世間知らずなんじゃないかと、










その様が可愛いなんて、口が裂けても言えないけれど。













物知り長者の意外な盲点














放課後の図書室。いつも聞こえる騒がしい声も、ここでは聞こえない。

文武両道の看板を、一応は掲げている男塾だけれど。

大分、『武』の方に偏っていることは言うまでもなく。

読書の秋に関わらず、ここには雷電と学校帰りに寄った私しかいなかった。












「あ、」






パキっ、と嫌な音がした。

分厚い英語の辞書を取ろうとした瞬間。


思わず眉を寄せた私に、長机に座り本を読んでいた雷電が何事かと顔を上げた。




「如何したでござる?」

「ううん、なんでもない」



とは言っても雷電は目聡く私の指の変化を見つけていた。




「爪が折れたのでござるな」

「うん、みたい・・・」

「このままでは危なかろう。爪切りを借りて来るでござる」

「え、いいよ、雷電」





学ランを翻して、何処かへ行こうとした雷電の袖を引っ張った。

私の力なんかで引き止められるはずもない身体は、それでも私の声に反応して止まってくれる。





「家に帰ってからで、大丈夫だから」

「そうでござるか?」

「うん、だから、」

「しかし殿の爪はおかしな爪の色をしているでござる。何処か具合でも悪いのではござらんか?」

「え・・・・・」







私の手を取って。

本当に、本当に真面目に、且つ心配そうな雷電。

その私の爪には、校則違反の淡いホワイトのマニキュアが薄っすらと塗られている。






「雷電、これマニキュアなんだけど」

「まにきゅあ?」

「・・・・・・・知らないの?」

「聞いたことがないでござるな。殿の爪はまにきゅあというものなのでござるか?」





何か珍しいものを見たとでも言うように。

私の爪の先をじっくりと、見つめる雷電。

物知りな雷電が、まさかこんなことを知らないなんて。

信じられないような、妙に納得してしまうような。






「私の爪がマニキュアなんじゃなくて、マニキュアを爪に塗ってるの」




これ、と鞄の中からマニキュアの小瓶を取り出してみせる。

するとまた、珍しそうにまじまじとそれを見つめる雷電に、噴出しそうになるのを必死で堪えた。





「塗ってみる?」

「これを塗るとなんの効果があるのでござる?」

「効果って・・・んと、オシャレ効果があるのでござる」




雷電の言葉を真似ながら、マニキュアのビンを開けた。

ツンとする匂いに、雷電が一歩後ずさる。その手を捕まえて。




左手の小指にちょっと、悪戯をした。
























「おや、雷電どうしたんです、その爪」

「ふむ。なんでも”おしゃれ効果”だそうでござる」

「・・・・ああ、ですか?」

「どうして分かったのだ?」

「そんな可愛らしいもの持っているのはだけでしょうに」

「そうでござるか。して飛燕、どこら辺がおしゃれ効果なのでござろうな?」

「そんなもの上げてどうするつもりなんです、貴方は」

「・・・・・・・・」











二日後、再び訪れた男塾の図書室で真剣にマニキュアの落とし方を聞かれてしまった。

さて今度は何を持ってこようか。












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ヒロインの設定は考えてません。
まぁ、塾長の孫で出入りが許されているとかそんな感じで(適当)
自分の中では月光&J=癒し系 雷電&富樫=母性本能くすぐる系。