迫り来る炎よりも熱く強い瞳を見た時から囚われていたのだ。 賭けなどしなくとも最初から。 賭け 1.55邪鬼と賭けをしてから、一ヶ月が過ぎた。 元々常人より体力のある身体は少しずつではあるが回復に向かっている。 まだ一人では歩けないが、それも時間の問題だろう。 一度は死を覚悟した身でありながら、こうも穏やかに時を過ごしている自分を不思議に思う。 瞼を閉じれば浮かぶ顔は一つで、ベットのすぐ横にはその男が持ってきた花が飾られている。 「本当に物好きな男だ・・・・・」 何を考えているのか全く想像がつかない。 初めは、やはり慰み者にされるのかと思った。 けれど男にそんな様子はなく、ただ普通の男が愛しい女にするようにの髪を撫でる。 その顔はが調べ上げた男塾総代としての大豪院邪鬼とは違う、表情。 決してそれ以上はせず、けれど眠っている時に邪鬼が自分の額に唇を落としていることを知っていた。 ただほんの少しだけ触れる温もり。 もどかしい。 いつからそう思うようになったのか。 いつの間にそうなってしまったのか。 その答えが出ることは、きっとないのだろう。 男の足音が聞こえ、は目を閉じた。 ドアが開く音、近づく足音、輪郭を確かめるように触れる指。 いつものように慣れた仕草で髪を撫で、そして額に感じる熱。 その心地良さに、は静かに眠りに落ちた。 目が覚めた時、すぐにいつもと違う場所だと気付いた。 白い天井がない、壁がない、邪鬼が絶えず持ってくる花の香りがしない。 人の気配を感じ、咄嗟に構えを取る。 あちこちが痛んだが、そんなことは関係がない。 「気が付かれましたか、様」 「誰だ貴様は!!!」 目の端に移った影、それは男のものだった。 急激に動いたことで霞む目を凝らし、男の顔を見る。 それは邪鬼暗殺の依頼主から受け取った資料の中にあった顔だった。 男塾死天王の将、影慶。 聞き間違いでなければ、男は自分の名を呼んだ。 しかもご丁寧に敬称付きで。 事実上男塾ナンバー2である男が、自分を様付けで呼ぶ理由は一つしかない。 ここは邪鬼の支配下にある場所だということだ。 「ちっ・・・・!」 その事実に気付いて気が緩んだのか、途端に身体の痛みにベットの上で疼くまった。 無理な体勢で構えを取ったせいで骨折している足に体重を掛けてしまったようだ。 「大丈夫・・・・ですか」 男は戸惑ったようにに声を掛けてきた。 否、明らかに不信感を持っている。 それでも馬鹿丁寧な言葉遣いを止めないのはおそらく邪鬼に何か言われたせいだろう。 「あの男はお前になんと言った」 「はっ?」 「邪鬼はお前に私のことをなんと言った!!!」 痛む足を抑え叫ぶと、男は全面に不信感を表した。 「邪鬼様は貴様を嫁だと言っていたが、どうやら違うようだな」 「嫁だと?よくもぬけぬけと馬鹿なことを・・・・」 「どういうことだ」 「私は勝手に連れてこられただけだ。文句ならあの男に言え」 「なんだと!!」 が再び拳を構えたのと同時に、影慶も殺気を放った。 「何事だ」 その殺気に誘われたように、現れたのは邪鬼本人だった。 影慶は慌てて殺気を抑える。 「、怪我が悪化する。止せ」 「貴様なんのつもりだ!!私をどう・・!?」 が邪鬼に向かって凄まじい殺気を放った瞬間、影慶はとっさに背に隠されたナイフに手を伸ばした。 だがそれは邪鬼の凄まじい眼光によって、阻まれる。 決して有無を言わせぬ、王者のそれに影慶はその手を力なく下ろした。 邪鬼はの殺気を全く気にする様子もなく、その身体を抱え上げた。 女も予想外だったようで、目を見開いている。 赤子を抱くように至極丁寧に女を抱く邪鬼の表情は、まるで警戒心がない。 「その威勢の良さは好きだが、今はまだ大人しくしていろ」 「貴様!こんなところに連れてきてどういうつもりだ」 「ふっ、そうだな。それもゆっくりと話さなければならんな」 「とにかく下ろせ!!」 邪鬼はその言葉にゆっくりと女をベットの上に下ろした。 そしてそのまま女の身体に覆い被さるようにベットに横たわる。 「じゃ、邪鬼様!?」 「おい!!なんのつもりだ!!」 影慶と、女の声が重なった。 邪鬼はその様におかしそうに笑い声を上げる。 「影慶・・・席を外せ」 「はっ、失礼しました!!」 邪鬼の声に我に返った影慶は慌てて邪鬼の部屋から飛び出た。 そのまま廊下を走り、外へ飛び出す。 その足は止まることがなかった。 女の事で一つ分かったことがある。 それは、あの女は邪鬼の嫁ではなく、 邪鬼が惚れている女だということだ。 「俺は認めない」 そう呟いてみても、何の意味もないことは影慶自身が一番よく知っていた。 ------------------------------------------------------------------------ 他のメンバーの話も書きたいですが・・・・・どうでしょう。 |