私の学校は伝統的な女学校だ。

規則は厳しく、今時セーラー服に茶髪は厳禁、そんな学校。


その学校の校則にこんなものがある。







一、男塾には近寄るべからず








なのにどうしてこんなことになってしまったんだろう。








そして私は貴方と出会う












事の発端は二日前、学校からの帰宅の途中に自転車で転んだことが始まりだった。

別にどこかにぶつかったわけでも、何かが急に飛び出してきたわけでもなく、

普通に走っていた時にガチャン!と大きな音がして、思いっきり転倒してしまったのだ。



「いったぁい!!」



自転車と一緒に道路に投げ出された私は、思いっきり膝を打って地面に蹲った。

そして自転車よりも先に辺りを見回す。周りには誰もいなくて、ほっと胸を撫で下ろす。

こんな派手な転び方、誰にも見られたくない。





「うわ〜〜〜チェーン外れちゃってる」





さっきの大きな音はチェーンが外れた音らしく、それなりに使い込んでいた自転車は自分の手ではとても直りそうになかった。

とりあえず家に帰ろうと、自転車を起こそうと立ち上がる。




「痛っ!」




足に体重をかけた途端、膝がズキリと痛んだ。

見れば両膝から血がだらだらと出ている。これはちょっとすごく痛いかもしれない。

しばらくスカート履けないなぁ、なんて見当違いなこと考えながらどうしようかと地べたに座り込む。




「大丈夫か?」




その時、ふいに頭の上で声がした。

そこには男塾の青い長ランを着た髭の生えた男の人が一人。

私と自転車を交互に見て、事態を察したのかその場に座り込む。




「ふむ・・・これは道具無しでは直せそうにないな」




大きな体躯にかなり迫力のあるどう見ても20代後半の男。

男塾は世間では不良の集まりだとか暴力団の予備軍だとか言われていて、学ランも学校の制服と言うよりは軍服に近い感じがする。

時々見かける生徒らしき人間はみんな強面で年齢不詳。

噂では日夜塾生同士で殺し合いをしているとか、外からも見える校庭には死体が埋まっているだとか怪談話にも似た噂話が絶えない。

そしていつの間にか加わった校則。






一、男塾には近寄るべからず







そんな校則作らなくても近寄る人間なんていないだろう、と思っていたけれど。

今、私の目の前で私の自転車を起こして、私に手を差し伸べてくれている人は明らかに、男塾塾生。





「立てるか」

「えっと、だ、大丈夫で―――」

「無理をするな」




彼の言葉に慌てて顔を横に振ると、少し彼は眉間に皺を寄せてそれから私の腰に手を回してぐっと持ち上げた。

驚きの言葉が出る間もなく、自転車を逆さにして左肩に担ぎ上げ、私の身体をそのまま右腕で抱えあげる。





「え、え、え、あの!!」

「家はどこだ」

「あ、あの、あの、だ、大丈夫ですから!!」

「その足では歩けまい。家は?」





あまりに近い顔と顔との距離に息を呑む。

特徴的な口髭に、少し感じる男性独特の汗の匂い。

私を右腕で抱っこして、その上左肩に自転車を担いでるのに全く辛そうに見えない。

諦めて、住所を言うとすぐに男は歩き出した。

このまま、行くつもりなのかと思うと恥ずかしくてたまらない。

彼の首に縋り付くわけにもいかず、自分の制服の胸元をぎゅっと握り締めて顔を伏せる。

家まで辿り着くまでわずか十分。

彼は一言もしゃべらず、私は息すらままならず、二人無言のまま家に辿り着いた。

























羅刹は彼女が自分の制服の胸元を握り締めているのを見た時、少しだけ後悔していた。

怪我をしている女を見て、咄嗟に抱えあげてしまったことを。

男塾に在籍してもう何年になるだろうか。

最上級生として後輩の面倒を見ることに慣れきってしまったからかもしれない。

つい、女だということを忘れて片手で抱えあげてしまったのだ。まるで、赤子のように。

男塾の人間が世間でどう思われているか、羅刹はよく知っている。





怖がらせただろうか。






そんなことを考えても、今更どうしようもない。

女相手に話すことなど思いつくはずもなく、女も顔を上げる様子もない。

対して重さも感じない柔らかな身体を意識にしないよう、羅刹は自転車を抱えている左肩に意識を集中させた。







十分ほど歩いただろうか、女が急に顔を上げた。

目が合うと、白くて細い喉がか細い声を搾り出す。






「あの・・・家・・・・・」

「ここか」





目の前には小さな一軒家があった。

肩の上の自転車を下ろし、女をゆっくりと地面に下ろす。





「あの、ありがとうございました」

「いや、こちらこそすまなかったな」

「え?」

「怖がらせたようだ。すまん」







そう言うと、何かひどく驚いたように、女の目が見開かれた。

一瞬の沈黙の後、彼女が慌てて首を振る。




「違っ!あの、本当に、ありがとうございました!!」




まるで怖がってなどいない、と主張するように女は初めて羅刹を真っ直ぐ見据え、深々と頭を下げた。

羅刹は一呼吸置いてから、歩き出そうと踵を返した。

と、女の手が羅刹の制服の袖を掴んだ。




「・・・・? どうした」

「これ、あの、お礼にもならないんですけど、もし良かったら!!!」


女が羅刹に渡したのは、甘い匂いのする袋だった。



















「お、羅刹、何食ってんだ?」

「卍丸!・・・・・お前には関係ない」

「そりゃクッキーか?もしかして手作りかよ?」

「う、うるさい!馬鹿者!!」

「どこの女に貰ったんだ?お、うめぇな」

「食うな!!!消えろ、失せろ!!」

「おい、センクウ、影慶!羅刹がうめぇもん持ってるぜ」

「卍丸、貴様ぁ!!!」























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11111HIT キリ番叶様の近所に通う女子高生と羅刹を書かせて頂きました。
書きたかったのは、女慣れしてない羅刹とごく普通の女子高生。
ありきたりだけに難しくて、時間が掛かってしまいました。お待たせして申し訳ありませんでした。