「月光・・・・何やってるの?」 それは心地良い風が吹く何気ない日常。 光男塾校庭を歩いていると強い風が吹いた。 その中で月光が一人、上を見上げていた。 何気ない風景が不思議に思ったのは月光が盲目なのを知っているから。 「殿か」 「何か、いるの?」 「うむ、雛鳥のようなのだが」 そう言われて月光の視線を辿り上を見るが、あるのは大きな大木だけ。 右往左往に伸びた枝の先には緑色の葉が青々と茂っている。 「鳥・・・・いるの?」 「先ほどから鳴き声が聞こえるのだが・・・少し様子が変でな」 「声・・・?」 言われて今度は耳を澄ませてみる。だが、何も聞こえず。 前に雷電が月光は盲目である分、耳や鼻がよく利くのだと言っていたことを思い出した。 「殿、頼みがあるのだが」 「なに?」 「飛燕を呼んできて欲しい。俺は木に登って様子を見てくる」 「うん、わかった。気をつけてね」 「ああ」 拳法の達人である月光にそんな心配は無用だと分かっているけれど。 私の言葉に月光は微笑しながら頷き、瞬く間に大木の上へ消えてしまった。 「ええと・・・飛燕!」 しばし大木を見つめて、それからすぐに校庭を走り出す。 校庭の外から、一号生の教室を覗くと思ったとおり飛燕と雷電がそこにいた。 後で怒られるかな?と思いながら、外から窓を開く。 「飛燕、ちょっといい?」 「!どうしたんです?そんなところから」 「月光が呼んでるの!一緒に来て?」 お願い、と胸の前で手を合わせてそう言うと、二人は顔を見合わせた。 「貴殿の頼みを断る者はこの男塾にはいないでござろうな」 「全くです」 ちょっと待っていて下さい、と教室を後にした二人はすぐに昇降口の方から顔を出した。 「あそこに月光がいるはずなんだけど」 そう大木を指差した瞬間、すっと月光が木から飛び降り着地したのが見えた。 三人で駆け寄ると、月光が顔を上げる。 「飛燕、ちょっと診てくれないか」 「月光、どうしたんです」 「これは・・・渡り鳥の雛でござるな」 「渡り鳥の雛が・・・・どうしてこんな所に」 月光の手のひらを覗くとまだ目も開けていてない雛鳥がか細い声で鳴いていた。 その白い翼は変色した黒い血で汚れている。 翼がえぐられているように見えた。 「カラスにでも襲われたのかもしれぬでござるな」 「おそらく・・・・飛燕、治せるか?」 「ええ、医務室に連れて行きます。雷電手伝ってもらえますか?」 「無論」 「お願いね、飛燕、雷電」 飛燕の手の中に移った雛鳥を見ながらそう言うと、二人は笑顔で頷いた。 残されたと月光は二人の姿を見送りながら、ぼんやりとそこに佇む。 「大丈夫だよね、あの雛鳥」 「ああ、飛燕に任せれば問題無い」 「月光優しいね」 「そんなことはない・・・・それよりも、」 月光が私の髪をさらりと撫でた。 永遠に光を見る事無い優しい瞳に私が映る。 「月光・・・?」 「そろそろ行った方がいい。独り占めすると後が怖いからな」 「独り占め・・・・ってなにを?」 「光を」 遠くで虎丸と富樫の笑い声が聞こえた。 月光の言葉に首を傾げる。 けれど月光は何も言わずただ微笑むだけだった。 「おおー!!お前さっき塾長が呼んどったぞ!!」 「ええ!?どこで?」 「さあの〜〜どこだったか・・・」 「意地悪しないで教えてよ!虎丸!富樫」 怒鳴るに虎丸と富樫が大笑いしている。 三人の遣り取りに月光も笑い声を上げた。 陽の光を見ることの叶わないこの目で見える唯一の光は、 独り占めすることなどとても出来そうにない。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 一号生だと一番月光が好きです。皆さん月光はお好きですか? お礼話なのに長くなってしまった・・・・。 |