夜明けにとても良い夢を見た。

の声が自分を呼んでる。

その温かさに、山崎は頬を緩めた。






幸せとその対価












徹夜明けで任務を終えた山崎は白む空を尻目に報告を終えて、自室に向かおうとしていた。

ほぼ二日寝ずにいた身体は、とてつもない疲労感を伴っている。

忍服もボロボロで、報告を無事終えたという安心感から気は既に夢の中へ飛んでいた。








部屋を開けると、布団が敷いてあった。

几帳面な山崎は布団を敷きっぱなしで任務に出ることなど在り得ないのだが、今はそんなことを不審に思う余裕もなかった。

覆面とはちがね、上着だけを脱ぎ、どさりと布団に身を沈める。

どうしてだか、温かい、何故だろう。

そんなことを考えながら山崎は眠りについた。























「きゃっ!」



突然感じた重みには跳ね起きた。

慌ててその正体を探すと、布団の上に誰かがのっている。



「だ、だれ・・!?」




慌ててその正体を確認すると、それはここ数日姿を見なかった山崎だった。




「や、山崎さん・・・・・」




寝ている。

どう考えても寝ている。それも覆面どころか上着まで脱いで上半身裸で。

他の幹部に比べて華奢だと思っていた身体は、細身ながらしっかりと筋肉がついている。

無防備に寝ているところを見ると、どう考えても夜這いにきた、という風でもない。

任務に出て屯所にいることが少ない山崎が見せる初めての姿に、は恐る恐る彼の身体に掛け布団を掛けた。




「疲れているん・・・ですよね」




諜報活動がどんなものかなどは想像もつかない。

そんな中で時折見せてくれる、山崎の優しさがは好きだった。

普段は鋭い視線も今は瞼が閉じられ、どことなく幼く見える。




「ゆっくり、休んで下さいね」





そう言いながら、自分もまた瞳を閉じる。

一つの布団に二人並んで、小さい頃父様とこんな風に寝たことを思い出しながら、もまた夢の中へと落ちていった。


























「起きろ、山崎ぃいいい!!」





自室で眠っていたはずの山崎は、怒号とも言える声に飛び起きた。

咄嗟に構えを取り、辺りを見回す。

と、何故か永倉・原田・藤堂・そして沖田と土方までもが獲物を手にして山崎の周囲を囲んでいた。



「な、何事ですか!!」



意味が分からない。

何故幹部が自分を取り囲んでいるのか。

隊の規律に反した覚えはない。

その時、困惑する山崎の横から、その場に似つかわしくない声が聞こえた。・・・・・・・同じ布団の中から。




「なんですかぁ〜〜〜んん〜〜〜眠い」



少し寝着が乱れ、目をこする姿は小動物のように可愛らしい・・・・じゃなくて。




君!?な、な、ぜ・・・・え?」




理解出来ない。

何故、が同じ布団に・・・・・いや、それよりも、




「てめぇ、裸でと同じ布団の中で一体、何やってんだぁ、あああ??」


土方の愛刀が山崎の眼前に突きつけられる。



「まさかちゃんを無理やり・・・!許せねぇぜ!!」


原田の槍が唸りを上げる。




「ふふっ、まさか山崎君に先を越されるとはね・・・・さすがに予想外かなぁ」



沖田の殺気に、藤堂が続く。



「そうだよ!烝君だけは安全だって信じてたのに!」


「こりゃあお仕置きどころじゃすまねぇぞ!覚悟は出来てんだろうなぁ!!」



永倉は完全に頭に血が昇っている。







「いえ・・・俺は・・・・・・」






そんなはずはない、と言ってもこの状況。どうしたって分が悪い。

恐る恐るを見れば、彼女だけはいつも通り笑っている。

どうやら彼女はこの状況がいまいち把握できていないらしい。


「良く眠れました?山崎さん」

「ああ、あの君、俺は一体・・・・・」

「もう、何皆さん怒ってるんですが?ほら、私着替えますから、外出て下さい」





そう言って全員を部屋から追い出すとぴしゃりと障子を閉めてしまった。

後に残されたのは殺気だった幹部と山崎一人。

殺伐とした空気の中、姿を現したのはさっき部屋にいなかった斉藤だった。

斉藤の姿を見、山崎はようやく話が出来る相手が来たとほっとしたのもつかの間。





「ああ、起きたのか、山崎君」

「あ、あの斉藤さん・・・」

「副長切腹の用意が整いました」

「御苦労、斉藤君」

「じゃあ介錯は僕がしてあげるからね!」





覚悟は出来たんだろうなぁ、と呟く鬼の副長と意気揚揚とした沖田、幹部に取り押さえられ道場に引きずられた。

誤解が解けて真実が明るみになるのは、それから半刻後、がようやく事態を把握し、説明してからのことだった。










それからしばらく、山崎は幹部の嫌がらせを受けるのであった。