は俺が護る」






それは至極当たり前なことだ。

生まれてからずっと傍にいた。

の隣にいるのは俺だけのはずだった。














手放せない












朝、バタバタと騒がしい足音で目が覚めた。

それは聞きなれた音。時計を見ずとも分かる、7時15分数秒前。

毎朝規則正しく廊下や台所を右往左往する足音の持ち主はあと少しで。

俺の部屋の襖を、開ける。






「おはよう、煌鬼!朝ごはん出来てるからね!」

「・・・・ああ」

「早くしないと遅刻するよ!」



「ん・・・・」






セーラー服の上にエプロンを付けたの腕を引く。

挨拶代わりに頬に唇を落とすと、も俺の頬に小さくキスをした。

いつもの、朝の光景。






バタバタと足音が遠のいて、俺はまた枕に身体を預けた。

目を瞑れば、鳥の声と、車の音と、の高い声が聞こえる。





『おはよう、お父様』

『おはよう』

『おはようございます、邪鬼お義父様』

『おはよう、





の話し声に、顔が緩んでいる親父と、義理父の顔が手に取るように分かる。

は己の父である大豪院邪鬼の唯一無二の仲間である影慶の娘だ。

この二人の父親は互いの子が男と女であったと知れた時、その子らを結婚させようと決めた。

いわゆる許婚というヤツだ。

親の勝手で決めたことなど聞く義理はないが、煌鬼はに惚れていた。

物心付いた時から傍におり、は自分が護るのだと当たり前のように思っていた。

男と女。それだけのことなのに何もかも違う。

身体はもちろんのこと、力も、価値観も。

己が成長する傍らで少しもでかくなる様子のないに昔は不思議に思ったものだ。

何故、こいつはこんなにも小さいのか、弱いのかと。

それが男と女の差と知った時、それが己の想いを自覚したきっかけだったのかもしれない。






互いに母親が早死にした身で、邪鬼の秘書をしている影慶が一緒に住むようになるにはそう時間は掛からなかった。

煌鬼が長きに渡る荒行を終え帰ってきた時、当然のように大豪院家に居たを、煌鬼もまた当然のように受け入れた。

一つ屋根の下、青年期に突入した煌鬼にとってそれは嬉しくもあり苦しくもある。

すぐ手に入れられる位置にいるというのに、触れられない。

なんと言っても最大の障害は男塾OBであり、娘を溺愛している二人の父親だ。


先ほど煌鬼にしたように、は父親達の頬にも挨拶のキスをしていることだろう。

特別ではあるが、それは家族という枠に括られたものであり、男としてではない。







「煌鬼?起きた?」






開きっ放しだった襖の間から再びが顔出した。

布団から出てもいない俺を見て、大袈裟にため息をつく。






「もう、起きてよ、ほら」

「ああ」

「私もお父様も、もう出かけるからね?」

「5分待ってろ」

「え?」

「・・・・・・・一緒に行く」







そう言えば、「そう?」と首を傾げる

布団から這い出て急いで学ランを羽織る。

着替えるのだと分かり、は玄関で待っていると言って廊下を走っていった。






着替え終わり、顔を洗っていると車のエンジン音が聞こえた。

父達が出かけたのだろう。正直顔を合わせたくない。どうせ小言を言われるだけだ。

用意されていた朝食を腹の中に流し込み、家政婦に後を任せる。

鞄を持つこともなく、玄関へ向かうとと男の笑い声が聞こえてきた。







「・・・・・・・・貴様何やっている」

「よう、大豪院!おはよう」

「おはようじゃねぇ!剣!!」

「何、怒ってんの、煌鬼?せっかく剣君が迎えに来てくれたのに」

(俺じゃなくて、お前をな!!)




そう叫びたいのを必死で堪えつつ、の腕を優しく自分の方へ引く。

その瞬間、獅子丸の目が鋭く光る。




(自分の彼女でもないのに、手握るなよな!!)

(許婚だ、文句あるか)

(ふっ、そんなもん関係ないぜ!)




水面下で繰り広げられる戦いの中で、は自分を呼ぶ声に気づいた。

振り向けば、職安に引っかかりそうな大刀を背負った赤石が立っていた。




「朝っぱらからうるせぇ連中だな」

「赤石君!おはよう」

「ああ、早く行かねぇと本当に遅刻するぜ」

「あ、本当!二人とも置いてくよ〜〜」

「構わねぇ。置いてけ、いっそ捨てろ」

「「待ちやがれ、十蔵(赤石)!!」」





さりげなくの肩に手を回した十蔵に獅子丸と煌鬼が大声で叫ぶ。

煌鬼は十蔵への制裁を獅子丸に任せて、を片手で担ぎ上げるとさっさと大豪院家の門を出た。







「三人ともどうしていつもケンカするかな」

「てめぇがフラフラしなきゃいいだけのことだ!」






時間を気にしながら立ち入り禁止の塀を飛び越えての学校へと急ぐ。

途中獅子丸と十蔵が追いかけてくる気配を感じてスピードをあげる。

一般人では到底出せないスピードにの腕が煌鬼の首に絡まる。









その互いに絡まる体温を心地良く感じながら、

やっぱり手放せねぇな、と

を抱く腕に力を込めた。






















一方、車の中からそんな四人の姿を目撃した邪鬼と影慶は、





「剣と赤石の息子か。どうするのだ、影慶」

「何人たりとも我が娘に手出しはさせません」

「ふっ、久しぶりに貴様の毒手が見れそうだな」

「邪鬼様こそ、まだまだ現役でしょう」


「「ふっふっふっふっふ」」



















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サイトを開設するにあたって一番最初に思いついたのが実はこのヒロインでした。ギャグ苦手なんですが書いちゃった・・・。
影慶の娘で煌鬼の許婚。今回いささか説明的になってしまいましたが、
今後はこの設定を使って煌鬼短編夢を書いていきたいと思っています。
ヒロインは護身術は身に付けていますが、痴漢を撃退できる程度です。
影慶と邪鬼様はこの娘が可愛くて仕方ありません。親子の会話も書いていきたい。