綺麗だと思った。

触りたいと思った。

抱きしめたいと思った。














初めて、
























男塾へ入塾して三ヶ月が経った。季節は既に紅葉の頃を迎えている。

特号生として入塾している煌鬼は、普段の授業にはほとんど出ない。

何をしているかといえば、三号相手に稽古をつけたりしている。






「退屈だぜ」



だがそれも、そろそろ飽きていた。

剣や赤石、骨のありそうなヤツは一号の授業でそれなりに忙しそうでもある。

そうなれば、頭に浮かぶのはのこと。

可愛い許婚はどこか抜けていて、ちょっとでも目を離せば悪い虫がくっついている。



「行くか」



学帽を被りなおし、時計を見る。

そろそろ普通の学校ならば授業が終わる頃だろう。

の通う女子高までは此処から目と鼻の先だ。

前に校門で待ち伏せたら恥ずかしいと怒られた。

勢いで途中までは走っていったが、交差点の前で立ち止まりしばし考える。

このまま待とう。

ちらほらとと同じ制服が見え始める。

人が行き交う大きな交差点にある店の壁に背を預け、しばし目を閉じた。














「煌鬼?」


それからどれくらい経っただろうか。

探していた気配が近づいてくるのを感じて、煌鬼は目を開けた。



「よう」

「どうしたの?こんなところで・・・・ケーキ食べたかったの?」

「ぁあ?」




会うなりおかしなことを言うの視線を辿って煌鬼は自分が背を預けていた壁の上を見た。

そこには可愛らしい横文字でケーキショップとある。




「そんなんじゃねぇ」

「じゃあ・・・もしかして待ってたの?」

「ああ」

「なんか急ぎの用事でもあった?」




全く察し悪いに煌鬼は息を吐いた。

どうせ家に帰れば会うのに、としか思っていないに違いない。




「別に何もねぇよ」

「でも、じゃあなんで・・・」

「帰るぞ」





そう言って手を取れば、抵抗もせずにそのままついてくる。

だからこそ、その気になってしまう。

手を繋いでも嫌がられないというのはイコール好意と取りがちだが、家族同然の付き合いをしているのだからそれもにとっては当たり前なことなのかもしれない。

そんなことを考えればキリがない。いわゆる堂々巡りというヤツだ。






「煌鬼、煌鬼」

「なんだ」

「ケーキ、食べたくない?」



繋いだ手を袖と一緒に引っ張られて立ち止まる。

首を傾げながら、上目遣いに笑う。

煌鬼も影慶も、そして邪鬼すらもこの顔に弱いということを本人は知っているのだろうか。





「俺にあの店に入れってか」

「んー、持ち帰りも出来るみたいよ?」

「じゃあ買って来い」

「煌鬼も食べるでしょ?一緒に選ぼ?」







にそう言われれば、煌鬼には否ということが出来ない。

修行中はこんな想いを俗世ですることになろうとは夢にも思わなかった。

どんなに腕を磨こうが、男を極めようが、この女には勝てそうもない。






「さっさと決めろよ。お前はすぐ迷うからな」

「むー。煌鬼は?」

「なんでもいい」

「えー、じゃあこの激甘チョコレートフォ・・・」

「やめろ」

「じゃあどれ?」

「お前と同じで良い」






いい加減に甘ったるい店内の匂いと雰囲気に嫌気が差して、煌鬼は店の外へ出た。

そしてもう一度同じ壁に背を預け、を待つ。





誰かを待つ、なんて。

昔の、心身ともに未熟だった自分じゃ考えられないことだ。

大豪院流の修行を終え、俗世で出会った愛しい女。








悪く、ねぇか。











きっと、他の連中が見たら大笑いするに違いない。

それでも、いいかと思う。










出会って、しまったから。













こちらで出会ってしまった人