25年生きた中で初めて出会った人種。

それが今川雅澄。







私ってかなりの面食いだという自覚があったんだけども。

じゃあどうして惚れたのかと問われれば








――――――――成り行き?












珍獣観察日記パートT















そもそも骨董屋なんて若い娘が行く場所じゃなく。

もし行かなきゃならないとしたら大半はお金に困ったから。

要するに質屋扱い。大体はそんなもんだろうと思う。

私、も例外じゃなく。

どうしても金欠で亡くなった祖父の遺品をこっそり持ち出したのは半年前。

そこで出会ったのは座敷に馬鹿丁寧に座っていた珍獣、もとい骨董屋主人。






「いらっしゃいませ」

「さようなら」






それを目にした瞬間、くるりと身体を回転させた。

ただでさえ入りづらい店の中にあんなものが座っていれば逃げ出しても仕方ないと思う。







当然の如く第一印象は最悪だったわけで。








「ええと、何か御用があったのではないですか?」

「それはそうなんですけど・・・いいです、出直します」

「僕は別に怪しい者ではないのです。待古庵主人の今川と申します」




そう言って珍獣は丁寧に頭を下げた。

そうまでされたらまさかこのまま逃げ出すわけにもいかず。



「ええと、じゃあ・・・・お願いします」




風呂敷包みを差し出すと、珍獣は「拝見します」ともう一度頭を下げた。











結論から言うと祖父の遺品は大したお金にはならなかった。

けれど鑑定の間、お茶を出してくれたり訳のわからない骨董品の説明をしてくれたり。

社会人として働き始めて、その厳しさに打ちひしがれていた自分には彼の優しさに癒されて。







「また来ていいですか」

と聞けば

「どうぞなのです」

と彼独特の口調で返されて。





私は珍獣観察日記を付ける事に決めた。
















4月21日 晴れ



今日も珍獣―――今川さんは座敷に座って本を読んでいる。
声を掛けると振り向いて「いらっしゃいませ」と笑った。
「何を読んでるんですか」と聞いたら、「写楽の画集なのです」と見せてくれた。
パラパラと捲ってみると知ってるような富士山の絵があった。
「これ見たことあるかも」と言ったら、「きっとお茶漬けなのです」と言った。
なんのことかと思ったら、お茶漬けによく付いてくるおまけのカードの絵だった。
確かにそれなら知ってる。
思わず吹き出すと、今川さんも同じように笑っていた。















4月30日 曇り

今日もいつもと同じくお客さんはいない。
座敷にいないからどうしたんだろう、と座って待ってたら奥から変な壷を抱えて出てきた。
私を見て驚いたように「わ」と言って、それからいつもみたいに「いらっしゃいませ」と言われたから「いらっしゃいました」と答えてみた。
今川さんは笑っていた。笑うともっと変な顔になるけど嫌いじゃないかも。
「その壷は?」と聞いたら、「僕もわからないのです」って言ってた。
それじゃ商売にならないんじゃ、と思ったけど黙っててあげた。














5月5日 晴れのち曇り

里帰りした連休の最後にちょっと寄ってみると骨董屋は閉ってた。
定休日はないと言ってたのに。珍しい。
何処か旅行にでも行ったかな?と、お店の中を覗いてみたけどやっぱり留守。
せっかくお土産持ってきたのに。残念。















5月12日 晴れ

渡しそびれたお土産を持って骨董屋に行った。
開いてる事を確認して中に入ると誰かいる。珍しい。
どうしようかと迷っていると「お客さん?」と声を掛けられた。
これまた変な帽子を被ったひょろりとしたおじさん。
答えあぐねていると、今川さんが来て「伊佐間君、その人はお友達なのです」と言った。
お友達・・・・・そう思われているらしい。なんだかこそばゆい。
「そうなの?こんにちは」と言われて「こんにちは」と返すと「うん。とりあえず中に入ろうか」と言われた。
なんだかすごくのんびりした人。
「今お茶を入れるのです」と言われたからお土産の饅頭を渡すと「では早速頂きましょう」と包みを開けた。
それから三人で世間話をして帰った。




どういう訳だか来週今川さんと伊佐間さんの友達の古本屋さんに会いに行こうと思って事になった。
そこには始終機嫌の悪い古本屋と人見知りで小心者の小説家と最強に奇天烈な探偵がいるらしい。



やっぱり類は友を呼ぶって言葉は本当みたい。
珍獣の友達はやっぱり珍獣だ。

・・・・・・・・・・ってことは私も珍獣なのかな?


とりあえず来週が楽しみだ。