日常なんて此処にはあったもんじゃない。 毎日が非日常の繰り返し。 探偵社の人々「げ、益田さん・・・」 「ひどいっすねぇ。なんでしょう、その『げ』は」 せっかくの日曜日。 久々に何処かへ遊びに行こうと思った矢先、ご近所の薔薇十字探偵社の一人と鉢合わせしてしまった。 「いや、益田に会ったこと自体はいいんですが・・・」 「わかってますよぉ、あのおじさんでしょ?」 ここでもしあの破天荒な探偵様に会ってしまえば、日曜日などないも当然。 探偵のお気に召すままに、日曜日は去っていく。 それを誰よりもよく知っている益田は榎木津ビルを見上げながら言った。 「あの人なら昨日午前様でしたからねぇ。当分起きませんよ」 「あ、そうなんですか?」 ここでほっとしてしまうのもどうかと思うが、それはそれ、これはこれ。 何しろ榎木津という人物は全く人の都合も予定も考慮しない、とんでもない人間なのだから。 暇潰しにはもってこいだが、予定のある時にはなるべく会いたくない。 だからと言って嫌っているわけでも、苦手なわけでもない。 一度その人柄に触れてしまえば、人を惹き付ける何かがあの人にはある。 「じゃあ、私はこれで」 「ちょっと待って下さい」 「な、なんですか!?」 とっとと此処から立ち去りたい、と笑顔で身体を翻すと益田に肩を掴まれた。 ケケケ、と背後で笑うその声には必ず何かあると思わせる。 「僕はね、ほら、わかるでしょ?日曜返上で仕事なんですよ」 「・・・・それは見ればわかりますが」 「だからお昼くらい付き合ってくださいよ。お昼食べました?」 「まだですけど・・・・榎木津さんに見つかったら面倒なんじゃ?」 「なぁに、どーせ、まだ寝て」 「そうは問屋が荷を跳ねるぞこのカマオロカ!!」 「「あ」」 起きてしまったらしい。こうなるから嫌だったのに。 いや、益田と会った時から既にこうなることは決まっていたのかもしれない。 ご近所迷惑を顧みず、大声で三階から益田を罵る様を一体今まで何度見たことか。 最近では巡回のお巡りさんすら注意するのを諦めているというのは本当だろうか。 「ちゃんを一人占めなど下僕如きがしていい訳が無い! 身の程を知るがいい!さぁ、上がってきたまえ、ちゃん!!」 「はぁ・・・・・」 こうなればもう行くしかない。 池袋辺りでぶらぶら買い物しようと思っていた計画は見事にパァ。 恨めしげに益田を睨みつつ、榎木津びるぢんぐの階段を上がる。 リィインと、今ではすっかり聞きなれてしまった玄関の鈴を鳴らして。 今日もまた薔薇十字探偵社の敷居を跨ぐ事になってしまった。 「いらっしゃい、さん」 中には苦笑している和寅。 来客用のテーブルには既に麦茶が用意されていた。 どうぞ、と促され、とりあえず座って麦茶に手をつける。 「さぁ、ちゃんお昼は何を食べたいのだ!寿司か?天麩羅か?」 「はぁ・・・」 「む、僕は刺身が食べたいな!よし!行くぞ!刺身だ・まぐろだ、伊佐間屋だ!!」 「はぁ〜〜〜」 何が食べたいか、なんて聞いといて結局は自分で決めてる。 それすら慣れっこだから何も言わないけど。 益田さんが私の横で麦茶を飲みながら、 「榎木津さん、僕も行きますからね」 「何故僕がお前のような辛気臭い男を供に、昼食を取らねばならないのだ! 神のお供は森羅万象・可愛い女の子と決まっている!!」 「別に僕ァ、榎木津さんと昼飯食べたいわけじゃないですよ。 僕の方が先にさんを誘ったんですから。横取りってそりゃあないでしょう 「横取りも何もあるものか!神が決めた事なのだ、下僕の分際で何を言う。 僕は探偵でしかも神なのだぞ!!」 前から思ってたけど・・・・・ 榎木津さんに反論できる益田さんてある意味すごいと思う。 刑事の木場さんほどじゃないけど(あの人と榎木津さんのケンカは激しいなんてもんじゃない) というかお腹空いたんですが、私・・・・ 「こりゃあしばらく終わりませんねぇ」 和寅がボリボリ頭を掻きながら、私に耳打ちした。 同感だと頷く。 「冷麦でも作りましょうか?」 「あ、食べたい。じゃあ私手伝います」 二人で台所へ向かう。喧騒はまだ止まない。 冷麦を湯に通していると、リィインと鈴が鳴った。 「申し訳ありませんが・・こちらに探偵様はおられるでしょうか――――?」」 そしてまた私の非日常が始まる。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私の中の榎木津って常にこんな感じ。ファンに殺されるな。 |