例えばどうして腕の中の生き物が怒っているかなど。




野暮天の木場には察しようが無い。









見えない















「おい・・・・

「・・・・・・・」









厄介な事件ヤマを終えて久しぶりに下宿先に帰れば、待ちかねていたように玄関先にがいた。

手には買い物袋を持ち、あたかもご機嫌であるかのように木場の腕に手を回す。

自立型で普段甘える仕草を見せない彼女の姿に木場も満更でもなく二人で部屋に入った。







そこまでは良かったのだ。









連日捜査に駆り出され、ロクに風呂に入っていない状態だった木場はメシの前に風呂だと下宿所の風呂に向かった。

は夕食の仕度をしており、その間にゆっくりと風呂を楽しんだ木場は上機嫌で部屋に戻る。






「戻ったぜ」






声を掛けると何故か返事はなかった。

見れば夕食は出来上がっており、は部屋の隅に座っている。





「いるんじゃねぇか。だったら返事ぐれぇしろ」




さして気にすることなく、木場は卓袱台の前に座る。

だがは動こうとはしなかった。

二人の間に味噌汁の湯気が漂う。






「・・・・・おい、?」






なんのつもりだとの腕を引く。

狭い部屋だ。手を伸ばせばすぐに届く。

抵抗無くは木場の腕に収まり、かと言って彼女が言葉を発することはなかった。







「なんだってんだ、お前は」







先ほどとの態度の変貌ぶりに思わず溜息を付く。

女心と秋の空、とは昔の人間もよく言ったものだ。

要するに昔も今も女は変わらずやっかいな生き物なのだ。






「おい、







顎に手を掛け口付けしようとすれば、つん、とすました顔でそっぽ向かれる。

木場の膝の上に背を向けて座っているの顔は見えない。

意地になって無理矢理唇を合わせようとすると、ガタン、と音がし卓袱台が揺れた。







「・・危ねぇな。おい、なに拗ねてやがる」







抱きしめる事には抵抗無く、口付けしようとすれば拒まれる。

木場が嫌なら出て行けばいい。

それをしないということは、木場に構って欲しいのだろう。

けれど構えば嫌がる。





全くもって女は厄介で理解不能だ。

恋の駆け引きなど――――所詮木場にはわからぬのだ。

綱の引き方の戦略など知らない。ただ力一杯引くだけだ。

そして木場はその綱を一人で引きちぎってしまう事を恐れている。

だから尚更どうしたら良いかわからない。














「メシ冷めるだろうが。さっさと機嫌直しやがれ」







解決策など思いつくわけもなく、最良策など知る由もなく。

木場は顎に手を添え強引に顔だけ木場に向けて再度口付けし、噛み付くように強引に口の中に割って入った。

頭を押さえつけ酸素さえ吸えないように舌を絡め取る。







「やっ・・・・修・・・」






ようやく彼女の声を聞く事が出来た木場は唇を離した。

上気した頬で木場を睨みつけるその様はまさに肉食動物の前の小動物。

ただの獲物だ。







「機嫌直ったかよ」

「直るわけないでしょ、馬鹿!!」

「じゃあせめて原因を言え。理由があるなら情状酌量してやるよ」






木場がにやりと笑うと面白く無さそうに口を尖らせたはやがて木場の脱いだ背広を指差した。

いつものならがハンガーに掛けているものが今日に限って床に転がっているのに今更気付く。

手に取ると、いつもは無いものがポケットの中に入っていた。








「・・・・・これかよ。くだらねぇ」

「何処がくだらないのよ!何処が!!」








もしこの現場を榎木津が見たら、女心の解らぬ下駄豆腐と笑うに違いない。

木場が自分の背広から見つけたのは、いわゆる赤線に属する店のマッチ。

朝方まで関わっていた仕事の、事件解決の手掛かりとなった物。

木場にすればこれのおかげで今日帰ることが出来たようなものだ。









「もういい!修の馬鹿!!」

「おい、勝手に勘違いするんじゃねぇよ」









がじたばたと腕の中で暴れれば、木場も意地になって腕に力を込める。

そうこうしている内に味噌汁の湯気が立ち昇っていく。






「とにかくメシ食うぞ。これ以上疲れさせねぇでくれ」

「誰のせいよ、誰の!」

「どうすりゃいいんだよ。頭下げろってのか」



暴れるのに疲れたのか、の動きが止まったので木場は腕の力を緩めた。

ふてくさたように木場の胸に顔を埋める様が可愛らしいと思ってしまうのは惚れた弱みか。





「ったく、そうしてりゃあ可愛いのによ」

「ただ大人しく男に抱かれてるだけなんて死んでも御免」

「俺だってどうせ腕の中で暴れるならお前より赤子を抱きてぇよ」

「・・・・・・・・・・・・は?」






そう言った瞬間はポカンと口を開け、やがてやかんが沸騰したように頬が真っ赤に染まった。

再び木場の胸に顔を埋め、けれどその両腕は木場の腰にしっかりと回っている。






「修のばかぁ・・・・」

「おい、今度はなんだよ」

「だって変な事言うから・・・・」

「別に変な事じゃねぇだろうが。なんだ、嫌なのか」

「そんなわけないじゃない」






木場の首に細い腕が絡みつき、木場の唇に湿った感触が落ちた。

触れるだけの口付けが繰り返され、啄ばむように柔らかな弾力を愉しむ。






「私も修との子供が欲しい」

「そういう我侭だったら聞いてやるぜ」

「結婚式は西洋式」

「まぁ・・・どうでもいいけどよ」

「家は庭付き一戸建て別荘付きね」

「お前・・・・俺の給料知ってんだろ」







これ以上我侭を言われてはたまらない、と木場は舌をの口内にねじ込んだ。

抵抗などあるはずもなく、互いの舌が絡まる。











木場の手がのブラウスに掛かるのも時間の問題で。

卓袱台にはすっかり冷めた味噌汁が残されていた。
















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
3万HIT美里様リクのヒロインにメロメロ木場修。
このサイト始まって以来のドリームらしいドリームかもしれない。
お互いがお互いの存在にメロメロ・という話。
目には見えない互いの気持ち>30のお題21見えないということ