穢れなきその肌に触れる事さえ躊躇われて














振り向けば彼の所に














「風邪引くぞ、







授業中の居眠りがバレ、担任に絞られた木場が見たものは気持ち良さそうに眠っている同じ組のだった。

しかも何故か寝ているのは木場の机である。




「馬鹿かお前ェは」





この物騒な世の中で暗くなるまで年頃の娘が居眠りなんぞ考えられない。

戦争、という言葉が少しずつ日本を侵食している。

何時起こるかも分からぬそれに皆が恐怖しているのだ。







「起きろ、おい!」






木場は自分と比べ随分と細い肩を揺すった。

うぅん、と呻き声がするものの起きる様子はない。





「水でもぶっかけるか」






さすがにこのまま放って置く事は出来ず、木場は何度もなまえを呼んだ。

声量を上げると、さすがに煩かったのか瞼が薄く開く。







「木場君・・・・・?」






か細い声に呼ばれ、おう、とだけ答えた。

まだ覚醒しきっていないは目を擦り、木場を見上げる。







「無防備に寝てるんじゃねぇよ。さっさと帰れ」

「私・・・・寝ちゃってたの・・・ごめん」

「なんだ、なんか用があったのか」





いつまで経っても立ち上がろうとしないに問うと、うん、と頷いた。

眠そうに目を擦りながら、鞄を手に取る。






「木場君に用があるの」

「俺か?」

「うん」

「なんだよ」







木場は夕焼けを眺めながら問うた。

教室に二人っきり。木場は榎木津のように女慣れしていない。

気恥ずかしさで顔を見られず、空ばかりを見ていた。







「木場君にね・・・・・言いたいことがあって」

「だからなんだよ」

「うん・・・・あのね」

「おう」






沈黙が教室を支配した。

はそれっきり黙ってしまい、木場はただ空を見ていた。

夕焼け色が少しずつ、闇に染まっていく。

校舎に二人、取り残されたような静寂に息苦しくなる。







「おい、。なんにもねぇなら帰るぞ。日が暮れる」

「あ・・・・・・うん・・・・そうだね」







結局は最後まで何も言わなかった。

木場も聞かず、二人はすぐに別れた。











ただ、自然と繋がれた手の温もりは温かくて。


















爆音と叫び声が響く戦場で、木場は彼女の手を握った同じ手で人を殺した。


幾人も幾人も幾人も。


ただ帰るのだと、言い聞かせて。


生きて、あの時聞けなかった言葉を聞こうと。








そして木場は彼女の温もりが残るその手に機関銃を持ち


戦場を駆け抜けた。


















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乙女心の分からない男。