時折現実と空想の区別が付かなくなる。 これも”妄執”と呼ぶのだろうか。 夢でも囚われて髪紐が解かれる。 するりと落ちた黒い髪に貴方は口付けて。 そのまま首筋に唇が降りて、私は身震いをした。 耳の裏筋にくちゅ、と音がして吸われる感触。 「・・・・・・ぁ!」 背骨に温い電撃が走ったようにぞくぞくする。 決して刺激的でもない、けれど声を上げずにはいられない中途半端な刺激。 いつの間にか着物の中に差し込まれた指が背骨のラインを辿る。 「・・・・・」 何か言おうとして言葉が出なくて、あっという間に唇を塞がれる。 唾液の絡み合う音が脳内に響いて、下肢が疼いた。 「―――――もういいかい、君」 何が、とは聞けず頷く。 お互いに肌蹴た着物を脱がし合って、折り重なるように着物が落ちた。 いつもは見えない胸板に、男を感じる。 ただ感じるだけはくやしくて、心臓部分に紅い跡を付けた。 「可愛い事をするね」 低く嗤う声に目を閉じた。 心理テストの話を最初にしたのは鳥口だった。 それに関口が乗り、その関口を罵倒したのはいつもの如く京極堂だった。 「全く馬鹿馬鹿しい」 気の済むまで講釈をした京極堂はそう言って再び本を開いた。 「そこまで言わなくたっていいじゃないか。たかが遊びで」 「うへぇ、もう止めといた方がいいと思いますよ、先生」 頭にあるフロイト精神論を全て説いた関口もやはり、京極堂には敵わない。 知っているはずなのについ口に出してしまう彼は実は負けず嫌いなのかもしれないと思った。 「でも夢って深層心理が出ると言いますよね」 「君までそんな事を言っているのかい」 呆れた声に口を噤む。 関口をフォローしようと思って逆に諌められてしまった。 「なら、君は昨晩どんな夢を見たんだい?」 ふいに問い掛けられて、逆に焦った。 昨夜の夢が甦る。 貴方に口付けられて、触れられて――――― そんな事言える訳がない。 「じゃあ僕らはそろそろ帰ります」 いつの間にか帰り支度をしていた鳥口と関口が揃って腰を上げた。 家の主人は頷くだけで、視線はこちらに向けられたまま。 視線に、絡め取られる。 「言ってごらん」 こういう時に滅多に見せない笑顔をくれるとのはずるいと思う。 きっと彼は答えなんてお見通しで。 耳元で囁く、あの時と同じ声で。 「君の願いを叶えようじゃないか」 ひんやりとして手が首筋に掛かる。 触れるかどうかの刹那。 「――――さて、どうして欲しい?」 ああ、フロイトが嗤ってる。 |