何故だ。何故なんだ。 縁結びの神様とやら、ちょっと一回顔貸せマジで。 その面ボコボコにしてもう二度と縁(えにし)なんてあまっちょろいこと言えなくしてやるから。 四回目、ともなればさすがに温厚な私も黙っちゃいねーぞ? たとえばこんな恋の話ああ、そうさ、ブルータス。 二度あることは三度ある、じゃあ四度目ってもうそりゃわざとじゃねーの? あれか?実はお前マゾなのか?実は殴られたい願望でもあんのか。 しかも今度はなんと―――団体さんだ。 「ちょっとどいてくれないか」(木吉) 「ああん?この道通りたきゃ俺ら倒して行けってんだよ!!」 「な、なんなんだ、てめーらは!」(日向) 「うるせぇ!黙って全員金出せよ!!」 ・・・・うんざりする。 四度目の光景。しかも、だ。ご丁寧にあれはバスケ部全員いるんじゃないだろうか。 部員六人と女の子が一人。察するにマネージャーだろうが、眼鏡の男と一番でかい男が庇うように前に立っていて顔はよく見えない。 その後ろには四人、水戸部と一番小さい男(と言っても170あるのはさすがバスケ部と言ったところか)、目元が涼しげなイケメンと、冴えないツンツン頭、もしかしなくてもあれは同じクラスの土田だろう。 ああ、心底うんざりする。 なにがって見て見ぬ振りができない自分にだ。 もう二度と助けないと誓ったものの、女の子がいるんじゃ話は別。 同じ女として助けないわけにはいかないだろう。だから見た目と中身が合わないお人好し、だなんて道場で笑われるんだ。 「おーい、てめぇら、誰に断ってここで商売してんだ?」 なんてこれまたどこかのヤクザ映画みたいなセリフを吐いて、私は絡んでいる三人の男の一番でかいやつの膝裏に思い切り蹴りを入れた。 膝が折れたところで、下がった頭に回し蹴りを喰らわす。これ、黄金のパターン。 160しかない私はどうやったって普通じゃ男の頭に手も足も届かない。だから最初に足を狙って体制を崩すのだ。 「なんだ、てめぇは!!」 「ああ、いいよ、そういうの。すぐ終わるから」 一人が倒れたところで、振り向いた二人の顔に続けざまに拳を繰りだす。 いつも通り指輪を嵌めた拳が鼻に当たり、鼻血が出るとぎょっとした顔をして三人ともその場を逃げ出した。 カツアゲなんて低俗な真似をしている連中はほとんどが喧嘩慣れしていない見かけ倒しだったりする。 当然血なんて見慣れていないから、鼻を狙えばすぐに終わる、とアドバイスしたのは道場の誰だったか。 ものの3分で片付いて、さぁ帰ろうとため息をつくと、でかい腕に腕を掴まれた。 水戸部か?と眼を利かせて振り返ると、そこには一番でかい奴の満面の笑顔があった。 「ありがとう、キミ!俺らバスケ部で喧嘩するわけにもいかないから助かったよ!」(木吉) 「あっそう。そりゃどうも。じゃあさよなら」 「いやぁ、女の子なのにすごいんだな!びっくりしたよ。なんか習ってるの?」(木吉) 「つか放せよ、腕」 「この辺物騒だって水戸部に聞いてたけど、ほんとだったんだなー」(木吉) 「人の話聞けてめぇえええ!!!」 頭にキて叫ぶときょとんとした顔をして、男がまた喋りだした。当然腕は掴まれたままだ。 しかも物騒だと聞いてただぁ?じゃあなんでここ通るんだよ。団体なら大丈夫とでも思ったか! 「街灯ないと寂しいなぁって話してたところだったんだよ。そしたらいきなり声掛けられて」(木吉) 「聞いてねーよ!そんな話!」 「いきなり金出せ、だもんな。俺、この身長だろ?初めてだよ、カツアゲなんて」(木吉) 「水戸部!てめぇのツレだろ!責任取ってなんとかしやがれ!」 思わず叫ぶと、その場の全員の視線が水戸部に集まった。 そしてそれまで黙っていた連中が次々に口を開く。 「え?この子、水戸部の知り合いなの!?」(小金井) 「そうなのか、水戸部?」(日向) 「ほんと、助かったわ、ありがとう。水戸部君、この子の名前は?」(リコ) 「うるせーよ!お前ら。水戸部てめぇ、これで四度目だからな」 集中砲火を浴びて、オロオロと水戸部が私と部員達を交互に見つめる。 その様が哀れだと思ったのか、助け舟を出したのは土田だった。 「さん・・・だよね?俺と同じクラスの」(土田) その言葉に部員だけじゃなく、水戸部も目を見開く。 「土田、てめぇ余計なこと言うんじゃねーよ」 「・・ご、ごめん!でも助かったよ、本当」(土田) 「ならまずこの大男に私の腕を放せと言え」 「ちょっと鉄平!あんたいつまで女の子の腕掴んでのよ!?」 「え?だって放したら逃げちゃうだろ?あ、俺木吉鉄平。よろしくな」 「名前なんざ聞いてねーよ!つか、てめぇはまず人の話を聞け!」 「ごめん、諦めてくれ。木吉のそれはどうしようもねぇんだ」(日向) 「てめぇ、眼鏡君のくせして、諦めたらそこで試合終了ですよ、ってバスケ界の名言知らねぇのか!」 「お、なんだ、あの漫画知ってるのか?キミ、バスケ好き?」(木吉) 「・・・・・・・・・こいつ殴っていいか?いいよな?」 思わず掴まれていない左手で拳を作ると、そこにすっと大きな手のひらが拳を包みこんだ。 それは水戸部の手だった。やたら神妙な顔をして首を横に振る。 別に本気で殴ろうなんて思ってないし、誰も本気だなんて思わないから水戸部以外は動かなかったんだが。 つーか、今のこの状況、190以上ある木吉に右腕を掴まれ190近くある水戸部に左手を掴まれた状態。 「私は捕らわれの宇宙人か!」 「木吉!いい加減にしろ!助けてもらったのにごめんな。えーと、さん。俺、主将の日向。ありがとう、ほんと助かった」 「もういいよ、じゃ、私帰るから」 自由になった右腕で、やんわりと水戸部の腕を振り払う。 その瞬間、水戸部が凹んだ気がしたけれど、構うことなく街灯の少ない路地へと足を向けた。 「面白い子だったな。そう思わないか、リコ」木吉 「あんたねぇ。ちょっとは遠慮しなさいよ。鉄平みたいな大男にいきなり腕掴まれて喜ぶ女の子なんていないわよ」 「まぁ、怖がらせることはないと思うけどね、あの子の場合」(伊月) 「その代わり怒ってたけどね、さん」(土田) 「ツッチー、同じクラスなんだよな?水戸部は?どういう知り合い?」(小金井) 「水戸部、あの子が誠凛だって知らなかったみたいだな?」(日向) 再び視線が集まると、大きな身体でオロオロとする水戸部に全員が苦笑して向き直った。 同じ中学だった小金井は別として、まだ仲間になったばかりの部員達では水戸部と意思疎通は出来ても、その心情までは汲み取れない。 「四度目ってあの子言ってたよな?今までも助けてもらったってこと?」(伊月) 「・・・・・・・(コクコク)」 「いいなぁ、あの子。気に入ったよ」(木吉) 「はぁ!?まさか惚れたのか、木吉!?」(日向) 「マジで!?そうなの?」(小金井) 「マネージャーだよ。カントクが根性のある子しか認めないって宣言したからずっと保留になってたろ?」(木吉) 「そうね・・・私好きよ、ああいう子。実力主義って感じだし気が合いそう。多分武術の有段者だから体力はあるわ」 「へぇ、さすが。そんなことまでわかるんだ」(伊月) 「す、すごいね。さすがカントク」(土田) 「じゃあ、とりあえず勧誘してみましょうか!同じクラスの土田君、彼女と知り合いの水戸部君、そして小金井君!お願いね!」 名前を呼ばれた小金井が、ええっと声を出した。土田と水戸部も口を開けて驚く。 「なんで、俺?」(小金井) 「水戸部君の通訳役が必要でしょ!」 「リコ、俺は?」(木吉) 「鉄平は遠慮しときなさい。あんた、嫌われてるから」 「ええ!?そうか?」(木吉) 「・・・俺はお前の図々しさがどこから来るのか知りたいよ・・・」(日向) 「日向君も他人事じゃないのよ!日向君も伊月君も隙あらばお願いね!」 「「うっす」」 日向と伊月は遠い目をして神妙に頷いた。 その様子を見て他四人はカントクの勢いが怖いからだと思ったが、実は違った。 カントクと呼ばれる少女の殺人的な料理の腕前を知っている中学の同級生である二人は、マネージャーは絶対必要だと感じながらも心の奥で思っていた。 でも、あの子も料理出来なさそうだよな、と。 |