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「この馬鹿!ノロマ!なんでまた怪我増やしてんのよ、大馬鹿!!」 「う、うるせぇ!!」 「あ?今うるさいっつった!?言ったわね!?」 「いたたたたたたっ!!!痛ぇよ、畜生!!」 始まりの合図のキスズキズキと痛む裂傷の傷に消毒薬を思い切り浴びせられ独眼鉄は悲鳴を上げた。 それに対して返ってきた言葉は、うるさい、の一言。 幼馴染などという可愛いものじゃなく、この年まで顔を合わせればただの腐れ縁。 「畜生、なんでてめぇが王大人の助手なんかやってやがんだ!」 「医学に携わる以上最高の医術を学びたいと思うのは当然でしょ」 「あんだと~~~!!!」 「男塾で男を磨くとか大層なこと言った割にはちっとも強くならないあんたが悪い!!」 バンっと勢い良く傷ついた背中を叩かれ、独眼鉄は飛び上がった。 「患者はもっと労わりやがれ!!」 「治療費もロクに払わないごんだくれは患者とは呼ばないの。追い返さないだけ在り難く思いなさい!」 「んだと、コラ~~~~!!!!」 こうなったら口喧嘩は止まらない。 幼い頃から勝気だった名前と意地でも引かない独眼鉄。 さすがに女相手に拳は使わないので乱闘騒ぎまでとはいかないが、それでも治療室でのこの二人の口喧嘩はもはや日常茶飯事である。 いつものように二人が言い合っていると、笑い声と共に治療室のドアが開いた。 「その辺にしておけ、二人とも」 「センクウさん!」 「センクウ・・・ちっ」 センクウが現れ、名前は手に持っていた医療用具を置いて彼に駆け寄った。 その様を見て、独眼鉄は舌打ちをする。 これももう慣れたいつもの光景のはずなのに、イラつく気持ちは隠せない。 「全く、仲が良いのもほどほどにしておけよ?」 「別に独眼鉄となんか仲良くないですよ!ただの腐れ縁です!!」 「ふふっ、そうか」 名前の言葉にセンクウは笑顔で独眼鉄を見た。 独眼鉄は咄嗟に目を逸らす。 聡いこの男のことだ。名前への自分の気持ちなど、お見通しなのだろう。 名前の、センクウへ対する気持ちも。 「そうそう、治療費の足しにもならないが、名前にプレゼントだ」 「わぁ!白百合ですね!」 「ああ、匂いの強い花は医療所ではまずいと思ってな。丁度四季の花を温室で栽培しているところなんだ」 「素敵!男塾が女人禁制でなければ、私も入れたのに」 「そうだな・・・これだけ世話になっているんだ。その内塾長に頼んでみよう」 「本当ですか!嬉しい!」 センクウからの花束を受け取った名前は頬を赤らめうっとりとその花を見つめている。 そんな顔はかつて見たことがなく、その表情をさせられるのはセンクウだけだと言う事を独眼鉄は知っていた。 頭に血が上るような感覚を抑えきれず、独眼鉄は白い壁をどんっ!と力任せに蹴った。 「ちょっと!!この馬鹿!!何やってんのよ!!!」 「うるせぇ!!!」 「おい、独眼鉄?」 独眼鉄は自分がいかに世間から外れた人間であるかをよく知っていた。 素行が悪く、学もなく、品もない。 何かを成そうとすれば必ず裏目に出て、センクウに勝てる要素など何一つない。 「畜生!!」 何を考えていたのかは自分にも分からない。 ただ頭に血が上って、それで、 名前の腕の中にあった白い花を奪い、床に叩き付けた。 「な、何するのよ!!!」 「うるせぇ!!!」 「独眼鉄!!」 さも大切なものを奪われた、というように悲鳴を上げる名前と、それを庇おうとするセンクウ。 何もかもが気に喰わなくて、独眼鉄はそのまま部屋を飛び出した。 事を起こした後に後悔するのはいつものことだ。 一度カッとなったら、暴れる衝動を止められない。 まず己を自制する術を学べと、邪鬼や死天王に再三言われてきた。 だが生まれつきとも言えるこの性格はそうそう直るものでもなく。 そのせいで何度も何度も名前を泣かせてきたことも自覚している。 自己嫌悪の波が襲う。 謝らなければならない。 頭の悪い独眼鉄の、それが唯一思いつく解決方法だ。 今までもそうやって何度も名前に謝ってきた。 けれど今度ばかりは許してもらえないかもしれない。 それに今頃、名前はセンクウの胸の中で泣いているのかもしれない。 だけど今戻らなければ、きっと一生謝ることなどできない。 けれど、だけど、それに、 独眼鉄をあざ笑うかのように、様々な考えが浮かんでは消えていく。 見掛け倒しだと馬鹿にされ、そんな奴らを見返してやると入塾した男塾でぶつかったどんなに足掻いても越えられない高い壁。 「畜生!畜生!畜生!!」 目の前にある壁を思いっきり殴る。 いつまでも、いつまでも傍に居てほしい。 自分のものになどなるはずもないなら、せめて誰の者にもならずに。 そんな女々しい心の内など誰にも知られたくはない。 ふと目にしたのは、名も知らぬ小さな雑草だった。 見ればポツポツと白いものが付いている。花のようだが小さすぎてよくわからない。 まるで自分のようだと、独眼鉄はそれを乱暴に引きちぎった。 それは手土産にはあまりにお粗末で、みすぼらしい。 「まるで俺みたいじゃねぇか・・・・」 その花が気に入った独眼鉄はそれを持って再び診療所への道を戻った。 まだセンクウがいるかもしれない。名前はもういないかもしれない。 それでもいいからとにかく謝ろうと、覚悟を決める。 診療所の扉を開く、とすぐに花の匂いがした。 受付のカウンターにセンクウの贈った大輪の白い花が飾られている。 どうやら花自体は無事だったらしい。 残念のような、ほっとしたような矛盾した気持ちが独眼鉄を掻き乱す。 診療時間が終った診療所は静かで、足音がやけに耳に付く。 けれど独眼鉄は足音をわざと響かせて、名前の居るだろう部屋に急いだ。 ノックをすることなど知らぬ独眼鉄はその部屋の扉をそっと開ける。 予想通り名前は夕日を背に、何か書類を読んでいた。 「おい、名前・・・・」 「遅い」 「うっ、す、すまねぇ・・・」 名前はこちらに背を向けたまま書類から顔を上げることもしない。 相当怒っているのだと知れて、独眼鉄は後ずさりした。 「で?なんか用?」 「さっきは、悪かった・・・・すまねぇ」 「いつまでも進歩がないったら」 「うっ・・・・」 ため息をつかれ、独眼鉄は手の中の花を握り締めた。 雑草はいつまで経っても雑草でしかない。 「独眼鉄」 「な、なんだ」 「こっちおいで」 ようやく振り向いた名前は、子供にするようにおいで、おいでと手招きをした。 この後のことは分かっている。指きりをするのだ。 すぐにカッとなって喧嘩しない。 命にかかわるような無茶はしない。 弱い者には暴力を振るわない。 今まで様々なことを約束してきて、そしてそれを独眼鉄はいつも守れずにいた。 それでも独眼鉄を見放すことなく、名前はいつも約束をさせる。 いつものように小指を出した独眼鉄を見て、名前はため息をついた。 「なんだよ・・・」 「もう子供じゃないんだし、指きりっていうのも卒業かもね」 「じゃ、じゃあ・・・・」 どうするんだ、と独眼鉄は自分の小指を見た。 名前は少し考えるように天井を見てから、悪戯を思いついたというように笑いながら頬を指差した。 「誓いのキスってのはどう?」 「ばばばっ、馬鹿言ってんじゃねぇ!!」 「馬鹿なのはそっちでしょ。それくらいしないと約束守れないじゃないの」 「うっ」 「早くしなさい。それとも約束できないの?」 射抜くような目で睨まれ、独眼鉄はまた一歩後ずさりした。 手の中は汗でびっしょりと濡れ、花を持っている間隔さえもうない。 「お、お前、センクウは・・・・」 「は?なんでそこでセンクウさんが出てくるわけ?」 「だっ、だってよ・・・お前・・・・」 「ぐだぐだ言ってないで、約束するのか、しないのか!!はっきりしなさい!!」 そこまで言われれば、もう覚悟を決めるしかない。 頬どころか今まで女と接吻すらしたことがなかった独眼鉄は何をどうしたらいいのかわからないまま、名前の頬に唇を押し付けた。 「よし!短気を直す、今回はそれでいいわね?」 「お、おう・・・・」 「それにしても、あんた、もしかしてこういうことしたの、初めて?」 「うるせぇ!!」 さも可笑しそうに笑う名前に、また頭に血が上りそうになるのをぐっと堪える。 「そういうお前ェはどうなんだよ!!」 「私?この年で初めてなんてわけないでしょ?これでも恋愛経験豊富なのよ!」 「・・・・・・・そうかよ」 「でも、まぁ、」 「あ?」 「いつまで経ってもうだつの上がらない男の面倒見るのも面白いかもねぇ?」 「あ、あああ??」 「その手の中の花と一緒にもらってあげてもいいわよ、独眼鉄?」 独眼鉄が何か言おうとする前に、名前の唇が独眼鉄の唇に触れた。 何もかも先回りされて、言いたいことも一言も言えずに、手の中の花がバラバラと床に落ちる。 畜生、意地でも男を上げて、見返してやる。 名前を抱きしめながら、独眼鉄はその小さな花に誓った。 ------------------------------------------------------------------- <後書き>スクロール↓ 熱烈にリクのあった独眼鉄です。独眼鉄で思いついたシチュエーションは ○ひたすら叶わぬ片思い ○独眼鉄→ヒロイン→センクウ ○強引なヒロインと弱気な独眼鉄 でした。 クリスマスなのに独眼鉄ですいません。本当は影慶の予定だったんですが・・・ こんなでも感想頂けると嬉しいです。こうなったら蝙翔鬼書いちゃうかな!(笑) |