不思議だと思う。 この女の全てが。 甘い、甘い、綿菓子のような。 の髪が、ゆらり、風になびいて俺の肩を撫でる。 ほんの少しの重さも感じない身体が、膝の上で俺の胸に横顔を押し付けていた。 数十分前に言葉を交わしたばかりだった唇から洩れる吐息がやけに静かだ。 この女は、俺が男塾二号筆頭であることも、俺が起こした事件も全て知っている。 世の中の作った常識というものから逸脱した俺の存在を認め、自分から傍にいる物好きな女。 それこそ本人は常識という枠の中に生きるごく普通の人間である。 その女が、こうして己を枕代わりにして呑気に寝ているのを容認している俺は一体どうかしちまったのか。 日はまだ高く、暮れるまで一時間はあるだろう。 さっきまで胸の位置にあったの頭が、腹の部分まで落ちてきていることに気付いた。 膝の裏に左手を入れ、右手で背を支え持ち上げる。 見た目よりも更に軽いの身体は軽く持ち上がった反動か、かくん、と頭が上を向いた。 静かにの身体をもう一度己の膝の上に下ろすが、頭は以前上を向いたまま。 いつもはくるくるとよく回る表情も瞳も、今は見えない。 の身体のある一点に目がいく。 それは女特有の柔らかそうな唇で、いつもは少し濃い紅色をしているが今は薄い桜色だ。 以前、化粧をしていたの唇に塗られたモノを赤石が嫌がってからはソレをしなくなった。 ソレは所謂口紅やリップといったもので、元々女のことになど疎い赤石はそれをが塗らなければならない必要性を見出せなかったのである。 だからと言って止めろと言ったわけではない。 ただ少し眉を顰めただけだ。 それから、少なくとも赤石に会う時は何も施されることのなくなった唇にそっと口付ける。 上唇をまるで飴でもしゃぶるように、音を立てて吸う。 するのは、自分よりも少しだけ甘い唇の味。 女と縁のない一号の連中なんぞは本気で口付けはレモンの味などとほざいているが、そんな訳は当然ない。 自分で自分の唇を舐めたのと同様の味がするだけで、それでも確かに甘いと感じるのは何故なのか。 女の唇全てが甘いのか、それともだけなのかは赤石には分からない。 赤石はしか知らないし、おそらく知りたいと思うこともないだろう。 「剛次・・・さん?」 「起こしちまったか?」 「ん、何か考え事?」 身を起こしたは赤石の膝の上で少しだけ背を伸ばした。 そうしてまた赤石の胸に身体ごと寄り掛かる。 さらりと赤石の身体を撫でる柔らかい髪を赤石は優しく撫でた。 「手前ェの唇はなんで甘ぇのか、考えてた」 の問いに答えると、は驚いたように顔を上げた。 よほど俺の言葉が予想外だったのか、文字通り鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。 質問に答えただけなのに、何故そんな顔をするのか。 の顔はあっという間に赤くなり、俺の胸に顔を押し付けた。 「おい、どうした」 「なんでもない・・・・・」 「あぁ?」 が何を考えているのか、赤石には時々分からない時がある。 大抵は女心というモノのせいだということを悟ってから、赤石はこんな時何も言わないと決めている。 の髪を撫でて、傾きかけた夕日を眺めていると腕の中のがもぞりと動いた。 「ねぇ、剛次」 「・・・・・なんだ」 「さっきの答え教えてあげようか」 「あん?」 ふいに顔を上げたが赤石の唇に、ちゅ、と音を立てて唇を合わせる。 「剛次も甘いよ」 「んなわけねぇだろ」 憮然とした態度でそう言えば、はおかしそうに笑う。 「甘いの、私に取っては、ね」 今だ頬に赤みが差しているを見て、なるほど、と思う。 他の女の唇では駄目なんだろう、少なくとも自分は甘くは感じないのだ。 「なるほどな」 静かに目を閉じたの唇に、今日幾度目かの口付けをする。 この女じゃなきゃ駄目だ。 キスがその答えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後書き(以下スクロール) 拍手でリクエスト頂きました、うちのサイトでは貴重な赤石先輩です。 なんだか別人ですが・・・・。答えは言うまでもなく、愛です(笑) 赤石先輩はリクがない限りは書かないかな。 |