髪を揺らす指の感触には、ああ、家に帰ってきたのだと感じた。

小さな頃、何故か時代劇の抜刀シーンのような怖い夢を見ることが多く、夜中泣き出すの頭をいつも母親が撫でていてくれた。

その手が優しくて、、と呼ぶ声がを悪夢から救ってくれる。

だから寝ている時に、髪を撫でられるのも名前を呼ばれるのも好きだった。

だから、思った。お母さんが近くにいるのだと疑いもなく、ゆっくりと瞼を開いた。























ドラマが終わる時間帯になって、居間は人がまばらになっていた。

チャンネル争いはやはり左之が勝ったのだろう。

お笑い番組が見れなかったらしい平助は大きな欠伸をしながら次回予告を見ている。







「平助、もう就寝時間でしょ。部屋に帰らない?」

「総司!そうだなー、じゃあ左之先輩新八先輩、オヤスミなさいー」

「おう、お休み」

「さっさと寝ろよー」






もう瞼が落ちかけている平助を連れて総司は部屋に戻る。

だがあと少しで部屋、というところで総司は足を止めた。




「なんだよ、どうしたの?」

「うん、ちょっとね」




立ち止まってしまった総司の顔を何事かと平助が見上げたその瞬間、





「すすむーーー!!??」





突然聞こえた大声にバランスが取れず、平助はそのままコケた。
























は混乱していた。

漫画であれば確実にはてなマークとうずまきで頭ぐるぐる状態である。

なんせ目を覚まして家かと思ったら、見知らぬ部屋で。

目の前には母親どころから、赤の他人の絶縁状態の幼馴染がいたのだから。

飛びあがって、必至で呼ばないようにしていた下の名前を呼んでしまったのも、許容の範囲のミスだと思いたい。





「・・・・・・・・・・うるさい」





一方名前を呼ばれた幼馴染はこれ以上ないというように眉間に皺を寄せている。

両手は耳を塞いでいる。が叫びだすことを予測しての行動ならば見事という他ない。





「ななな、なん・・・・なんで・・・・!?」

「ここは俺の部屋だ。そしてお前が寝ているのは俺の布団だ。何故とは俺が聞きたい」

「え・・・・だって、ちゃんと沖田君に連れてきてもらって・・・・え?え?」






まだパニックから回復していないは山崎と自分の寝ている布団を交互に見やる。

そしてようやく事態に気付いたかのように、慌てて布団から這い出た。





「ごめん、烝!!ええと、とにかくごめん!!!・・・・なさい」

「分かったから・・・・さっさと部屋に・・・・・・・」





戻れ、と言いかけたところで山崎は背後の気配に気付き振り向いた。

そこには平助と、笑いをこらえている総司。

山崎の眉間の皺が一層濃くなる。


客観的に見れば、男部屋で寝ていると山崎はとても奇妙な光景だ。

これがもし新八か左之あたりだったらよからぬ誤解を招いたかもしれない。

だが相手は山崎だ。平助はとりあえず山崎の隣に座った。



「なにやってんの?烝君、?」

平助の当然の疑問に山崎は視線を逸らす。


さん、見事な叫びっぷりだったね」



こらえきれなかったのか、総司がとうとう声を上げて笑い出した。

山崎はそんな総司を冷ややかに睨みつけた。




「お前がくだらない真似するからだろう」

「別にいいじゃない。ちょっとした悪戯でしょ。本気で怒らないでよ」

「ちょっ、全然話見えねぇんだけど・・・・・」

「私、ええと、眠くて沖田君に部屋に連れて来てもらって・・・・」








も回らない頭で平助に説明をする。

第三者に説明していると段々と自分でも状況が把握出来てきた。

要するに、





「私、沖田君にハメられた・・・・・!」

「まぁ、総司にしちゃあかわいい悪戯だけどな・・・・・」




怒りよりも、よりによってなんで烝の布団に・・・と落ち込む

そんなに山崎は眉間に皺を寄せる。

大した悪戯ではないかもしれない。だがそれで許せる問題でもない。

しかしに関してだけは総司が相手では分が悪い。

もう時計の針は10時を指そうとしている。



「もう就寝時間だ。、お前は部屋に戻れ」

「わ、わかった・・・・ごめん・・・・あ、藤堂もごめんね。
沖田君、てめぇ明日覚えてやがれ!

「素敵な捨て台詞だね。じゃあお休み」






全く反省していない総司に悪態を突きつつ、逃げ出すようには部屋を後にした。

残された男三人は誰ともなくため息をつく。

すっかり機嫌の悪くなった山崎を察し、口を開いたのは平助だった。




「総司・・・・やりすぎだぜ?もうちょっと慣れた相手ならともかく、は部員ですらないんだからさ」

「ごめん、ごめん。ほんの悪ふざけだったんだけどね」

「前に千鶴にも似たようなことしてなかったっけ?ほんと止めろよなーかわいそうじゃん」

「あの時は土方さんの布団だったね。あの時の千鶴ちゃんてば、傑作だったっけ」




思い出し笑いを浮かべる総司に平助は呆れた顔をし、山崎は付き合っていられないと寝る支度を始めた。

時計は既に就寝時間に迫っている。そろそろ見廻りの近藤が来るに時間だ。

平助は携帯の目覚ましをセットしながら、総司に忠告をする。




「とにかく、あんまりひどいと土方先輩に報告するからな!」

「わかったよ。怖いなぁ・・・・・それよりもさ、気にならなかった?平助は」

「何が?」

「山崎君もさんも、名前で呼び合ってたじゃない。あれ、どうしてなのかな?」








沖田が放ったその言葉に、一瞬平助の動きが止まり、山崎を見た。

聞き流していたが、確かに呼んでいた、名前で。

それは以前平助が感じた違和感にも通じるもので。





「烝く―――」


「こらーお前らさっさと寝ろよー!!」





平助が口を開きかけたところで、近藤が無遠慮に扉を開けた。

近藤の声で平助の疑問はかき消される。

山崎は心底助かったというように素早く布団に潜りこんだ。総司と平助もそれに続く。




近藤によって強制的に消された部屋の明かりによって訪れた闇は山崎の拒絶そのもので。

結局湧いた疑問を口にすることが出来ず、平助は眠りについた。