剣道部は年に3度の合宿がある。

新入生歓迎を意味するGW中の新歓合宿。

基礎体力向上を目指した夏季合宿。

冬季の大会に備えた秋季合宿。




その他にも、その代の部長によって、合宿や練習の量は変化する。

全国制覇を目標とした今年の試衛高校の剣道部部長、土方歳三は歴代部長の中でも特別厳しい部長だ。





本日、道場が使えない剣道部面々は皆、部室に顔を揃えていた。

GWを利用した合宿の打ち合わせなのだが、それには一つ問題があったのだ。






「マネージャーが入部して、一年や補欠も練習に専念出来るのはいいが・・・・そうなると逆に千鶴だけじゃ手が足りねぇな」

土方がホワイトボードの前で、仁王立ちしながら呟いた。



「そうは言ってもなぁ・・・・なんの見返りもねぇのに手伝ってくれ、なんてなぁ・・・」


都合良すぎだな、とぼやいたのは3年レギュラーの永倉だ。


「だからと言って、ミーハは土方さんが嫌うからなぁ・・・」


原田がちらりと土方を見る。

マネージャー希望がないわけではないのだ。だが希望する女子らは皆、剣道部の雰囲気にはそぐわない。

男目当ては困るが、じゃあ他になんの見返りもなしに雑用働きをしてくれだなんて、虫が良すぎる話だ。



「千鶴の友達は?だったらいいじゃないの?」


軽い気持ちでそう言った藤堂が、千鶴の表情が曇ったのを見て慌てて口を噤んだ。

隣にいた沖田が、机の下で思い切り藤堂の足を踏む。


「痛っ!!」

「ああ、ごめん、平助」


その二人のやりとりを見て、山崎がため息を吐いた。


「部員の友人に頼むという点においては・・・良いかと思いますが」

「誰か心当たりのある者は?」


山崎の発言に土方が部員を見回した。だが挙手する者はいない。



「別に・・・女の子じゃなくてもいいんだよなぁ?」

「じゃあ聞くけど、平助の周りにはいるわけ?無償で男の洗濯物洗う物好きの男が」

「うっ!!確かに・・・・。俺だったら、絶対ェ嫌だ!つーか、そう言う総司はどうなんだよ?」

「心当たりがないから黙ってるんでしょ」

「・・・・二人とも、私語は慎め」




斉藤がやんわりと注意する。と二人は顔を見合わせた。



「じゃあ、そういう一先輩は誰か心当たりあるんですか?」

「千鶴も一先輩の紹介だったしな〜〜」



二人の言葉で視線が一斉に斉藤に向いた。

思わず目を見開いた斉藤だったが少し思案した後、口を開く。





「千鶴、君はどうだろうか」


「え、え?ちゃん!?」



斉藤の言葉に千鶴がわっ!と声を上げた。

その表情は驚いたような嬉しいような、そんな感じだ。



ちゃんがやってくれるならすごく嬉しいかも!で、でも、頼めるかなぁ・・・・」

上目遣いに斉藤を見る。その仕草は誰が見ても可愛らしい。

「彼女なら皆納得すると思うんだが。ダメ元で頼んでみるのも一つの手だろう」

「う、うん!そうだよね!ちゃんならきっと皆と仲良く出来るし、それにすごく楽しくなりそう!!」



話が弾む二人に他の部員は顔を見合わせる。

最初に口を挟んだのは藤堂だった。



「なぁ、そのってうちのクラスのやつだよな?」

「平助君って、1組だよね?そうだよ!ちゃん」

「千鶴と友達だったのか」

「うん・・・実はね・・・・」





藤堂の言葉に頷くと、千鶴は少し恥ずかしそうにとの出会いを話した。

3年の女子に絡まれたことを初めて聞いた斉藤以外の部員は一様に顔を顰める。




「どうしてもっとそれを早く言わねぇんだ」

「土方先輩・・・ごめんなさい。でも、その時にちゃんに助けてもらったんです!それから友達になって・・・」

「俺も千鶴と一緒に放課後よく話すようになったが、は誰に対しても平等だ。あれは中々出来ることではない」


千鶴の言葉に斉藤が付け足した。

すると藤堂が大げさにかぶりを振って頷く。


「あー、なんか分かる!ってさ、分け隔てないんだよな。どんなやつとでもすぐ仲良くなるし」

「いいんじゃねぇの。斉藤が押すヤツだったら間違いねぇし」

永倉も頷いた。原田もそれに続く。

「だな。入学したての1年が、3年に刃向って知らねぇヤツ助けるなんて中々できねぇよ。俺は気に入ったぜ!総司はどうだ?」

「面白そうな子だね。僕も異議はないですよ。部長は?」

「そうだな・・・とりあえず他に候補がいねぇしな・・・・山崎、お前はどうだ」



土方が黙ったままの山崎を呼んだ。

瞬間、びくりと山崎の肩震える。


「山崎?」

その様子を不審に思った斉藤が声をかけるが、山崎はなんでもないと静かに首を振った。


「・・・・・俺も、いいかと思いますが・・・・・」

「そうか。じゃ、とりあえず本人に会わねぇことにはな・・・・千鶴、連れて来れるか?」

「は、はい!!頑張ります!!」

「部長、その前に、まず本人の意思を確認するのが先じゃないの?
連れてくる前に断られちゃ話にならないじゃない」

やれやれと肩を竦めた総司に、土方は眉をぴくりとあげる。

「ああん?本人の意思になんか関係ねぇよ。首を縦に振らしちまえばいいだけだ。
無論、こっちが気に入ればの話だがな」





「「「「うわー、鬼部長」」」」




「原田、永倉、平助、総司、手前ェらこれから外周行くかぁ?ああ?」


土方の一言で、四人が一斉に首を横振る。


「土方、では彼女の説得は俺と千鶴が請け負う」

「ああ、任せたぜ、斉藤、千鶴。とにかく無理やりでも引っ張って来い!!」





鬼の怒号が響く。

かくして剣道部による捕獲作戦は決行されることになったのである。