千鶴に友達が出来ないらしい、と斉藤がぼやいていた。 原因がどうやら剣道部のマネージャーをしていることにあることも。 「女ってのはくだらねぇよなぁ」 その言葉を聞いた時、永倉は心底くだらないと思った。 見れば、その場にいた土方も同じようで渋面を作っている。 外面がいいというだけで、剣道部が人気があることを土方は心底嫌っていた。 確かに何故か、剣道部の連中は見目がいいのが揃っているように思う。 だがそれを鼻にかけて浮ついている人間など一人もいない。皆、真面目に剣道に打ち込んでいる。 キャーキャーと騒ぐ女を土方が一括して以来、表だって騒ぐ者はいなくなったが、 ずっといなかったマネージャーに斉藤の幼馴染の千鶴を入部させたことで、また密かに剣道部のファンの中に波紋を呼んだらしい。 千鶴は、中学の頃から剣道部のマネージャーをしており、斉藤の口添えもあって土方が入部を許した。 事実、マネージャーがいなくて不便だったことも多かったのだ。 土方達現三年が一年の時、男目当ての女ばかりがマネージャー希望に来たため、その制度自体がなくなっていた。 千鶴が特別扱いされていると思った三年の女達は揃って自分の部の後輩や千鶴のクラスの女子に圧力をかけ、結果千鶴はかろうじていじめられてはいないものの、クラスで友達と言えるほど仲良い子が出来ないでいた。 「悪いな斉藤、俺のミスだ」 土方が苦々しい表情で言う。斉藤は干満な動きで首を横に振った。 「千鶴は元々内気な方だ。・・・・馴染んだ相手には、そうではないが」 「同じクラスにゃ総司と山崎がいる。けどなぁ、やっぱ女同士の友達が必要だよなぁ」 千鶴が直接的な嫌がらせを受けてない理由は二つある。 一つは、千鶴を嫌っているのが、主に。三年生であること。 三年生に、あの子と仲良くするな、と言われて実際にイジメまでするほどのやつはいない。元々自分らに関係のないことなのだ。 もう一つは同じクラスに剣道部が二人いることだった。さりげなく二人が気を配っている。 だがこの二つの要素は結果として、女子の間に千鶴をなんとなく避ける空気を作っていた。 挨拶されれば挨拶し返すが、それ以上関わり合いにはなろうとしない、そんな雰囲気。 「誰か一人でもなぁ、いてくれればいいんだが」 さすがに男である自分たちが千鶴の友達作りにまで手を出すわけにはいかない。 こういうことは、自分でなんとかするしかないのだ。 それは皆分かってはいる。だがそれが歯がゆかった。 退屈な授業が終われば、後は楽しい放課後だけだ。 は鞄を持つとすぐにクラスから抜け出した。 「、帰り遊んでかない?」 「ごめん、無理―」 「あんた、またゲーム三昧?もう、たまには付き合いなよね!」 「ははっ、今やってるゲーム、クリアしたらねー」 友人の声掛けも断り、下駄箱へ急ぐ。 言葉通りの唯一はゲームだった。 アクション、RPG、などあげればキリがない。 特に戦国ものや、歴史ものが昔から好きだった。 靴を履き替えてさて帰ろうとしたところで、は可愛い頭がひょこひょこ歩いているのを見つけた。 最近友達になった雪村千鶴だ。 千鶴を助けて以来、どことなく話す機会が増え、今ではすっかりくだらない会話を楽しむくらいに仲良くなった。 は足音を忍ばせ、千鶴の背後に回った。 「ちーづーるーちゃん!」 「わ、ちゃん!?」 ひょいっと後ろから千鶴に抱きつくと、予想通り可愛い声を出して千鶴が振り返った。 「千鶴ちゃんはこれから部活?」 「うん!ちゃんはもう帰るの?」 「そー、今やってるゲームがさ、もうちょっとエンディングなんだよね」 「そうなんだ」 「そうなんですー」 千鶴の背中にへばりついたまま二人で笑い合う。 と、千鶴の目の前の人が、少し驚いた顔でこちらを見ていることに気づいた。 「あ、ごめん、一緒の人いたんだ。邪魔しちゃった?」 「ううん!大丈夫!あ、紹介するね」 「・・・三年の斉藤一だ」 「え?あ、です。」 軽く会釈すると、会釈し返してくれる。 もしかしてこの人が噂の幼馴染なのだろうか。もの静かな印象だけれど、やっぱり噂通りカッコいい。 「あ、じゃあね、千鶴ちゃん。斉藤先輩、失礼します」 「うん、また明日!」 「気を付けて」 手を振ってその場を離れると、二人は道場の方へ歩いていった。 「友達・・・・・出来たんだな」 「うん、違うクラスなんだけど、すごく明るくてね、楽しい子なんだよ」 そう言って笑う千鶴に斉藤は心底安堵の息を吐いた。 一人でも味方がいれば、あんな風に笑い合っていれば、自然と友人の数も増えるはずだ。 願わくば彼女が、千鶴を取り巻く環境を知っても変わらずにいてくれることを願う。 楽しそうにのことを話す千鶴を見て、きっと大丈夫だろうと、静かに彼女の話に相槌を打った。 |