「貴様ら、揃いも揃って何の用だ」 大きなノック音のすぐ後、勝手に開けられた扉の向こうには見慣れた顔がいた。 不機嫌さを隠さずに、風間は眉を吊り上げる。 「客が来てるはずだ。悪いがそいつ出してくれるか」 だが招かれざる客は一歩も引かない。風間に負けず劣らずの眼光で風間を睨みつける。 対峙する二人の身体の隙間から、平助が顔だけを生徒会室に突っ込み部屋の中を見渡す。 が、探し物は見つからない。 「土方さん、がいねぇ」 「団長、ちゃんはどこですか?」 沖田も素早く視線を生徒会室に巡らせた。だが、部屋の中にいるのは風間と天霧だけだ。 「ならもう此処を出ましたよ」 「弁当箱を置いてか?」 天霧の言葉に即座に土方が反応する。部屋のテーブルの上には食べかけの大きな重箱と、手の付けられていない小さなお弁当箱が置いてあった。 それは何度も目にしたことのある、愛用の弁当箱だ。 「つくづく邪魔なやつらだな」 「こんなことは言いたくないが、今回ばかりは同感ですね」 「は、どこだよ!つか、団長と生徒会長がになんの用だよ!」 平助の言葉に風間と天霧の両方が反応し、眼光の鋭さが増す。 まるで宿敵でも見るようなその眼に、平助はたじろいだ。 「感違いしているのは貴様らだ。あれは元々我らの 「どういう意味だ」 「貴様らの記憶にでも聞いてみるのだな。最も、今更無駄なことか」 そう言ってせせら嗤う風間に大きな音を立て一方的に閉じられた扉。 三人は訳も分からずその場に立ち尽くした。 「あだだだっ!痛っ、痛いんですけどぉ!」 「ちったぁ我慢しやがれ!しかしこれ・・・・俺が悪者じゃねぇの?」 「そう思うんなら降ろして下さいよ!ってかまず誰!?あんた誰!!」 「そういうてめぇは誰だ!?ん?・・・・やっぱこれ、おかしくね?」 首を傾げながら私を担いでいた男は生徒会室の下の下、2階の特別教室が並んでいる廊下で足を止めた。 そして少し考えた後、「よっ」と掛け声を掛けながら、俵担ぎにされていた私の体を廊下に降ろす。 そう、さっきまで生徒会室にいたはずの私は、突然現れた目の前の男の肩に担がれてここまで運ばれてしまったのだ。 しかしそれ自体命令したのは金髪の生徒会長で、生徒会室に入った瞬間女を担いで走れと言われたこの人もまた被害者なわけで。 「あーー、俺は不知火。一応生徒会メンバーな」 「あーー、一年のです。別になんにもしてないただのゲーマーです」 生徒会役員だと名乗った男は、長髪に派手なシャツとアクセサリー。 普段なら絶対に関わりたくない不良って感じだけれど、この状況だと逆に生徒会長や九寿先輩より常識人に見えるから不思議だ。 なんとなくお互いに気まずい雰囲気の中、不知火さんが口を開く。 「お前生徒会室でなにしてたんだ?」 「九寿先輩に呼ばれて・・・お弁当食べようとしてました」 「九寿ぅ!?なんでお前天霧のこと名前で呼んでんだ!?あいつの女か?」 「いやいやいやいや、違いますよ!なんか、そう呼んでくれって言われて・・・」 「天霧がか!?そりゃ、お前・・・・・」 「な、なんですか・・・」 顎に手を当てていきなり黙り込んだ不知火さんに、少したじろぐ。 もうすぐ昼休みも終わると言うのに、お腹は空腹で今にも鳴き出しそうだ。 すっかり動きを止めてしまった不知火さんと手の中の携帯の時計を見比べつつ、一歩後ずさる。 「じゃあ、私これで」 もうそんな心配はいらないだろうけど、一応警戒しながら教室へ戻ろうと身体を翻す。 すると不知火さんが顔を上げ、とんでもないことを言い出した。 「お前、そのパターンだと多分、生徒会に入れられるぞ」 「・・・・は?」 「俺の時も、千の時もそうだったからな。多分、お前もなんだろ」 「い、意味がよく分からないんですけど」 走りかけていた足が止まる。不知火さんの表情は至って真面目だ。 「俺も知らねぇけどよ。あいつら、時々訳の分からねぇこと言いだすんだよな」 「・・・・・・例えば?」 「俺も千・・・、副生徒会長知ってんだろ?女のちっこい奴。俺らいきなりあの二人に声掛けられて無理やり生徒会に入れられたんだよ、昔」 「副生徒会長ってあの美人の・・?理由はなんだったんですか?」 「それがまた訳分かんねぇんだよ。『それが そう言って私を指差す。 私は指差しされた指を見つめ、首を傾げた。 「こういう時?」 「いきなり生徒会室に俺ら連れ込んだ時もよ。天霧の奴、風間に賛同して俺ら無理やり生徒会に入れたんだぜ。俺は絶対ェ嫌だっつったのによ!」 「まぁ、不知火先輩どうみたって生徒会って感じじゃないですもんね」 「だろぉー!誰が見たってそう思うだろうが!!」 結構失礼なことを言ったのに、不知火さんは大きく頭を振って頷いた。 それにしても分からない・・・副生徒会長も不知火さんもあの二人に無理やり入れられて・・次は私?いやいやいやいや、 「そんな馬鹿な」 「なにがだよ」 「さすがに私が生徒会っていうのはないと思いますけど。私成績普通ですし」 「俺なんて赤点だらけだっつーの!そのくせ希望してきた奴は入れねェんだよなぁ」 「え!?そうなんですか?」 「それに剣道部の連中にも何かと難癖付けるしな。まぁ土方とライバルってのは分かるけどよ」 それにしたってなぁ・・・と長髪を掻き毟る不知火。 私はそれを眺めつつ、もう一度携帯の時計を確認する。もう、昼休みはほとんど残ってない。 「あの、不知火さん、私そろそろ・・・・」 「お、そうだ、お前携帯貸せ」 「は?」 手の中の携帯に気付いた不知火が、自分のズボンのポケットから紺色に派手な金色の龍のシールが貼られている携帯を取り出す。 「何かあったら助けてやっから。赤外線出せ」 「あ、はい!」 慣れた手つきで携帯を弄る姿に私も慌ててメニューボタンを押す。 赤外線ってどこのメニュー開くんだっけ、なんて考えていると静かだった廊下から一つ、足音が聞こえた。 誰か来たのだろうか、と思って振り向くと、そこには少し息を切らせた烝の姿が。 「なにやっているんだ、お前は・・・・」 怒っているというよりは、呆れているようなその声に私はたじろぐ。 不知火さんはというと、ちらりと烝を一瞥しただけで私の携帯と自分の携帯の赤外線部分を二つ重ね合わせている。 「おい、、行くぞ」 「あ、うん、不知火さん、携帯!」 「おう、終わったぜ。じゃあな」 私の携帯を軽く投げて残すと不知火さんは軽く手を上げて、烝が来たのと反対の方向に歩きだした。 携帯の画面には初めて見る番号とメルアド、それに名前が表示されている。 登録ボタンを押して携帯を閉じる。顔を上げると眉間に皺を寄せた烝と目が合った。 「あの人も生徒会だろう。お前はなにをしているんだ」 「なにしてるって・・・・・不知火さんの苦労話を聞いて・・・、た?」 「疑問形で答えるな。そもそもどうしてお前が生徒会と・・・・・いや、別にいい」 「烝?」 「なんでもない。それより早く戻るぞ。もうチャイムが鳴る」 「あ!私結局お昼食べれてないし!!」 「・・・・・本当に何をしているんだ、お前は・・・・」 「烝こそなんで此処に?あ、もしかして私のこと探して―――」 「ない。たまたま通りかかっただけだ」 「あ、そう」 まぁ、そうだろうけど。わざわざ烝が私を探しに来るわけがないけど。 じゃあ息切れしてんのはトイレにでも駆け込んできたのか、とツッコんでやろうかと思っていると、烝の手がいきなり動いて私から携帯を奪う。 「ちょ、なにすんの!!」 「番号、交換したのか」 「え?・・・ぁあ、不知火さんと?したけど」 「・・・・・・・・馬鹿が」 「もしもし聞こえてますけど。馬鹿の携帯返してくれます?」 「・・・・・・」 「あ、投げんな!」 無言で投げられた携帯。呆れを通り越して今度は不機嫌になった幼馴染。 無言で歩き出す背中を追いかけながら、メルアドも名前すら入力されていない番号が一つ増えていることに気付くのは。 まだ当分先のこと。 辿られた縁「全く勘違いも甚だしい。あれは我らの 「必ず手に入れます。―――――――――渡しはしない」 |