執着したのは自分一人

固執したのも自分一人




だから貴方は私を覚えてはいない
けれど私は貴方を忘れはしない


ずるいのは私だろうか。
ひどいのは貴方だろうか。



私は貴方を知っている。
けれど貴方は私を知りはしない。



それはまるで永遠の拷問のように、私を蝕む鎖となる。







辿る縁
















「なーんか、気に入らねぇよなぁ」



を天霧に連れて行かれた平助は、一人国語準備室に向かっていた。

剣道部だっていつもいつも同じメンバーで昼食を取っているわけではなく、偶に別の友達やクラスメイトと食べたりもする。

だからが一緒に来ないこと自体は別に構わないのだ。

ただ気に入らないのは、天霧のあの態度。



「いかにも自分がと仲が良いみたいに言いやがって」




名前で呼び合っていたのだから、平助が知らないだけで本当に仲が良いのかもしれない。

けれど気に喰わないのはあの、視線。

平助の知っている天霧という男は、始終穏やかでけれど鬼のような一面を持つ。

生徒会役員として誰でも優しい反面、悪意を持つ者、規律を守らない者には容赦ない。

天霧が平助に向けたのは、まさに外敵を見下すような視線。

何故あのように威嚇されなければならないのか、皆目見当がつかない。




「あーもー気分悪ぃ」


思わず声に出しながら、国語準備室の扉を開くと、そこには既に剣道部のメンバーが揃っていた。

皆、突然の平助の言葉に何事かと箸を止める。


「どーした、平助。居眠り見つかって怒られでもしたか?」


すかさず声を上げたのは原田で、同意するように永倉が笑い声を上げる。


「まま、座れって。俺がセンコーの説教を短くする方法を教えてやるからよぉ」

「それってあてになるの?いまいち信用できないなぁ」

「んだと、総司!お前にはぜってぇ教えてやらねーからな!」

「いらないよ。・・・あれ?平助、ちゃんは?」



総司が一緒に来るはずのの姿がないことに気付いて、箸で平助の背後を指した。

行儀が悪いと斉藤と土方に睨まれるがどこ吹く風だ。

その言葉に平助はまたさっきのことを思い出して声を荒げた。



なら団長と一緒!あーもームカつくなぁ!!」

「団長?天霧のことか?」

斉藤が反応する。斉藤と天霧は同じクラスで仲が良い。



「そーなんだよ!烝君、知ってた?が団長と仲が良いって」

「いや・・・・聞いてないが」


話題を振られて山崎が困惑したように顔を上げる。

まだまだ距離のある二人は、互いの人間関係までは把握していない。


「あいつが生徒会役員と知り合いとは思えない」

「でも名前で呼び合ってたんだぜ!!それにさぁ!!団長まるで俺が邪魔者扱いだしさ!!」

君と天霧が?天霧が女生徒を呼び捨てなど考えられないが」



山崎と斉藤がそれぞれ平助の言葉を否定する。

だけど、と平助が反論しようとすると、沖田が片眉を吊り上げて口を開いた。



「なんかさぁ、それってまるで二人が特別な関係みたいに聞こえるけど?」

「それは、ないんじゃないかな」


今まで黙っていた千鶴が控えめに口を挟む。

そう言えるのは、の山崎への想いに気付いているから。それは沖田も同じだ。


ちゃんにその気がなくても、団長がちゃんを気に入ってるってことはあるんじゃないの?」



その言葉は山崎へ向けられている。

山崎はひどく不快そうに眉を吊り上げ、沖田を睨んだ。



「接点がないだろう。が団長となんの関係がある?」


山崎はくだらないと一蹴する。

だが平助はだんだんと分かってきたような気がした。

天霧の、あの視線の本当の意味は、きっと、


「それ!案外有り得るかもしんない!」

「平助君?」

千鶴が首を傾げる。

「あの人、俺に嫉妬してたんだよ!だからあんな眼してたんだ!」

「おいおい、大丈夫なのかよちゃん。生徒会ってなぁ・・・・」



永倉が土方を見る。生徒会会長風間は実力はあるが強引な手腕で知られている。

その横に控える不知火と天霧、生徒会役員は良くも悪くも個性派揃いだ。




土方は眉間に皺を寄せて、横目で時計を見た。もう昼休みの半分が過ぎている。


「山崎、ついてくる気はあるか?」

「生徒会室へ、ですか?」


土方が足を向けるほどのことだろうか。

山崎の躊躇を見抜いて沖田が立ちあがる。


「山崎君が行かないなら僕が行こうっと」

「おいおい、総司」

「俺も行くー!ぜってぇ行く!!!」


止めようとした原田の言葉を遮り平助も立ち上がった。

よほど天霧のことが腹に据えかねたのだろうか、さながらデモ行進のような勢いだ。

バタバタと三人が出ていき、残されたメンバーは互いに顔を見合わせる。



「いいのか、行かなくて」

その場にいたメンバーの気持ちを代弁したのは斉藤だった。

それが誰に対しての言葉なのかは、敢えて誰も聞かない。



パタン、



やがて扉の開閉の音がし、一つの足跡が遠ざかっていく。

遅れた足音は果たして間に合うだろうか、と誰ともなくため息をついた。































「――――そこまでにしておけ」






突然感じた重みに驚きで声が出ないの耳に、ふいに第三者の声が聞こえた。

それはどこかで聞いたことがあるような、ないような抑揚の感じられない声。

その声に天霧の動きが止まる。



「貴方が邪魔をするのですか、風間」

「手順を見誤るな。貴様らしくもない」

「あの・・・えーと、・・・・」



どうやら見知らぬ相手は天霧を諌めているらしかった。

応援団団長であり生徒会役員である天霧に対し発言できる人物、それは一人しかいない。



「あ、せーとかいちょーーだ」

「貴様もふぬけた声を出していないで、抵抗しろ」

「いや、なにがなんだか・・・さっぱり」



体制はいまだ天霧に押し倒されたまま。けれど第三者が現れたことで身体から力が抜ける。

天霧は耳元でため息をつくと、すっと身体を引いた。


「申し訳ありません、少し気が急いていたようです」

「切望していたものが目の前にぶらさがっていればな。だが時期尚早だ」

「そうですね。だが新撰組の傍にいるとなれば気が気でない」

「ふん。つくづく邪魔なやつらだ」



「・・・・・新鮮?新鮮組?」




何を言っているのだろう、と二人を見る。

すると生徒会長はまるで何事もなかったかのように、部屋の奥のまるで社長のデスクのような椅子に座り、天霧は膝をついてこちらに手を伸ばした。

頬に伸ばされた手に、反射的にの肩が揺れる。



「すみません。あまりに急ぎすぎました」

「あの・・・よく分からないんですが・・・・」

「・・・・・私は、、貴方を、ずっと―――――」






一瞬、躊躇した手はそれでもの頬に伸びた。

鍛えられた無骨な指が頬を撫でる。




けれど言葉は最後まで紡がれることはなく。









大きなノック音に遮られた。


















新鮮組=実在するスーパー(笑)
一年生ズは生徒会役員と個人的接点がない(式典とかで見たことある程度)ので
それぞれ役職で呼んでます。
風間=生徒会長 天霧=(応援)団長 不知火=生徒会役員の人、程度の認識。