憂鬱な朝がやってくる。

あんな失敗をして、どうしたら、いいんだろう。

きっと嫌われた。いや、最初から嫌われてはいたけれど、それよりももっと、ずっと。

極力近寄らないつもりだったのに。迷惑かけるつもりなんかなかったのに。

頭の中をぐるぐると廻る泣きたくなる思考。

いっそ朝なんか来なければいいのに、なんて思った瞬間タイミングよく鳴る携帯のアラーム。

嫌だいやだと思いながら目を開けるとそこには、






「・・・・・・・・・・・・なにしてんの、藤堂」




「いや、千鶴がが起きてこないっていうからさ、起こそうかと思って来たんだけど」





ヤンキー座りでじっと私を見る藤堂がいた。




















「いやいや、乙女の寝顔じっと見てるとかありえないから」


とりあえず布団を思い切り被って睨みつけてみる。


「だから起こそうと思ったら、が先に起きたんだよ。だから寝顔なんて見てないって!」



そんな私の言葉に慌てて首を横に振る藤堂。

まだ朝の六時だというのに、この爽やかぶりはさすがイケメンといったところか。

それに比べて私は寝ぐせだらけで顔も洗ってない状態。



「とりあえず起きたから、着替えたいから出てって」

「・・・・・テンションひっくいなぁ。あ、そうそうちょっと聞きたいことあったんだよ」

「10文字以内で要約しなさい」

「無理だから!あのさ、って烝君とどういう知り合い?」





藤堂の言葉に、布団から出るに出れずにいた私の身体が固まる。

まさか朝起きて1分で確信に迫られるとは思ってもいませんでした。

しかも相手は沖田じゃなくて藤堂。きっと悪気があるわけじゃないだけに言葉に詰まってしまう。

黙ってしまった私の微妙な雰囲気を察したのか、藤堂は慌てて手を横に振る。




「や、別に話しづらいことならいいんだけどさ。なんか、気になったっていうか・・・
全然知らない仲ってわけじゃなさそうだしさ」

「別に、話すほど特別なこともないんだけどね」

「じゃあ、・・・なに?」




千鶴ちゃんが開けておいてくれたのだろうか、窓からは合宿所らしく緑の匂いと風が流れ込んでいる。

その風に揺れる髪の下には、口では遠慮深そうなこと言っていたくせに、本当は興味津津だと言わんばかりの瞳が覗いている。

・・・・・・・・犬?



「・・・・ただ、小中学校が同じなだけ。でも別に仲良くなんかないし。」

「そうなんだ!でも名前で呼んでたじゃん」

「ちっちゃい頃ってそんなもんでしょ。でも別に仲良くないのに、知ってるていうのが気まずいっていうか・・・・」

「あー、それ分かるなぁ!顔だけの知り合いって道で会うと避けたくなるよな。別に挨拶しなきゃいけないわけなないのに」

「そうそう、それ!だから別になんもないのー。すす・・・山崎にも変なこと言わないでね。赤の他人と変わらないんだから」

「うん、わかったけどさ・・・」



藤堂の言葉をよそに、赤の他人と自分で言って心がちくりと痛んだ。

隠した想い以外は嘘なんて一つも言ってないのに、どうしてこんなに胸が痛むのか。

それを表情に出さないように布団で半分顔を隠しながら、絶対に言っておかなくてならないことを口にする。




「それ皆に言わないでね。わざわざバラすことじゃないし」

「別に隠すことでもなくねぇ?」

「いいから。なんか言われるの嫌なんだってば。山崎だって嫌だろうし、私嫌われてるし」



言いたくなかったことまでぽろりと言ってしまう。

しまったと思った時にはもう遅かった。目の前には眼を丸くした藤堂。




「え?なんで?」

「・・・・・多分、ぎゃーぎゃーうるさいからじゃないの。もう、いいでしょ、ほら出てけ」


また何か言いそうになった藤堂を手で追い払う。

話している内に随分時間が経ってしまったから、それには藤堂も素直に腰を上げた。



「皆に言わないでよ」


もう一回釘を射す。すると不満げに藤堂が頬を膨らませた。


「言わねーよ!あ、そうだ、俺のこと平助でいいから」

「・・・・・は?イキナリどうしたの」

「よそよそしいの嫌いなんだよ、俺。だから俺もって呼ぶけど、いい?」

「まぁ・・・・いいけど」





名前を呼ばれることには特に抵抗はない。呼ぶのには慣れが必要だろうけど。

私が頷くと、藤堂・・いや、平助は満足そうに頷いた。



「じゃあ早く着替えてこいよ、あ、そうだ」

「今度はなに!」

「おはよ、

「・・・・・・おはよう、平助」




爽やかに去っていく平助に、私は少し考え違いをしていたかもしれないと反省した。

顔が良くても性格が悪けりゃ、と思っていた剣道部(主に沖田)にもいい奴がちゃんといるということを。

しかしながら今考えるべきことはそこじゃない。私はまだ問題が解決していないことに気付き、頭を抱えた。
























一方平助はの部屋を出てから、うんうんと唸っていた。

平助の性分から言えば、仲間内で仲が悪い人間がいてほしくはない。

なにか原因や誤解があるならそれを解きたいし、出来れば仲良くなって欲しい。

は山崎に嫌われていると言っていた。それが二人が知り合いなのにも関わらず他人のふりをする理由なのならば。

山崎に聞いてそれが本当か確かめたい。友人である千鶴以外にと接点があるのは唯一クラスメイトである自分だけなのだ。


騒がしいのが原因で嫌われるなら、自分なんかとっくに嫌われている。

それにどうしても、千鶴を助けてくれたが正義感の強い山崎に嫌われるとは思えない。






「つってもなぁ・・・・内緒にしとけって言われたし」

「・・・・・・・・・・それってもしかしてさんと山崎君のこと?」

「そうそう、どうにかしたいよなー・・・・・・・ってそ、総司!?
なんで知ってんだよ、と烝君のこと!!」

「全部聞いてたから」

「全部って・・・・・・盗み聞きかよ!!

「人聞き悪いなぁ、聞こえちゃっただけだってば」

「同じだろ!!!つーかぁ!余計なことするなよ、総司!お前が手出すと余計ややこしくなるんだから!」

「それは平助だって似たようなもんだと思うけど」

「少なくとも俺は二人のことをちゃんと考えて行動する!でも総司は面白がってるだけだろ!!」





平助の言葉に、黙って人の悪い笑みを浮かべる総司。

これはヤバい、瞬時にそう判断したが、止める間もなく総司はすたすたと歩いていってしまう。






「お、おい、総司!!」

「うるさいよ、平助。で、平助は二人を仲良くさせたいわけだ?」

「え?あ、そうだけど・・・烝君、本当にのこと嫌いなのかがまず疑問なんだよなぁ」

「そういう平助はいつの間にかさんのこと名前で呼んじゃってるんだ」


総司が進めていた足をぴたりと止めて振り向く。


「いーだろ、別に!もう、とにかく総司は余計なことするなよな!」

「それは僕の気分次第だなぁ」

「気分ってなんだよ!気分って!!」






総司の笑みは崩れない。

しかしここで止めなきゃ――・・・



「じゃあ平助は山崎君担当ね。僕はさん」

「は!?ちょ、ちょっと待てって!担当って、なにすればいいんだよ!?」

「それは自分で考えなよ。二人を仲良くさせたいのは平助なんだから」




さらりそう言い放ち、総司は足早に廊下を歩いて行く。

置いてかれた平助はその後姿を見つめながら呟いた。







「まじぃ・・・・よな・・・・・・」




絶対に総司は面白がっている。ただ二人を仲直りさせる、だけで終わるはずがない。

どうしたらいいんだろう、と途方にくれた平助は、とにかく誰かに相談しようと、

総司とは逆の方向に廊下を駆けた。