退屈な授業の前半が終わり、ようやく昼休み。 はいつものように鞄から弁当を取り出して――――固まった。 軽い。この軽さは間違いなく中身が入っていない重さだ。 急いでお気に入りの猫のお弁当箱を開けるとそこには本来あるべきものがなく、あるはずのないものが一つ。 「あの野郎ぉおおおお!!!」 それを見つけるなり、は屋上へと直進した。 残されたのは、硬直したクラスメイトと、おいてけぼりの平助、そして一枚のメモ用紙だった。 君の背中 番外4 〜沖田総司と〜 今日は屋上な、と言ったのは平助だった。 合宿以来、何故か剣道部とお昼を食べるのが日課になってしまったは空のお弁当箱をこれでもか、というくらいに振り回しながら、屋上のドアを勢いよく開いた。 ドカン、と大きな音がしてその場にいた全員が驚きの表情で振り向く。 その中で動じていないのはただ一人。 はその人物の目の前にずいっと軽すぎる弁当箱を突き出した。 「沖田ぁ〜〜てめぇ、これどう釈明する気だコラァアア”」 地の這うような低音で唸るに呼ばれた張本人はどこ吹く風で笑っている。 ただの女生徒から見れば黄色い声が上がりそうな笑顔なのだが、生憎とここには沖田の笑みの真の意味を知らない者はいない。 斉藤と千鶴はまたか、と顔を見合わせ、永倉と原田は苦笑し、山崎はため息を吐き、土方は米神に一筋血管を浮かび上がらせた。 「なぁに、ちゃん、そんなに急いで僕に会いに来たわけ?」 「おーし、歯ァ食いしばれ!」 「やだなぁ握りこぶしなんか握っちゃって。やめてくれる?怖いから」 「だったら説明しろやぁ!!なんで私の弁当箱が空になっとんのじゃあああ!!」 「うん、美味しかったよ」 「土方先輩、いーですよね?私殴ってもいいですよね?」 の言葉に、土方は眉間に手を当てて好きにしろ、と吐き捨てる。 途端、舞った拳の弾幕を剣道部の新人エース・沖田総司は華麗に避けた。 「腹立つ!よけんな!」 「山崎君、君の幼馴染は暴れん坊だねぇ。どういう教育してるわけ?」 「お前が構わなければもう少しマシなはずなんだが」 土方と全く同じ表情をしている山崎が、暴れていると沖田を出来るだけ視界に入れないように横に横にと避けながら箸を進める。 それに習うように、他の面々も横に移動し始めた頃、ようやくに置いていかれた平助が顔を出した。 「あーあ、またやってんのかよー」 呆れた声と共にがさごそと手元のビニール袋の中から菓子パンと取り出す。 「ー、ほら、俺が昼飯買って来てやったからさー、さっさと食おうぜー」 その言葉に一人は舌打ちし、一人は歓喜の声を上げる。 「さすが、平助!愛してるーー!!」 「いらないことしないでよね、平助。これからが面白いところなのに」 「総司、いつの間に弁当食ったんだよ。それになんだよ、これ」 の愛してる発言を華麗にスルーした平助はヒラヒラとメモ用紙を皆に見せる。 それを見たメンバーの反応は様々で、 「俺的にはもっとあってもいいと思うけどな」 「新八の場合は上半身の一部が、だろ」 「てめぇら!ガキの前で馬鹿なこと言ってんじゃねぇ!!」 原田と永倉が正直過ぎる感想をぶちまけ、土方の怒声が飛ぶ。 その声に驚いた平助の手からひらりと舞い降りたメモ張の内容に山崎は眉を顰めた。 『目標 3キロ 減』 「・・・・・まぁ、雪村君に比べればな」 「烝ーー!あんたもさらっと本音言ってんじゃないわよ!!」 「ちゃん、全然太ってなんかないよ!」 「身長から比べれば標準だろう。ただ、千鶴に比べると幾分逞しく感じるのは何故だろうな」 「ちゃんが逞しいのは体格じゃなくて性格だよ、一君」 「おーきーたー!!」 「つーか、、昼休み終わっちまうぜ?」 既に自分の弁当に手を付け始めた平助が用にと買ってきてくれたパンを差し出す。 見れば乱闘を演じていた沖田と以外は半分以上食べ終わっている。 「くそ!お金は沖田に請求してね!」 「しょうがないなぁ。今日だけ特別だよ?」 「あんたはなんでそんなに偉そうだ!?」 こんなのが日常になりつつある。 どうかしてる、と思いながら、これが楽しいんだから仕方がない。 とりあえず空になったパンの袋を沖田に投げつけると、それは見事に横にいた永倉先輩に当たった。 決してヒロインは太ってません。性格が逞しいだけです(笑) |