君の背中 番外2 〜三馬鹿トリオと









どうしようかなぁ・・とは目の前のブツを前に頭を悩ませていた。


がいるのは滅多に来ることない大型スポーツ用品店で、目の前にあるのは体育会系によくあるジャージだった。

ジャージと言ってもなんでもオシャレにしてしまうアパレル業界、おじいちゃんがゲートボールする時に着ているような芋ジャーから、普段着代わりに来ている人もいるようなもの、スポーツブランドの万単位してしまうものまで、種類は様々だ。


数日前、千鶴ちゃんと斉藤先輩に負けて参加することになってしまった合宿で使うものを買い出しに来たのだが、典型的なお泊りグッツを100均で買え揃えた後に訪れたジャージコーナーで行き詰ってしまった。

斉藤先輩にもらった合宿のしおりによると、合宿中は行き帰りは制服、それ以外はジャージ着用とのこと。

けどそれは学校指定のジャージでなくてもいいらしい。

そう言われると、ダッサイ学校指定よりは市販のジャージを着たいというのが、高校生としての大半の意見だと思う。

そんなわけで買いに来たのだが、普段部活とも体育会系とも全く無縁な

思ったよりも遥かに多いジャージの種類にどれがいいのか悪いのかさっぱり分からなくなってしまった。




「赤とかピンクとかはさすがになぁ・・・でも黒は黒で地味だし」



やっぱりナ〇キとかプ〇マとか買った方がいいんだろうか。でもノーブランドの方がはるかに安いし。

つかこれサイズはフリーサイズ?うわっ合宿終わったら絶対パジャマだよ。



何着か手に取ってはまた戻すの繰り返し。

そろそろ小腹も空いてきたし、いい加減決めなきゃな、と時計を見る。






「新八、あと何買うんだ?」

「俺ジャージ買わねぇと。膝に穴空いちまってる」

「ははっ、新八さん、だっせぇ」





なんだか聞き覚えのある声に、は物色の手を止めた。

この声の主。一人は確実にクラスメートで残りの二人は剣道部のはずだ。






(なんで鉢合わせするかな!!)






慌てて店の奥の死角へ回り込む。

別に逃げる必要はないのだが、かと言って律儀に挨拶する義理もない。

ジャージ買いに来ましたなんて下手に言って、こいつ張り切ってんな、よしこき使ってやろう!なんて思われたくはない。


そろりそろり、見つからないように商品に隠れながら出口を目指す。

と、あと少しで出口、というところで三人の方をちらりと見ると、ハタっと目が合った。

赤味がかった髪が特徴的な原田先輩と。




「あれ、あんた確か」

「へ、なんだ?」

「あ、じゃん!なんだよ、お前も買い物か!?」

「イエ、タダノトオリスガリデス」



そう言って何事もなく店から出ようとしたけれど、その腕はいつの間にか真後ろにいた原田先輩にがっしり掴まれた。




「別に逃げることねぇだろ。合宿の買い出しに来たんだろ?」

「ヒトチガイデス」

「クラスメート目の前に人違いはねぇよ、

「お前やっぱり面白ェやつだな!何買いに来たんだ?」

「・・・・・・・ジャージ、です」



まるで悪気がない原田先輩と苦笑する藤堂、そして豪快に笑う永倉先輩に挟まれ、仕方なく白状する。

すると三人が顔を見合わせ、同じ表情をして笑った。




「じゃあ俺ら選んでやるよ」

「結構です」

「遠慮すんなって!千鶴は確かピンクのやつ着てたから・・・赤とかいいんじゃね?」

「や、派手すぎるでしょ」

「なんなら俺とお揃いにするか?お、これなんかどーだ!俺が黒でお前が白!」

「それじゃ夫婦漫才みたいじゃないですか」



二つお揃いの柄を差し出してきた思わず突っ込むと、それがツボに入ったのがバシバシと永倉先輩に肩を叩かれた。


「普通カップルみたいとか言わねぇ?いや、やっぱお前最高!」

「予算は?」


原田先輩にまともなことを聞かれ、素直に5000円です、と答える。

すると藤堂がおもむろに値札を見てにやりと笑った。


「これ4550円だって!ぴったりじゃん!二人ともこれにしなって!」

「じゃ、そーすっか!、サイズは?Mくらいか?」

「え?なんで決定事項になってるんですか」

はそこそこ背があるし、Mでいいだろ。ほれ」



そう言って手渡されたのは永倉先輩とお揃いの真っ白な生地にいくつかラインが入っているシンプルなもの。

まぁ無難というか間違いはないデザインだ。真っ白過ぎて汚れた時のことが少々気になるが。



「今をトキメク永倉様とお揃いなんて友達に自慢出来るぜー?」

「え、ちょっ、永倉先輩のどこら辺がトキメイてるんですか?頭の中?」

「よくわかったなー、。新八さんの頭の中には花畑があるんだぞ」

「そうそう、そんでそこで毎日恋の花が咲いては散って咲いては散って」

「おらぁ、左之!なんで散ってんただよ!勝手に散らすんじゃねぇ!!」

「へー、今をトキメク永倉先輩は散るのが得意なんですね。さすが今をトキメイている男!」

「トキメイてねぇだろ、それ!!」




永倉先輩の言葉に一斉に笑い声があがる。

思ったよりも話しやすい先輩たちにちょっと安心した。

やっぱりどうせやるなら楽しい方がいい。




「じゃあ私お会計してきますんで」

「あ、俺も」



永倉先輩と二人でレジへ向かう。

とりあえず先に払おうと財布を出している永倉先輩に順番をゆずって、自分の番が来るのを待つ。

永倉先輩がレジを終えて待っていた二人と合流するのをなんとなく横目で見つつ、商品をレジに置くと店員のおばさんが、あらっと笑った。



「いーわね、彼氏とお揃い」

「え!?いや、違います」

「あら、照れちゃって」




お約束みたいなことを言うおばさんに否定してみるも、若いっていいわね、なんて言われてしまう。

ちらりと三人を見るとレジとは離れた場所で雑談している。どうやら話は聞こえていないようだ。

否定すればするほど聞く耳を持ちそうにないおばさんに、もういいやとさじを投げる。




「ありがとうございました」



店の袋に入れられたジャージを受け取り、さっさと出ようと出入り口に向かって歩き出すと三人が寄ってきた。


、お前もう買い物終わり?」

「うん、一応」



今日買ったものを思い浮かべながら、藤堂の言葉に答える。

修学旅行でもないから、そこまで張り切って新品を揃える必要もないだろう。



「俺らこれから飯でも食おうかと思ってんだけどよ、良かったら一緒にどうだ?」

「へ?いいんですか?」

「いいもなにも俺らが誘ってんだからよ」



原田先輩はにこにこと笑いながら、私の両手に下がっていた買い物袋を持ってくれた。

カッコ良くて気遣いも完璧で物腰が柔らかい。これはモテるなと納得してしまう。

四人で歩きだしながら、ふとずっと疑問にしていたを聞いてみようかという気になる。

それは千鶴ちゃんイジメのこと。



「あの原田先輩、千鶴ちゃんのことなんですけど」

「おう、なんだ?」

「どうして先輩たちは千鶴ちゃんのイジメを止められなかったんですか?」





私の言葉に、前を歩いていた藤堂と永倉先輩の話し声がぴたりと止まり、私の横を歩いていた原田先輩の顔が一瞬強張った。

悪いことを聞いているとは思う。けれど斉藤先輩や彼らの人となりを少しだけれど知って、だからこそ疑問に思ったのだ。

彼らは自分達の為に働いているマネージャーが自分たちのせいでイジメに合っていると知って放っておくような人間じゃない。

それなのに現状は千鶴ちゃんに対してのイジメは止んでいない。

原田先輩は辛そうにため息をつき、そして少し遠くを見ながら口を開いた。


「・・・・最初は俺達も色々したんだ。嫌がらせしてんのは二年三年連中だったから、そいつらに直接言ったりもした」

「それでも駄目だったんですか?」

「俺らが言った後によ、千鶴がもっと責められたんだ。俺らにチクっただろ、とか今度は俺らに見つからないように巧みに千鶴を呼び出して」

「理不尽ですね」



だがその理不尽は、子供が形成する学校という社会でのみ、横行するものでもある。

悪い事をした子と、それを先生に教えた子。どちらが悪いかなんて比べるのも馬鹿馬鹿しい。

けれど子供社会でのみ、先生に教えた子が悪い、という価値観が時として成立してしまう。



「千鶴も段々嫌がらせされてもそれを隠すようになって・・・総司が証拠がないとダメだって言って随分躍起になってたんだけどな、ある日斉藤が言ったんだ」

「斉藤先輩が?なんて?」

「千鶴に友達が出来た。だから少し様子を見ようってな」

「それって・・・」

「あんたのことだ。だから逆にに聞きたい。俺らのことどう思ってる?」




原田先輩の問いかけにそれはどういう意味だろうと思う。

明るく穏やかな性格の中に時折感じる思慮深さ。

一体どんなことを言えば、この人は満足するのか分からない。



「正直に言っても?」

「おう、もちろん」



原田先輩の目を見ながら言えば、逸らすことなく返された。

前を歩く二人もずっと黙ったままだから、私たちの会話を聞いているに違いない。








「女一人護れないで、なにが剣道部だ腰ヌケども」







・・・・・・少し正直に言い過ぎたか、と思いつつ反省はしない。

私の言葉に前の二人は勢い良くこちらを振り返り、原田先輩は一瞬動きを止めて・・・・その後何故か。




「「「あはははっ!」」」



爆笑された。しかも三人一緒に。



「ええと、何故笑うか分からないんですが」

「ありがと、な」


私の疑問には答えず、原田先輩に頭を撫でられる。っつかこの人絶対千鶴ちゃんにも同じことしてるだろう。



「お礼を言われることは言ってないんですけど」

「正直に言ってくれたからだよ。普通、そう思うよな。はちゃんと俺らの中身見ていてくれてるってことだろ?」

「中身、ですか」

「そう、中身だ」





原田先輩その言葉にはどこか思うものが含まれている。

外見が良いからという理由だけで騒がれて、中身は見てもらえない。

それは人間として正当な評価が受けられないということ。

人間のほとんどは第一印象で人を差別する生き物だから。

外見や家柄、出身など自分ではどうしようもない事柄でしか評価されないのはきっと辛いこと。





「まぁ、私は」

「うん?」

「先輩達の内臓なんて見たくないですけどね」

「は?内臓」





私が少しおどけたように言うと、首を傾げた原田先輩。そして私の意図をいち早く理解した永倉先輩が豪快に笑いだす。

辛気臭いのは嫌いなのだ。





「おうおう、俺の内臓はきっと綺麗だぜーー!?なんなら見てみっか?」

「それは切腹申告と受け取っていいんですね?さすが剣道部!」

「新八さんは腹の中胃袋だらけじゃねぇの!」



続いて藤堂も騒ぎ出す。原田先輩が少しだけ歩く速度を弛めて呟いた言葉は。





「ありがとな、
















確かに私に届いていた。