とおりゃんせ、とおりゃんせ、 この道どこへ逝くものぞ モウリョウ不思議なことに、上半身と下半身のテケテケは抱き合いながら一緒に消えてしまった。 その瞬間、全員の息を吐きその場に崩れる。 だがすぐには沖田の事を思い出し、山崎の身体から手を離して、一人立ち上がった。 「山崎君、早く沖田君のところへ戻らないと!」 「! そうだな!こんなところで立ち止まってる場合じゃない」 その言葉に四人の視線が、に集中する。 この異常な空間の中で見慣れない人間の姿に多少なりとも警戒しているのが分かる。 だが自己紹介している暇などない。一刻も早く沖田の元へヒトガタを持ち帰らなければならないのだから。 「山崎、他の連中はどうした?どこにいる?」 「それにあんたは誰だ・・・いや、俺達の他にもまだ誰か校内にいるのか?」 「そ、そうだ、お前らも化け物に襲われたんじゃねぇのか!?」 「どうやら俺達は学校の怪談ってやつに巻き込まれちまったらしいぜ。まぁ疑問点はあるが」 土方、斉藤・永倉・原田から立て続けに浴びせられた質問に二人は顔を見合わせた。 山崎は手の中のヒトガタを見つめた。もはや時間は残されていない。 「土方先輩、今は詳しく説明している暇はありません。一階で沖田が一人で、いや、二人で闘っているんです! 俺達は沖田のところへ戻ります。先輩達は反対側に言って、平助と雪村君と合流してくれませんか」 土方の返事を待たず、山崎は左手でヒトガタを抱え、右手での手を握って走り出す。 随分時間をロスしてしまった。果たして沖田は無事だろうか。 人面犬が本当に味方ならば、無事である可能性も高い。 だが、本当は敵であったなら・・・自分達を騙し、沖田を孤立させるのが目的だったなら自分達は罠にかかったことになる。 その不安は最初からあった。だがそれを口にしなかったのは、沖田の決意があったからだ。 「まて!山崎!!総司は誰といるんだ!?」 「お前たちだけで行くつもりかよ!畜生、どうする、土方!」 あっという間に姿の見えなくなった二人に、原田と永倉が声を荒げた。 異常事態では情報の有無が命取りになる。 山崎がそれに気付かないはずがない。にも関わらず、なんの説明もしなかったのは、出来なかったからだ。 それだけ時間がない。一分一秒を惜しまなければ、総司が危ないという。 「・・・・お前ら三人は平助と千鶴と合流してくれ。俺は山崎達を追いかける」 しばしの沈黙の後、土方が決断する。 「一人で大丈夫か」 斉藤が問う。 「今すぐ追いかければ問題無ぇ。俺が山崎達と合流すりゃあ四人・・いや、総司と一緒にいる奴も含めれば五人になる。 お前らが千鶴達と合流して五人。これ以上の分裂は避けてくれ。集合場所は・・・・宿直室。あそこなら非常用の道具や食糧も備えてある」 「けど気になるぜ。山崎と一緒にいた女、それに沖田と一緒にいる人間・・・一体誰だ?」 「今はそんなこと言ってる場合じゃねぇ!平助と千鶴だって二人きりで襲われてないとも限らねぇんだぜ!」 原田の疑問を永倉が一蹴する。 確かにそうだ、と斉藤が頷いたのと同時に土方は職員室から持ち出した非常用のロープと工具のスパナを抱えて走り出した。 一方その頃、沖田と人面犬は、メリーさんと直接対峙していた。 電話はもはや意味を成さない。どれも狂ったように鳴り続ける着信音は聴覚を狂わせる。 沖田は傘立ての中にあった傘を一つ手に取ると、竹刀の如くゆっくりと構えた。 「おうおう、様になってるじゃねぇか」 「まぁね。試合じゃ弱い相手ばっかりでつまらなかったけど・・・君はどうかな?」 まるでいつもの試合前のように余裕の笑みを浮かべた総司を人面犬は素直に称賛の眼差しを向けた。 そして果たしてこの相手は何を思っているだろうかと正面を向く。 「キャハハッハハ!!キャハハハ!ねぇ、一緒に遊びましょう」 赤いドレスを纏った人形は笑い声はするものの、表情は何一つ変化ない。 宙に浮きながら、両手を上下に動かしながらゆっくりとこちらへ向かってくる。 緩慢な動きに人面犬が身体の力を抜いた瞬間、それは”消えた” 「総司!」 「!」 人間である沖田よりも、人面犬の方が反応は早かった。 「キャハハッハハ!!わたし、メリーさん!いま、あなたのうしろにいるの」 人形が沖田の背後に”現れる” それは本当に刹那の瞬間。移動したわけじゃない。文字通り、消えて、そして現れた。 あんなにも変わらなかった人形の表情が、醜く歪んでいる。 沖田が人面犬の声で振り向くが間に合わない! まるで口裂け女のように裂かれた真っ赤な唇には鋭い歯。それが沖田の首筋に襲いかかる! 「総司!しゃがめぇ!!」 「くっ!!」 沖田がしゃがんだ瞬間、人面犬が人形に飛びかかる! 人面犬は宙を飛んだまま、人形に激突しそのまま地面になだれ落ちた。 ガシャン、とプラスチックの割れる音がし、ソレはもう人形とは思えぬ形をしていた。 頭部が割れ、顔の部分にはぽっかりと穴が空いている。中はまるで常闇のような黒い空洞。 割れた破片の一部は人面犬の身体に突き刺さっていた。 「ちっ・・まずったぜ・・・ヒトガタが壊れやがった・・・封印が解けちまうぜ・・・」 「犬!」 「シロだっつってんだろぉ・・・たくよぉ・・・」 よたよたと頼りなさげに立ち上がる人面犬の背後には顔の崩れた人間が倒れている。 それがぐるりと首を一回転させ、動きだしたのを総司は見逃さなかった。 「ちっ!!」 手元の傘で、正面突きを繰りだす。それは狙った通り、人形の頭部を砕く。 だがそれは同時に、ヒトガタとしての人形の役割を奪ったことを意味する。すなわち、封印の解除。 沖田は頭部から黒い靄(もや)が飛び出すのを見て、それを理解した。 だがどうにもならない。人形に刺さった傘の柄から手を放し、人面犬の身体を掴む。 「嬢ちゃん達はまだか!」 「っ!ほんとだよね!これで死んだらどうしてくれるのさ!」 「その時は俺の仲間にしてやるよぉ!安心しなぁ!」 「はっ!それこそ”死んでも御免”だね!」 黒い靄は横に広がり、既に二人の周りを包囲していた。 だが沖田から笑みは消えない。追い詰められて尚、沖田は自分を見失わない。 それが自分の強さの一つである事を理解している。 「さぁて・・・どうするかな」 「いいねぇ、その余裕。気に入ったぜ」 「ま、平助や山崎君には無理だろうね。だけど僕は・・・誰にも負ける気はないよ」 手には何も持っていない。 それでも剣道の構えを崩さない沖田は、まさに剣士と言っていい。 黒い靄はぐるぐると二人の間を回っている。 「ギャハハッハア!ギャハハハ!あ そび ま しょ!」 「くそぉ!」 間に合わないのか。 二人の姿は闇に呑まれようとしていた。 下校時間はとうに過ぎていた。 天霧と不知火は合流し、道場へ足を踏み入れた。 だが変化はない。鍵の掛かっていない道場、投げ出された鞄。 「あんだけ騒がしい連中が揃って失踪かよ・・・・」 「何かあったとしか思いません。これ以上待っても無駄かもしれませんね」 最悪の場合、教諭と相談し警察に連絡することになるかもしれない。 二人は顔を見合わせ、共にため息を吐いた。 「・・・ちゃ・・・だい・・・」 「「!」」 「おい、今なにか・・・」 「ええ、確かに聞こえました」 声が聞こえた。それは小さな小さな声。 慌てて見回すが、誰もいない。 天霧は手にしていた懐中電灯を照らした。 すると激しい光が二人を襲う。道場の壁一面に付けられた鏡が懐中電灯の光を反射させたのだ。 天霧は何度か瞬きを繰り返し・・・そしてようやくその矛盾に気付く。 「し、不知火・・・・」 冷静な彼にしては、珍しく声を震わせた。 不知火はまだ気付かない。その、異常に。その異様さに! 「? 何だよ?」 「見つけました・・・・あれは、雪村君と藤堂君・・・・・」 「はぁ!?どこだよ!!」 不知火の言葉に、ゆっくりと天霧の腕が伸びる。 懐中電灯を持った右手が真っ直ぐ目の前の大鏡を指した。 光が伸びて、ある一点を指す。それはちょうど、天霧と不知火の背後。 「!!」 不知火も気付いた。 断言しよう。二人の後ろには誰もいない。なにもない。 なのに、鏡の中には・・・・・・ 縄跳びでぐるぐるに縛られた、千鶴と平助が鏡の中に転がっていた。 そしてその周りには、 たくさんの、こどもが、 ![]() |