勝ってうれしいはないちもんめ
負けてくやしいはないちもんめ

隣のおばさんちょっと来ておくれ
鬼がいるから行かれない

お釜かぶってちょっと来ておくれ
お釜底抜け行かれない

鉄砲かついでちょっと来ておくれ
鉄砲ないから行かれない

お布団かぶってちょっと来ておくれ
お布団びりびり行かれない


あの子が欲しい
あの子じゃ分からん

この子が欲しい
この子じゃ分からん


相談しよう、そうしよう


















「で、どうしようか」



沖田はあくまで冷静を装い、全員を見渡した。

泣きじゃくる千鶴、怯えながらも千鶴の手を放さない平助。

沖田と同じく恐怖を隠して策を練る山崎。そして。



「シロ、これからどうしたらいいか分かる?」

「まともにやり合って勝てる相手じゃねぇ。正面突破は無理だなぁ」


若干顔色が悪いながらも、人面犬に話しかける



「君、よくそいつと普通に話せるよね」

しかもこの状況で。声に出さないまでも半ば関心する。

は害はないだろうと言っていたが、それはあくまで憶測にすぎない。

この怪奇現象の中でそれを起こしているモノと同じ部類であるソレとよく言葉を交わせるものだ。



「まぁ・・・慣れかな?それより、正面からじゃなければ何かあるの?」

思わせぶりなシロの言葉をは見逃さなかった。どうやら千鶴とは違い、しっかりした性格のようだ。


全員の視線がシロに集中する。と、シロは本物の犬のように白い尾を左右に激しく振った。


「人形(ヒトガタ)ってのを知ってるか?」

にやりと中年の顔をした犬が笑う。その表情は少し見慣れた程度では直視できないほど気味が悪い。

「ヒトガタ・・・・藁人形とか、そういうもののことか?」

シロの言葉を受けて、山崎が頭に浮かんだものを言葉にする。

オカルトにさほど興味がない者ならばその程度の認識だろう。それを嘲うかのようにふっとシロは鼻を鳴らした。

「別に形はさほど問題じゃねぇ。肝心なのは役割よぉ。ヒトガタは何かを宿す、あるいは封じ込める役割を持つ。ま、あと代わり身とかな。おっと、これは今は関係ねぇか。」

「封じ込める・・・・。もしかして、メリーさんを封じ込めることが出来るの?」

「メリーさん、てのはよぉ、どんな姿をしてるか知ってるか?」

にやにやと下卑た笑いでシロが一同を見回す。誰ともなく顔を見合わせ、平助がおそるおそる口を開いた。

「俺が知ってるのは、フランス人形かな。金髪の」

「私も」

千鶴が頷く。沖田は少し首を傾げた。

「僕はメリーさんの正体は三本足のリカちゃん人形って聞いたことあるけど」

「三本足?どうして足が三本あるんだ?」

怪談に疎い山崎が沖田の言葉に反応する。

「そんなこと知らないよ。それに肝心なのは形じゃないんでしょ?」

「私もそう思う。要はメリーさんの正体が人形・・・ヒトガタってことね」



が足元に視線を向けると、シロは満足そうに頷いた。


「嬢ちゃん、中々鋭いじゃねぇか」

「ヒトガタは何かを封じ込めるもの・・・・それがメリーさんの正体ってことは・・・・」
 
「メリーさんは最初からヒトガタに封じ込められているということか?」

「すすむ、正解。しかし封じられながらもあいつは活動している。それは何故だぁ?」

「あーもー!回りくどいんだよ!はっきり言えよ!」


平助が地団駄を踏んだ。のんびりとしている場合じゃないのだ。

それなのにまるでクイズを楽しむかのようなシロの態度は癪に障る。



「短気はよくねぇなぁ。まぁ、しょうがねぇ。あいつは最初から封印されている。が、その封印は完全じゃねぇんだ。あるいは解けかかってるのかもな」

「つまりその封印を完全なものにすればいいわけだね。で、その方法は?」

「より強固なヒトガタに封印すればいいのよぉ。ま、その為には新しいヒトガタを見つけなきゃだけどなぁ」

「そのヒトガタはどうやって・・・・―――――」



言いかけて、が動きを止める。



頼りない明かりを灯す蛍光灯、窓の向こうに見える薄暗い景色。

その中に何かを見た。

何か・・・・?

そんなもの、決まってる。

それは・・・・・真っ赤なドレスを着た








「きゃぁああああああ!!!」




の代わりに悲鳴を上げたのは千鶴だった。

反射的に誰もがその目線を追う。そして後悔する。

見なければ良かったと後悔する・・・・・!












それはとても奇妙な光景。

ひたひたひたひたひたひたひたひた。

足音のような小さな音がしている。けれど人形自体は宙に浮いていた。


金髪の髪?フランス人形?そんなことは分からない。

何故なら人形の髪は全て抜け落ちてしまっているから。

一体何年前のものなのだろうか。朽ちた人形の目は両方とも黒くくぼんでいる。

ドレスだけが新品のように鮮やかな赤い色をしている。それがとてもアンバランス。




誰かもがそれがメリーさんだと確信した。

咄嗟に沖田は手の中の携帯を見る。

着信はない。

けれど来る!

必ず来る!





「皆はこのまま二階に行って、土方さん達と合流して」

「はぁ!?総司はどうすんだよ」 

「僕はあれを封印する。犬!一緒に来てもらうよ!」


そう言うなり、沖田はあれほど嫌がっていたシロの身体を掴み、走りだした。

「馬鹿言うな、沖田!戻れ!!」

山崎の声が響く。けれど沖田は振り返らない。

の足が咄嗟に動く。無論沖田を追って。

君!?くそ!!」


何を思って彼女が沖田を追いかけたのかは分からない。

だがも沖田もそのままにしてはおけない。山崎は決断する。



「アイツが来る!平助、雪村君をつれて先輩たちと合流してくれ!」

「くそっ、千鶴、行くぞ!!」

「総司君!山崎君!」




山崎が走りだしたと同時に、平助も千鶴の手を引き走り出す。

自分の役割は千鶴を護ることにある。それを託されたならそれを全うするしかない。

千鶴は後ろ髪引かれる思いの中で、それでも怖くて振り向けずにいた。

後ろに、あの人形がいるような気がしてならない。

二人が階段を上がったのと同時に、また電話のベルが鳴り、思わず千鶴は耳を塞いだ。














沖田は正面玄関に着いたところで足を止め、シロを地面に放り投げた。

シロは舌打ちをしながらも、身軽に地面に着地する。そこには放り出された四つの携帯があった。

どれも沖田の携帯と同じく凄まじい音量でベル音を奏でている。


「沖田!」

「沖田君!」


そこにと山崎が合流した。その姿に沖田は驚いたように眼を見開き、苦々しく呟いた。



「なんで来たのさ、僕一人で十分なのに」

「まずヒトガタを探さなきゃ!それには一人じゃ手が足りない!」

「見くびってもらっては困る。そんな重要な役、お前一人に任せられるか」

「おうおう、青春だねぇ。だが口喧嘩してる時間はねぇぞぉ。
嬢ちゃんとすすむはヒトガタを探せ。
囮は俺とそうじで引き受けてやるぜぇ。
それで文句はねぇだろうぉ?そうじぃ」





正面玄関のガラス扉には既に肉眼で見えるくらいメリーさんの姿が迫っていた。

総司は山崎に行け、と目で合図をした。山崎は無言で頷き、の手を引き、走り出した。


「ヒトガタは機械じゃねぇ、ヒトの手で作られたもんを探せぇ!
ヒトの手で作られたものにこそヒトを護る念が込められてる!」




シロの声が背後から響く。その言葉にはある光景を思い出す。


「山崎君!図工室!確か誰かが作った粘土の人形があったと思うの!」

「本当か!しかし粘土でヒトガタの役目を果たせるのか!?」

「大丈夫だと思う。ほら、埴輪も死者を護る役割があるでしょ!あれもきっとヒトガタの役割をしてるのよ!」

「そうか!よし、三階まで走るぞ!」



 
階段を駆け上がる。ベル音はいまだ止まない。挑発するような沖田の声が響く。だが振り向くわけにはいかない。

自分の思いを振り切るように、二人は一気に階段を駆け上がった。










































平助と千鶴はベル音から逃げるように二階の職員室へ直行した。

普段なら躊躇する扉を勢いよく開く。だが、誰もいない。




「土方先輩!っ、くそ!なんで誰もいないんだよ!」



平助の言葉に千鶴は激しく鼓動する胸を押さえる。

正直、もう限界だ。元々怖い話は苦手だし、おばけ屋敷にだって入らない。

慌てて周囲を探す平助を見つめながら、職員室の扉にもたれるように座りこむ。










か・・て・・れし・・・いは・・・ち・・・んめ・・・・








「え?」





千鶴はとっさに顔をあげた。

今、なにか聞こえなかった?

それは幼い頃、誰もが一度は遊んだことのある、













ま・・て・・くや・・・いは・・・ち・・・んめ・・・・ 











「へ、平助君!」



平助は受話器を耳に押し当てて、ボタンを懸命にいじっていた。

だから気付かない。

千鶴の頼りない小さな声に。

だから気付かない。





その小さな歌声に。













あのこがほしい





あのこじゃわからん





このこがほしい





このこじゃわからん











その声は小さく、けれど確実に近づいている。

千鶴は力を振り絞って立とうと試みる。けれど立てない。





「こ、腰が・・・・抜け・・・」





足に力が入らない。腰を浮かそうとして、力が入らず、千鶴は尻もちをつきそうになった。

けれど、身体が床に落ちることはなかった。










無数に伸びた小さな白い、手が、千鶴の身体を、






支えているから  









あのこがほしい





あのこじゃわからん





このこがほしい





このこじゃわからん