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TRRRR TRRRRRR 電話が鳴るよ。 TRRRR TRRRRRR 電話が鳴るよ。 取ってくれなきゃ 泣いちゃうよ? 取ってくれなきゃ 泣いちゃうよ? TRRRR TRRRRRR 電話が鳴るよ。 TRRRR TRRRRRR 電話が鳴るよ。 もう電話はいらないよ。 だってあなたの後ろにいるから 「とにかく、先輩たちと合流しよう」 その一言に至るまで、四人は随分と時間を費やさなければならなかった。 犬が喋った。 犬が人の顔をしている。 人の顔をした犬が喋っている。 言葉にしてみると、大したことじゃないように思える。 ファンタジー映画やドラマで喋る動物なんて割と見慣れている気もする。 けれど、違う。 目の前のものは、そんな生易しいものじゃない。 「お、お前なんなんだよ!!」 平助が声を荒げた。千鶴を背に庇い、すぐ脇の傘立ての傘を竹刀のように構える。 「なにって、犬」 ハッハッと荒い息を吐き、ブルドックのような短足の身体の上の小さな尻尾を左右に揺らす姿は確かに犬だ。 だがそれで納得できるはずもない。 「でも顔はおっさんだよね」 平常心を装いながら、総司は犬を睨みつけた。今にも踏みつけそうな形相に犬は一歩後ずさる。 「別になにもしねぇよぅ。ちょっと声掛けただけじゃねぇかぁ」 笑顔でよっぱらいのように語尾を伸ばした喋り方が妙に気持ちが悪い。 千鶴の平助の肩に縋る手に力が籠る。 「では・・・・どうして学校の扉が閉まっているのか、知っているか?」 そう言ったのは山崎だった。彼の手には携帯が握られている。 「携帯も圏外で繋がらない。それに扉どころか窓も開かないようだ」 その言葉に他の三人が次々に携帯を確認する。全て圏外。 総司が一番近くの廊下の窓に走り寄り、思い切り鍵を回そうとするがびくともしなかった。 「そ、それ・・・閉じ込められたってこと・・・なのかな?」 千鶴の目にはすでに涙が浮かんでいる。総司が軽く舌打ちをした。 「で、でもよ・・・・ガラス割れば出られるじゃん。まだ閉じ込められたってわけじゃ、」 「無駄だと思うぜぃ」 平助の言葉に犬が小さく呟いた。ガラス式の両扉に鼻をつけ、ふんふんと匂いを嗅ぐ。 「もう扉は閉じちまったぁ。こりゃあ、もう、どこへも行けねぇよぅ」 ハッハッハッ、荒い息遣いが耳ざわりで総司は犬に向かって、足を振りかざした。 犬はひらりと小さな身体を動かし、総司の蹴りをかわす。 「総司君!」 「好き放題言ってくれてるけどさ、一体なんなのさ、お前は!」 「何って・・・・俺は、シロだ」 「はぁ!?」 犬は当たり前のようにそれを口にする。 「で、お前らの名前は?」 「何故お前に名乗る必要がある?」 すかさず山崎が返す。山崎のするどい眼光にも犬は動じない。 「俺が名乗ったんだから、お前らだって名乗るのが礼儀ってもんだろぅ?」 「礼儀って・・・・犬に礼儀もくそもあるかよ!!!」 「平助君やめて!!」 「へーすけ、な。そっちのお嬢ちゃん名前は?」 「え、あ、ち、千鶴です・・・・」 「千鶴!教えんなよ!総司も烝君も言わなくていいからな!」 そう怒鳴った平助に犬はニヤリと笑う。 「そうじと、すすむ、な」 「「平助・・・・」」 「わぁ!!ご、ごめん!!!」 「さぁて、それで、そっちのお嬢ちゃんのお名前は?」 それまで四人の足元をウロウロしていた犬が、ふんふん、と鼻を鳴らし身体の向きを変えた。 視線は土方達が消えた階段の方向を向いている。 「え、だ、誰かいんのかよ!」 「出てきた方がいいと思うぜぃ。一人は危険がいっぱいだぁ」 「お前がそれを言うな!!」 「そう大声出すなって、へーすけ。レディが怖がっちまうだろうが」 「怖がらせてんのは、お前だろ!!」 犬にそう言いながらも、平助は死角になっている階段から目線を外せない。 最初に足が見えた。見慣れた上履き。次に千鶴と同じ女子の制服、最後に全身が露になる。 「と、とりあえず・・・人間・・・・・」 平助は、はぁ、と息を吐く。緊張していたのは向こうも同じらしく、微かに息を吐く音が聞こえた。 「もしかして、天野君か?」 「う、うん、山崎君・・・よね?」 山崎が驚いた顔で、彼女を見た。上履きの色は自分達と同じ色。 「烝君、もしかしてクラスのやつ?」 「ああ、・・・あまり話したことはないが、間違いない。俺のクラスの天野北斗君だ」 「あの・・・・山崎君、学校の中他に誰もいないみたいなんだけど、何か知ってる? あと・・・・・その、・・・犬、なに?」 当然の質問だろう。それを聞かれて山崎は言葉に詰まる。 「それが・・・俺にもよく分からない。その・・・犬に関しても、何故学校が閉鎖されているのかも」 「閉鎖って・・・・もしかして此処から出られないの?」 北斗は薄暗い周囲を見回した。なぜか点滅している蛍光灯、閉ざされた扉に薄暗い窓の向こう。 「もしかして・・・・その犬、人面犬?」 「シロってんだ、よろしくなぁ」 北斗は少し屈みこんで犬に目線を合わせる。人間の顔に小さな犬の身体はいささかバランスが悪い。 「私は天野北斗。今の状況について何か知っていることがあったら教えてほしいんだけど」 「お、おいおい、大丈夫なのかよ・・・!」 犬と意思疎通を図ろうとする北斗に平助がたじろぐ。けれど北斗は動じない。 「とりあえず、今は二階がやべぇぞ」 「二階?」 すかさず山崎が聞き返した。二階には職員室がある。そして職員室には土方達がいるはずなのだ。 「それと、電話、な」 「電話?」 沖田は犬を気味悪そうに睨みながら、手にしたままの携帯を見た。 その瞬間、 TRRRRRRRRRRRRRRR 電話が、なった。 「うわぁ!!!」 「きゃっ!」 「なっ!」 「えっ!」 「・・・・・・・・なにこれ」 TRRRRRRRRRRRRRRR TRRRRRRRRRRRRRRR TRRRRRRRRRRRRRRR TRRRRRRRRRRRRRRR TRRRRRRRRRRRRRRR とてつもない大音量で。 設定していないはずのベル音で。 その場にある全ての携帯電話が一斉に。 雪村千鶴は恐る恐る電話を取った。 藤堂平助は思い切り電話を取った。 山崎烝は慎重に電話を取った。 沖田総司は殺気を放ちながら電話を取った。 天野北斗は、携帯のディスプレイと人面犬を交互に見ながら電話を取った。 ![]() それは耳を裂くような大きな声。もはやどの携帯から聞こえたのが果たして本当に携帯から聞こえたのかすら分からない。 誰かが恐怖のあまり携帯を落とした。 誰かが恐怖のあまり叫んだ。 誰かが恐怖のあまり崩れ落ちた。 誰かが恐怖に駆られる者たちに叫んだ。 「アイツが来るぞ!走れ!!!」 それはさっきまで不快に思っていた声だった。 それが急かす。走れと促す。 沖田は崩れ落ちた千鶴を、山崎は携帯を落とした北斗の手を咄嗟に取った。 「平助!走るぞ!」 山崎は空いている手で呆然として事態を呑み込めない平助の肩を掴んだ。 沖田は犬を見る。その目に敵意はない。 「で、どこに逃げればいいのさ、犬!」 「犬じゃねぇ、シロだって言っただろ、そうじ」 シロはにやりと余裕の笑みを浮かべた。だがその顔には若干、汗がにじんでいる。 メリーさんは誰でも知っている怪談の一つだ。そしてその怖さはただ脅かすだけの人面犬の非ではない。 それでも頼りにされたのが嬉しいのか、シロは先頭を切って走りだした。 「電話は意味がねぇ!捨ててけよぉ!!」 「とっくに捨ててるっつーの!!!」 足がもつれるように走りながら、それでも平助は強がりを吐いた。 本当なら千鶴の手を引くのは幼馴染である自分の役目なのに、恐怖にとらわれそれが出来ずにいた自分を恥じているのだ。 せめて泣きながら走る千鶴の恐怖をぬぐい去りたいとわざとおどけた声を出す。 山崎は北斗の手を引きながら、一人一人を観察する。 山崎自身はシロに言われた時点で携帯を捨てた。北斗はあの電話に出た瞬間、廊下に落としている。千鶴と平助も手は空だった。 そして沖田に目を移し、山崎は思わず舌うちした。 「沖田!!携帯は捨てろと言われただろう!!」 「うるさいなぁ。そう言うけどね、メリーさんって出なかったら、それはそれでヤバかったと思うけど?」 いかにも面倒そうに山崎の言葉に答えながら、総司は千鶴の手を平助に握らせた。 「平助、ちょっと千鶴ちゃんと前走ってて。泣いてる子には聞かせたくない話するから」 ぼそりと呟かれた言葉に待ってましたとばかり、平助は頷く。名誉挽回のチャンスだ。 こんな場面でも張り切る平助に苦笑しながら、沖田は走る速度を落とし、山崎と北斗に並ぶ。 「メリーさんは、電話に出ると、今〇〇にいるの、と場所を知らせてくる。けれど電話に出ない場合は一気に目の前に現れる、ね?」 沖田の言葉に答えたのは北斗だった。若干怯えが見られるものの、千鶴のように泣きじゃくってはいない。 「つまり、電話に出る分時間が稼げるということか?」 「ま、そういうことだね。いざとなったら電話持ってる人間を真っ先に襲うだろうし」 「囮になる気?」 北斗が千鶴達に聞こえないように囁く。山崎は驚きに目を見開いた。 「別にそういうつもりはないけど。ただ逃げるのって性に合わないだけ」 「馬鹿を言うな!何が起こるか分からないんだぞ!!」 「それよりさ、君らアイツどう思う?敵か味方か」 話をはぐらかすように、沖田は顎で先頭を走る犬の後姿を指した。 時折千鶴と平助に何か話しかけているようだ。だが少なくとも怖がらせているようではない。 「俺には判断出来ない。理解不能だ」 「君ってホント堅物だよね。もうちょっと気の利いたこと言えないわけ?」 「悪かったな!」 「ま、別に期待してないけどね。君は・・・?」 総司は北斗を見た。ほぼ初対面と言っていい相手だが、この際そんなことは言ってられない。 「私は信じてもいいと思うけど。人面犬が人を襲ったって話は聞かないし」 「そもそも人面犬というのは、何か元になる怪談があるものなのか?」 「そういやそうだよね。自縛霊が犬に乗り移ったとかそういうのじゃなさそう」 二人の言葉に北斗はシロの後姿を見る。後姿は普通の犬そのものだ。 「人面犬は怪談じゃないの。いわゆる都市伝説。遺伝子操作によって生まれた奇手型や環境汚染による突然変異という説あるけれど、実はそれは噂伝播のネットワークを検証する為にある団体が流した噂話らしいの」 「は?噂話の検証?」 「全くの作り話なのか?」 「そう、つまり幽霊が「い」るか「い」ないかは別として、人面犬は本当にただの作り話なの」 「じゃあ・・・アイツはなんなわけ?ただの人間に似た動物霊?」 「それは分からないけど・・・だから正直言うと、私そんなにシロのこと怖くないの。少なくとも私たちを襲う理由がシロにはないと思うから」 その言葉に山崎と沖田は互いに顔を見合わせた。根拠はないが、何故か説得力のある言葉だ。 「一つ聞くけど、君ってさ、もしかして都市伝説とか怪談話とか詳しいわけ?」 「そもそも都市伝説と怪談話の違いはなんだ?」 「それは――――――」 TRRRRRRRRRRRRRRR 北斗の言葉を遮るように、沖田の手の中の携帯が大音量で着信を告げる。 その音に全員の足が一瞬止まる。千鶴がガタガタと震えながら平助の腕に縋りついた。 山崎の、北斗の手を握る腕にも力が籠る。 ![]() 総司は携帯の通話ボタンを押したわけじゃない。 それなのに携帯からはまぎれもなくさっきと同じ声が聞こえた。 それはそれは可愛らしい女の子の声。まるでオルゴールのような声には感情が一切籠っていない。 ![]() |