とても良い香りがした。 そう、これは今日友達にもらったお香の匂い・・・・ あの悪夢からやっと、覚めれる。 香りと共にゆっくりと意識が覚醒し、目蓋を開く。 目の前には薔薇が一輪。 それはここがまだ夢の中だということを残酷に告げていた。 陽炎「目が覚めたか」 寝かされているベットのすぐ脇から声がした。 それはあの応接間にいた人達の一人、特徴的な髭を生やした男。 「、だったな」 そう言って私の頭を子供にするように撫でる。 その手は暖かく、まるでここが現実であるかのような錯覚を起こしてしまいそうになる。 疲労からか、身体が思うように動かずにただされるがままになっていた。 不思議と、その男の手を嫌だとは感じなかった。 「貴方は・・・・?」 「俺は羅刹だ」 「ら、せつ・・?」 「心配するな。悪いようにはせん。それと・・・卍丸が妙なことを言ったようだが・・・・ 決して貴様に危害を与えるような真似はせん。だから・・・・」 安心しろ、と羅刹はまた私の頭を撫でた。 こういう状況に慣れていないのだろうか、ぎこちない言葉の中に優しさを感じる。 戸惑っているのはこの人達も同じなのかも知れないと思った。 「起きれそうか?」 「今はまだ・・・」 「では話せるか?」 「はい」 羅刹の言葉に頷くと、彼は椅子から立ち上がって置時計を見た。 「すぐに戻る。少し待っていろ」 私に不安を与えないようにか、少し微笑んでベットから離れていく羅刹。 けれど不安にならないわけがなくて、震える声を搾り出した。 「私、本当に桜を見ていただけなんです!」 「ああ、分かっている」 そう言いながらドアを開けると、そこには初めて会ったあの人が立っていた。 その横には金髪の逆毛を立てた男。 「様子は?」 「話は出来るようだ。邪鬼様はおらんのか?」 「自分が行くと怖がらせると言ってな」 「まぁ・・・俺達もそういう意味では大差ないだろう」 金髪の男が、そう言って苦笑していた。胸には紅い薔薇が一輪。 三人が揃ってこちらに向かってくるのを、何もせずに迎える。 「自己紹介がまだだったな、死天王の将、影慶だ」 「し、てんのう・・・?」 「同じく死天王、センクウ。怖がらせてすまなかったな」 「あの・・、もしかしてこの部屋」 「やはり分かるか」 貴方の部屋ですか、と言いたかったのを察したセンクウが照れくさそうに頭を掻いた。 すると今寝ているベットはこの人のものということになる。 「ご、ごめんなさい!!」 慌てて起き上がると、瞬間眩暈がした。 倒れこむ私を羅刹が片腕で抱えてくれる。 「無理をするな!」 「でも・・・あの・・・・」 「どうした?」 「だって・・・初対面の男の人のベットで寝てるなんて・・・」 そう言った瞬間三人の動きがぴたりと止まった。 我ながら恥ずかしいことを言ったとは思うけど、それ以上に此処で寝ていることの方が恥ずかしい。 「この状況でそんなこと気にせんでも・・・・」 「ご、ごめんなさい」 少し頬を赤らめた影慶につられて私まで赤くなるのを感じる。 羅刹に抱えられた身体をゆっくりと起こして、ベットから立ち上がる。 「あっ・・・」 立ち上がって、初めて自分がセーラー服のまま寝かされていたことに気づいた。 もちろんプリーツスカートはぐちゃぐちゃで。 これこそ『この状況でそんなこと・・・』なのかもしれないけど。 「すまん、そこまで気が回らなかった」 「いえ、気にしないで下さい」 気づいた羅刹に謝られて、慌てて首を振る。 すると影慶がタイミングを計ったように、紙袋をベットに置いた。 「よければこれに着替えてくれ。気に入るといいが・・・なぁ羅刹?」 「う、うるさいぞ、影慶!!」 「でかい図体で照れても可愛くはないぞ羅刹」 「センクウ!!貴様も黙っとれ!」 突然笑い始めた二人と、慌てふためく羅刹に首を傾げる。 五つほどある中の一つを手に取ると、白いワンピースとカーディガンが入っていた。 「これ・・・あの、此処には女の人もいるんですか?」 「うっ・・・・いや、ここには男だけだが・・・・」 「え?じゃあこれは・・・」 「羅刹が買ってきたものだ」 口元を押さえて笑いを堪える二人に、羅刹がうるさいと怒鳴り散らす。 なんだかその様子はどこかの学校の風景のようで、力が抜けていくのを感じた。 「じゃあ、着替えてもいいですか?」 「では我々は外で待っている。着替えたら出てきてくれ」 「似合うと思うぞ?なんせ羅刹が自ら選んだからな」 「しつこいぞ、センクウ!!」 じゃれ合いながら三人が出て行くのを見守って、ワンピースに袖を通した。 普段着ないような清楚な服装に、思わず鏡を凝視してしまう。 悩んだ末、髪は下ろしたままでカーディガンを羽織る。 まるでこれからデートに行くような格好。 「これあの人の趣味なのかな」 なんてなんとなく失礼なことを思いつつ、セーラー服を折り畳んで部屋の隅に置く。 これから何が起こるかわからない。 大きく深呼吸をしてから、私は目の前の扉をそっと開いた。 「邪鬼様、なんで俺まで此処にいなくちゃなんねぇんだ?」 「今あの娘を一番怖がらせるのは貴様だからだろう?」 「んなことねぇっすよ」 「自業自得だ。我慢せい」 「我慢って・・・・・(もしかして邪鬼様もあの女の所に行きたかったのか?)」 |