影慶のやつ・・・・・まんまと押し付けおって。


どうしたって不釣合いな場所で、羅刹はひとりごちた。

両手に抱えたたくさんの荷物。

店員の目が刺さるように痛い。






「ありがとうございましたー」




やっと最後の買い物を終えて天動宮に帰ると、そこは神妙な雰囲気に包まれていた。












陽炎












「おい、どうした」




やっとの思いで帰ってきた羅刹は天動宮が静まり返っていることに気づいた。

抱えた荷物をどうしようかと影慶を探す。

目的の人物はすぐに見つかりはしたものの、やはりどこか神妙な顔でセンクウと話をしていた。







「ああ、帰ってきたのか」



気配に気づいたのか、影慶が顔をあげた。

センクウもつられて振り向く。




「なんだその言い草は」

「すまん、そう気を悪くするな。こっちは色々あってな」

「こっちだって色々あった。娘の服を買いに行かされたんだぞ、一人で」






羅刹は昼間のことを思い出してうんざりとため息を吐いた。

そう、とりあえずあの娘のことを考えてどちらかが身の回りの品物を買って来ようということになったのだ。

ジャンケンといういたってシンプル且つ庶民的な方法でその役回りを決めることにし、そして 見事あっさり羅刹が負けたのだった。



「全くこの俺が女の服を買いに行かされるなんぞ」





影慶と同じくスーツを身に着けていた羅刹は乱暴にネクタイを引き抜いた。

テーブルの上に置かれた色とりどりのショッピング袋が置かれる。




「これはまた随分と買い込んだな」


センクウがその一つを取って、袋から洋服を取り出した。

一見して高級品だと分かる真っ白なワンピースとガーディガン。



「・・・・これはお前の趣味か?」

「しゅ、趣味とはなんだ!女の服なんぞ分からんから適当に買ってきただけだ!」

「こっちは花柄のスカートとブラウスか。清楚な女が好みなんだな?」

「煩い!!それよりあの娘はどうした!?」





からかいを含んだ二人の言葉を一蹴し、羅刹は周囲を見回した。




「今は卍丸が見張りか?」

「ああ。それが少しやっかいなことになってな」

「今でも充分やっかいだろうが。身元が分からなかったのか?」

「それだけならよかったんだがな」




ため息混じりに吐きは出された言葉に羅刹は眉を潜めた。



「なんだ、やはり間者だったのか?」


それならばせっかく買ってきた服も全て無駄だということになる。

影慶は娘の様子を説明した。

それを聞いて羅刹がふと思い当たったというように顔を上げた。


「身元不明・・・しかも死を望んだ・・・・人質にでも取られて逃げてきたんじゃないのか?」

「どういうことだ?」

「どこかに捕らえられて、あるいは襲われて逃げてきた、それならばあの軽装にも頷けるだろう。
ましてや牢での発言にも。あのような娘が男に捕らわれたならば恐れることは一つだろう?」


羅刹の発言にセンクウが口元に手を当てながら頷いた。


「それは・・あるかもしれん。殺してくれと言う前に実は卍丸が・・・犯すなどと言って脅しをかけた」

「なんだと!!なんて馬鹿なことを!!」


影慶が拳をテーブルに叩きつけた。ガシャッと食器の音が響く。

卑怯な真似、とりわけ弱者を脅すような行動は影慶の最も嫌うものだ。



「アイツは冗談のつもりだろうが・・・・娘からしてみれば脅しにしか聞こえまい」

「これで決まりだな。あの娘は死にたいのではなく、犯されるくらいなら死んだ方がマシだと言ったのだ。身元が分からぬとはいえ、これ以上怯えさせるのは忍びない」



羅刹の言葉に二人が頷く。

三人とも、いや卍丸や邪鬼でさえとっくにわかっていたことだ。

あの娘はただの迷い猫にしか過ぎぬと。

影慶はガクランを翻し、邪鬼の居る奥の間を見つめた。

この会話は恐らく、邪鬼にも聞こえていることだろう。





「俺は邪鬼様に報告をしてくる。羅刹とセンクウはあの娘を牢から出して・・・・
身の回りの世話と食事をさせてやってくれ。くれぐれも妙な誤解のないように。
それから卍丸には、奥の間で俺と邪鬼様が待っていると伝えてくれ」

「ああ、了承した」

「卍丸にはキツイお灸が必要だな」




羅刹がテーブルの上の袋を掻き集めながら、わざと奥の間に聞こえるよう大きな声で言った。

その様にセンクウは苦笑し、しかし同感だと頷く。









いつの間にか太陽は昇り切っていた。














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本当は違うんですけどね(笑)