,,";names = getname.split(",");//END --->










怖い夢でも、いつかは覚める。

そう信じてる。







そう、信じてた。





















陽炎














冷たい牢に入れられて、どれくらい経っただろう。

頼りは揺らめく蝋燭の火だけで、ただその炎を見つめる。





静まり返った石牢に、足音が聞こえてきた。

複数の足音と話し声に反射的に牢の隅に身を潜ませる。

床に座り込んで、両手で膝を抱えた。身体は凍えたように震えている。





カツン、




足音が止んだ。怖くて、目を開けれない。





・・・・だったな」




低い声が石牢に響く。それはまるで尋問を思わせた。

これが、夢ならば。

怖い思いをすれば覚めるのだろうかと唐突に思いついた。





何かに追われて、

胸を刺されて、

高い所から転落して、






怖くて目が覚めたと、よくそんな話を聞く。




何かに追われて、捕まっていたぶられて―――――死んで

胸を刺されて、血が出て倒れて―――――死んで目が

高い所から転落して、地面にぶつかって―――――死んで目が覚めた






そんな話は聞いたことがない。

恐怖で目が覚めるのは、その本当の恐怖を体験する”直前”なのだ。

ならばどれほどの恐怖の”直前”を体験すればこの悪夢から目覚めることが出来るのだろう。





「お前ェよ、何も言わねぇんならいつまで経っても帰れねぇぜ」


呆れたように、モヒカンの男が牢の前で屈みこみ、私の顔を覗くようにして言った。

ただ膝を抱えながら、反応の無い私にいらついたように煙管に火をつける。




「此処だって安全じゃねぇんだ。今の自分の状況わかってんのか?
俺達ァー見た目どおりの荒くれモンだ。女が一人、紛れ込めば犯されても文句は言えねぇぜ」

「よせ、卍丸」

「本当の事だろうがよ。だから俺らが見張りなんて下っ端みてぇなマネしてるんじゃねぇか」

「わざわざ怖がらせる必要はない」

「へっ、じゃあずっとこんな女のお守りしてるか?俺は御免だぜ」




男の吐く煙が柵を超えて、まるで蜘蛛のように身体にまとわり付いた。

数秒で消えた煙は、蜃気楼を思わせる。







「じゃあ、・・・・      て、下さい」





初めてまともに彼らの顔を見た。

それは本心だった。

少なくとも今のままでいるよりはマシだと思った。


















影慶が調査から帰ったのは昼過ぎだった。

体面を繕うだけのネクタイとスーツを応接室のソファーに放り投げる。

少し離れたテーブルの上にはセンクウ御用達のティーセットが置かれていた。

ポットに触れればまだ温かい。







「センクウ―――?」






いるのか、と声を掛ければしばらく経ってから奥の部屋からセンクウが顔を出した。

だが幾分その顔は精彩を欠いており、それは非常に珍しいことだった。




「どうかしたか」




あまり見慣れぬ仲間の顔に、影慶は胸騒ぎを感じた。

センクウはいや、と首を振り、それから間を開けて深く息を吐いた。



「あの娘の身元はわかったか?」


逆に問われ、影慶はやはり違和感を感じた。


「それが分からなかった。捜索願もないし、犯罪に巻き込まれた様子もない。
もちろん、組織や反抗勢力とも関係がないようだ」



本当に、驚くほどあの娘には痕跡がなかった。

不自然なほどに、そうあの娘には戸籍すら存在していなかった。

もちろん、というのが偽名ではなかった場合だが、それにしてもおかしい。

痕跡というよりは、生きた形跡がない。





「そうか」



影慶の報告にセンクウは絶望したように肩を落とした。

その様はとても死天王とは思えない。




「どうしたというのだ」


まさか牢の中で自害でもしたわけでもあるまい、

影慶は半ば冗談でそう言った。

だがセンクウはその言葉に笑うことなく、




「殺してくれと、そう言った」

「なんだと・・・・?」









『じゃあ、私を    殺して、下さい』