それは、夢のはずだった。







在るはずのない、出会い。








全て、夢で終わるはずだった。










陽炎


















時計の針はジャスト11時。

携帯の目覚ましをしっかり6時に合わせて、欠伸と共にベットに入る。

ベットの脇の机にはアロマ効果のあるお香が一つ。

睡眠不足で悩んでた私の為に友人が露店で買ってきてくれたもの。



ふわり、



嗅ぎなれてない匂いと共に眠りがゆっくりと下りてくる。

きっと、明日は良い気分で起きれるだろう、と目蓋を閉じた。





















夢だ、と思った。

夢を見ることは多かった。その中で、夢だと認識しているものを見ることが稀にあった。

夢の内容は様々で、大抵は支離滅裂で目覚めればほとんど覚えていない程度のものばかりだった。




けれど、今回はそれらとは少し違うように思えた。













桜が、咲いていた。

校庭の中・・・だろうか。私はそこに一人立っていて桜の木を眺めていた。

一つ、一つの桜が、それは鮮やかに色づいて咲いている。

その眺めの向こうには木造の校舎が建っていた。それは、戦前の日本のような。



あの香は桜の香りだったのだろうか、と考える。

けれど桜はそれほど特徴的な匂いがするものではない。

ならばきっと、何かの花の匂いのものだったんだろう。

夢の中の桜だからだろうか。やたら眩しく見えた。











「そこで何をしている?」

「え?」






突然後ろから声が掛かり、反射的に身体の向きを変えた。

まさか、登場人物がいるとは思わなかったから。

視界に移ったのは特徴的な学ランを着た、一人の男。

厳しい顔をしてこちらを睨みつけている。






「あの、」

「どうやってここに入った!」




男はあっという間に近づいてきて、私の腕を掴んだ。

体格の良い男の腕は私を責める様に力を込めてくる。



どうして、なんて、夢の中なのだから理由などあるはずもない。






「は、放して!!」





怖い物知らずとはこういうことを言うんだろう。

どうせ夢だ、というのも手伝って私はその腕を振り払おうと上下に動かす。

けれどびくともせず、掴まれた腕は男の握力に負けてどくどくと血が止まっていくように痛み出した。




「痛い、放して!!」




夢なのに、この痛みはなんだろう。

でも今はそんなことよりも、この男が怖くてたまらなかった。

せっかく安眠出来たと思ったのに、夢でこんな思いをするなんて。

化け物とか、幽霊とか、そんなものが出てくるよりも現実味があって怖い。






知らず震えていた私の身体に気づいた男が、手を放す。

そしてため息と共に、今度は私の腰に手を回した。




「ひゃ!!」

「とりあえず、邪鬼様に報告する」




腰に手が回ったと思った瞬間、視界が左右に揺れて地面が遠のいた。

男の肩に担がれたのだと気づいた時にはもう男は走り出していて。

抵抗する間もなく、連れて行かれたのはさっき見た校舎とは別の木造の建物の中の一室。





「邪鬼様、連れてまいりました」

「ご苦労、影慶」





邪鬼様、そう呼ばれて姿を現した男は2メートル以上あろう体躯の大男だった。

その横には、いずれも特徴的な容姿をした三人の男が揃ってこちらを見ている。

多分、影慶という男が私を担いでいなかったら腰を抜かしているところだろう。

地面に降ろされてもまともに立つことが出来ず、無意識に影慶の学ランにしがみ付いていた。




「なに、なんなの・・・・」







訳が分からない。もちろん夢だから、当然かもしれないけれど。

寝る前に格闘漫画を見たわけでもSF映画を見たわけでもない。

震える身体を押さえきれない。

そんな私を今まで無表情だった影慶が初めて、意外そうに私を見つめていた。







「こりゃ、ただの迷い猫じゃねぇんですか」




学ランの男の達の中でも、一番目立っていたモヒカンの男がずかずかと前に出てきた。

近づいてくる男に、思わず影慶の背の後ろに隠れる。

それを困ったように見ていた影慶は、右手を顔の前にかざしモヒカンの男を制止した。





「確かにそのようだ。卍丸を見ただけで怖がるようではな」

「へっ、それに比べてお前は随分と懐かれてんじゃねぇか影慶」

「冗談を言っている場合ではない。邪鬼様、問題は無いものと思われますが」







一番威圧感があり、おそらくこの中でもっとも権力を持つだろう男は、ゆっくりと私の前にしゃがみ込み、まるで親が子供にするように目線を私に合わせた。




「正直に答えれば悪いようにはせん。あそこで何をしていた?」

「桜を・・・見てました」

「本当です、邪鬼様」

「どうやってあそこへ入った」

「それは・・・・・分かりません」




言葉に詰まって、結局分からないと答えた。

一番後ろの二人の男達が顔を見合わせたのが見えた。

まずかっただろうか。けれどそれ以上の答えなど持っていない。






「名は?」



「家は何処だ」

「家・・・・・」





本当の、住所を言ったところで無駄だということは分かっていた。

今度こそ本当に黙ってしまった私に、周りの雰囲気が悪くなるのを感じる。






「言えないのならば、しらばくここに居ることになるぞ」





そう言われて、それでも答えない私に、邪鬼はため息を付いた。





「連れて行け」






さっきより幾分冷めた声が、部屋に響く。

そして私が連れて行かれた場所は、映画でしか見たことのないような、鉄格子の牢屋だった。

地下だからか、地上よりも冷えた温度に再び身体が震え出す。









早く、覚めて

早く、早く、







夢のはず、なんだから













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後書き↓
完全に自己満足な異世界トリップです。
始まりはこんなですが、一応ギャグになる予定。
シリアスは最初だけ・・・のはず・・・。


赤石もまだ入学していないので、皆普通に学ラン着てます(笑)

異世界トリップOK!という方、お付き合い下さいませ