今はもう桜の散ってしまった大樹の下で佇む影が在った。

それは本来なら男塾には在ってはならない、女の影。





まるで陽炎のように細い影に、消えてしまいそうだと息を呑んだ。














決意














一号・三号の選ばれし十六闘士が男塾を発った後、二号生筆頭が男塾を任されたのは当然の成り行きだった。

男塾には長年敵対している連中が多数いる。

死天王どころかあの大豪院邪鬼までもが、遠征に出たのだ。

この機会を敵が狙わぬはずがない。

留守の間、この地を護る。それが二号生筆頭赤石に与えられた任務だった。




解ってはいる。だが、くやしさは残る。

自分の力を試すまたとないチャンス。

燃え滾った血をもっともっと熱く。

二号の自分を差し置いて一号生が選ばれたという屈辱も少なからずあった。







「ふん!!」






力任せに斬鉄剣を振るう。

目の前にあった木々が次々と形を変えて倒れていく。

だがこんなことで気が晴れるはずがない。

三号生の住まう天動宮を囲う森。

見つかったら影慶やセンクウに自然破壊だと小言を言われるだろう。

気を鎮め剣を鞘に納める。







「なんだ・・・・?」







ふと、気配を感じた。

耳元で何かが吹き抜けるような感覚。

殺気でも敵意でもない。男塾に入塾してから久しく感じていないこの、感覚は。








「あれは・・・・・」






感覚を辿って早足で歩いていくと、桜の大樹の下に一つのか細い影があった。

あまりの線の細さに、目を見開く。

その影は何をするでもなく、ただ木に沿うように立っていた。







「何を、している」

「貴方は・・・・確か・・・」






決して近づくことなく距離を保ったまま立ち止まる。

一瞬言葉に詰まったのは女が泣いているように見えたから。

涙こそ流していないものの、その瞳は憂いに満ちていた。





「二号生筆頭、赤石剛次。こんなところで何をしている」

「別に何も・・・・ただ、」

「奴等のことが心配か」





がその言葉に頷く。

か細い両手が震えながら胸の前で結ばれている。

それほどまでに三号生が心配なのか、と嫉妬さえ覚える。

会ったばかりの女が、どうしてこうも気になるのか。




「奴等の事なら心配いらねぇぜ。どいつもこいつも死ぬようなタマじゃねぇ」

「そう・・・でしょうか」

「ああ」

「貴方は・・・・行かないのですか?」

「!?」







まるで見咎めるようなその言葉に、思わず剣を強く握り締めた。

けれどすぐにそれは違うと悟る。

この女は俺と同じだと、瞳の奥を見て知る。




くすぶっている、炎が。






闘いたい。

護りたい。





目的は違えども、求める場所は一つ。

生か死かの戦場。








「いや、行くぜ、俺も」



斬鉄剣を抜き、女の前に刀剣をかざす。

たじろぎながらも、はじっと刀剣を見つめていた。





「行きてぇか、てめぇも」

「はい」

「死ぬかもしれねぇぜ」

「それでも」





睨みつけるように赤石から目を逸らさずに、が答えた。

その瞳に、全身が粟立つのを感じる。




憂いの目よりも、微笑みよりも。

挑むようなこの瞳が何よりも赤石を昂らせた。






一見弱いようで、その奥に男にも引けを取らぬ闘志を秘めている。


こんな女、どこにもいやしねぇ。









赤石はの手を取り山を下りた。

例え塾長に止められても行くつもりだ。

決めたから。

自分の望みを果たすことを。

そして、



この小さな存在を命を賭けて護ることを。














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キリ番リクエストの連載ヒロインと赤石先輩です。
急遽赤石先輩とこれからも絡んでいく予定に(笑)。