暴風が去った後の夜明けは台風の後のように清清しい朝だった。




目に痛いほどの、蒼。




けれど心は晴れることなく。























離別
















邪鬼から天挑五輪大武会への参加を告げられてから、桃達が塾長室へ呼ばれたのはそれから間もなくだった。

発つのは迎えが着次第だという。なんて、急な話かと。

そうは思うがどうにもならない。どうにもできない、その歯がゆさに。

















何をするわけでもなく、ただぼぅ、と窓から外を見下ろしていると後ろから声が掛かった。

振り向けばマスクをしていない卍丸が立っていた。



「何してるんだ?」

「別に・・・・なにも・・・・・」

「なんだ、拗ねてるのか?」

「は?」





そう言いながら私の頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜて笑う卍丸に零れるように息を吐く。


「んな顔してると、喰っちまうぞ」

「何言ってるんです」

「睨んでも迫力ねぇな、お前は」




げらげらと笑い声を上げて、笑う。

これから死地へ赴くというのにどうして。



「生きて・・・・」

「あん?」

「生きて帰ってきますか?」




自然に口から出た言葉は平凡な、つまらない言葉で。

けれど見上げる私に卍丸はさっきとは違う表情で笑った。





「ったりめぇーだろ、まだ」

「まだ?」

「お前の料理腹いっぱい食ってねぇんだぜ?」



「全くだな」

「まだ食いたりん」

「それはそうと抜け駆けとは許せんな卍丸」



「え?」





振り向けばそこには死天王の面々が揃って立っていた。

それと同時にババババッと凄まじいヘリの音が上空から聞こえ始めた。





「どうやら迎えのヘリが来たようだ」

影慶が窓の外見て言った。

そして毒手とは反対の手での頬に触れる。


「すぐ帰る」

「はい」




センクウは屈んでの手の甲にキスを落とした。


「待っていてくれ」

「待っています」


羅刹はその様子を遠くから見て、やがてゆっくりとに近づいた。


「あまり無理せんようにな」

「これは・・・?」

「この天動宮の鍵と見取り図だ。邪鬼様より許可も得ている。好きに使うがいい」

「ありがとうございます」






「別れは済んだか」

「邪鬼様」




やがて豪雨のような音が止み、迎えのヘリが男塾校庭に着いたことを知らせた。

頃合いを見計らったかのように邪鬼が現れ、をまるで赤子のように抱き上げる。




「きゃっ!?」

「俺達のいない間・・・・此処を任せるぞ」

「・・・・はい」





何も出来ずにいる歯痒い思いをしていたの心を見抜いたように、

邪鬼はそう言った。任せると。




「留守はお任せ下さい」




意を決しそう言うと、邪鬼がふっと口端を上げた。

やがて塾長直々の放送が流れる。それがしばしの別れの合図となった。





「行くぞ」

「「「「はっ!!」」」」






彼らは振り返ることなく、天動宮を後にした。

やがて再びヘリの音がし、彼らが行ってしまったことを告げた。












そして一人残されたは、





羅刹から持った鍵を握り締め、ただ彼らの無事を祈った。