賑やかな食事の時間が終わり、一人部屋へ戻った。

暗闇の中にぽつりと輝く月を見上げる。







訪れた静寂が痛かった。





































どさりとベットの上に倒れこむ。

酷く疲れていた。身体も、そして心も。

天井を見上げため息をつく。

その時ふと、殺風景な天井に光の波がゆらゆらと揺れているのに気づいた。







「・・・・・・・?」









なんだろう、と身体を起こす。

すると何も置かれていなかった机の上に、丸い鏡があった。

鏡の中には丸い月が浮かんでいる。

その月の光が、天井に静かな波を作っていた。







「どうして―――」






食事に行く前にはなかった鏡。

手に取ればずしりと重く、裏には古い細工がなされていた。

刻まれた薔薇の文様。微かに香る薔薇の香り。






「・・・・・もしかして、」







センクウ、だろうかと。

初めて会った時、薔薇の花束を差し出した彼の姿を思い浮かべた。

埃を綺麗に拭き取った跡。

殺風景な部屋にせめて鏡ぐらいはと、探してくれたのだろうか。









鏡を静かに机の上に置いた。

彼らの部屋は近くにあるのだと言っていた影慶の言葉を思い出す。

ドアを静かに開けて廊下に出ると、カツカツと靴音が聞こえた。









「おう、

「卍丸・・・さん?」





長い廊下の先から姿を見せたのは卍丸だった。

手には茶色の袋を持ち、先ほど浴びるように飲んだ酒のせいで頬は赤い。

の顔を見るなり、その袋をに押し付けた。







「余りモンだがな、やる」

「え?」

「うまいメシの礼だ」








それだけ言うと、卍丸は踵を返しさっさと行ってしまった。

残されたは押し付けられた袋から匂う甘い香りに、包みを開く。







「和菓子・・・・?」






それは、桜を象った和菓子だった。

紅色と、薄紅色の桜を象った小さな菓子が二つ並んで行儀良く箱に収まっている。

余り物、なんて。

こんな和菓子が泣く子も黙る男塾の、三号生の寮にあるものだろうか。







小さく息を吐いた。

それは嗚咽に近かった。

さっきまで在った不安も、それに伴う疲労も、

不思議と何処かへ行ってしまった気がした。










命を狙われているこの状況で。

どうしてこんなにも優しい人達が傍にいてくれるのだろう。