「では来い」 短い言葉で邪鬼は少女を三号生の住まう場所へと促した。 少女は黙って頷いた。 迷うこと無いその瞳に強い娘だ、と邪鬼は思った。 初見閻魔の三号、そう言われる三号生の住まう場所はさながら鬼が島のように思えた。 心なしが暗い廊下にポツポツと頼りない蝋燭の灯りが揺らめいている。 自分の何倍もある体躯の邪鬼に必死についていく。 此処で怯えを見せてしまえば、弱さに付け込まれる恐れがある。 屈強な男の群れに飛び込むにはそれなりの覚悟を見せなければなるまい。 最初が肝心、そう自分に言い聞かせて震える拳をぎゅっと握りこんだ。 「揃っているか」 長い廊下を歩いた末、たどり着いたのは大きな応接間のような場所だった。 長いテーブルに、四人の邪鬼に勝るとも劣らない体躯の男達がずらりと顔を揃えている。 男達は皆、を一見し、しばし凝視した。 「例の娘だ。貴様らの下に置く。心して任務にあたるが良い」 「「「「はっ!!」」」」 邪鬼の一言で立ち上がり、一斉に礼をした男達には気圧されそうになった。 だが懸命に踏みとどまる。声が震えないように、と注意を払い口を開く。 「です。皆さんにはご迷惑を掛けますが宜しくお願い致します」 うまく言っただろうか。 強張った身体で自信が無かった。 邪鬼はを一瞥すると一人の男を見据える。 「影慶、後は貴様に任せたぞ」 「はっ!!」 そう言うとマントを翻して、邪鬼は部屋を後にした。 残されたはどうしたらいいかわからず、その場に立ち竦む。 「と言ったか・・・・そう気を張ることはない」 すると、影慶と呼ばれた男が思ったよりもずっと優しい声でに話しかけた。 顔を上げると、穏やかにを見る男達の顔があった。 「死天王の将、影慶だ。女の身で慣れぬ場所では色々あろうが・・・・ この影慶が貴様の身を請け負おう」 「ふっ・・・死天王が一人、センクウだ。まさか男塾で可憐な女性に出会おうとは・・・ 貴方には薔薇の花が良く似合う」 「同じく死天王卍丸だ。どんな刺客であろうと俺達の敵ではない」 「羅刹だ。まさかあの塾長の血縁とはな・・・世の中分からぬものだ」 卍丸と名乗った男が悪戯でもするような目で、の頭の上にポン、と手を乗せた。 子でもあやす様にぐりぐりと遠慮なく撫でられて、なにするんですか、と笑いながら言った。 「それでいい。そんな緊張していては三日と保たんからな」 羅刹が腕を組んで頷く。 センクウはどこから出したのか、赤い薔薇の花をに差出した。 「殿、とりあえず部屋へ案内しよう・・・離れを用意した。 俺達の部屋と隣接している。何か必要なものがあれば言うがいい」 やがて影慶が窓の外を指差した。その先には寮のような建物がある。 「ありがとうございます、影慶さん」 小さく息を吐き、さっきまでの緊張が嘘のように自然に力が抜けた。 大丈夫、きっと此処でやっていける。 「くくくっ・・・・影慶さんか・・・こいつは面白ぇ」 に名を呼ばれ、少しばかり頬が赤くなった影慶に卍丸が笑い声を上げた。 「役得だな、影慶・・・・俺は呼び捨てでいいぞ。俺もと呼ばせてもらう」 「おい、センクウ・・・」 咎めるように言葉を発した影慶をが制する。 「いいです、影慶さんも呼び捨てで。」 「では俺もそうさせてもらおう、」 「羅刹まで・・・全く、後で邪鬼様になんと言われても知らんぞ」 「はっはっはっ!全く面白ぇな!おい、、お前料理は出来るのか?」 卍丸の言葉には頷いた。それを見て、卍丸はますます上機嫌になる。 「そいつはご賞味願いてぇな!なぁ、おい!」 「ふふふ・・・の手作りか・・・悪くない」 「偶には旨いものが食いたいものだな」 卍丸・センクウ・羅刹の言葉に影慶はため息をついた。 「刺客よりも、こっちの方が問題だな・・・・」 だが、それでも。少女の存在に浮かれているのは自分も同じなのだろうと。 とりあえずは”役得”とやらを利用すべく、影慶はを部屋へ案内しようと、 仲間三人の輪からを呼び寄せた。 後で影慶がブーイングを買ったのはいうまでもない。 |