一門。

それは遡ること江戸時代、日本で栄華を極めた武(もののふ)の一族で、

あの徳川家康、豊臣秀吉が天下を治めることが出来たのは一門が影でその闘いを支えていたからだという。

時代は流れ、その血筋は武芸と共に着々と受け継がれた。

だが、今から十年前、突然一門は人知れず世間から姿を消した。







一族・一門皆殺し。

その血生臭い事件は決して世間に出ることはなかった。

だが、裏の世界に生きる者はそれがの武力を恐れた何者かの仕業であることを知っていた。

世間から忽然と消えてしまった、一門の存在。

並大抵の権力者の仕業ではないと推測されたこの事件は誰もが口を噤み、真相は闇の中に葬られた。

そして今に至る。






























月光はかつて知り合いの僧にそんな話を聞いたことがあった。

の、と言ったところで雷電が反応をした。

博識な彼なら当然知っているのだろう、おそらく自分よりも。

の身体が、掴んだ腕が、震える。






「月光、それでは殿は・・・・」

「ああ、おそらくな」





この瞬間、導き出された答えは一門を滅ぼしたのは藤堂兵衛だということだ。

光を映さない月光の瞳にはの姿が映ることは無い、が、そのほとばしるような怒りはビリビリと感じる。

初めてあった時から月光だけが感じていた違和感。

微笑み笑う少女からは想像も出来ないほどに感じる闘争心に似た炎。

おそらくこの少女は最初から、復讐を遂げる目的で男塾へ来たのだ。








「知って、いるんですね・・・・・・・の名を」

「ああ・・・・、ではやはりお前の目的は・・・」

「ええ、貴方の想像している通りです。」








月光の目が見えていたならば、おそらく瞳に写ったのは痛々しく笑う少女の顔だろう。

だが月光には見えない。

気配・聴覚・臭覚、それらのものを駆使したとしても、月光が思い浮かべるの姿は想像でしかない。







「塾長の血縁というのは・・・・」

「それは、本当です。私の祖母は塾長の叔母にあたる人物です。
戦争が始まる前に古くから親交のあった江田島から嫁いで来たそうです」

「なるほど。確かに遠縁だな。しかしあの塾長が・・・・」





の思惑に気づかないとは思えない。

己の血筋に在る少女を復讐に向かわせるなど、あの塾長がするだろうか?

普通ならばその手が血で穢れることもすらも厭うはずだ。





月光の考えを察したのか、は静かに自分の右手を掴んでいる月光の手に左手を重ねた。







「だからこそ、塾長は私を男塾へ迎えてくれたのです。女人禁制の禁を犯してまで。
私一人で向かっては、それこそ犬死でしょう。
あなた方ならばきっとあの男を討ってくれる、そう信じて私を行かせてくれたのです。
それにどの道、私は命を狙われている身・・・・・・・」






その言葉に黙っていた雷電が口を開いた。

その目には彼らしからぬ動揺が見受けられる。




「失礼を申すが、一門は全て絶えたと聞いているでござる。
もしや殿だけが人知れず生き残ったのでござろうか」


そう、彼女が最初に男塾の地へ足を踏み入れた理由は命を狙われているというものだ。

ならばその命を狙っているのもまた藤堂兵衛ということなる。


「ええ、私は偶然その日、家にはいませんでした・・・・・
生き残った私はそのまま今の両親・・・塾長の従兄弟夫婦に引き取られました。
けれど半年前、私がの生き残りであることをとうとう藤堂兵衛に知られてしまった。
私があの日、禁じられていた両親の墓参りに行ったばっかりに・・・・」








家の墓は江田島家が作り密かに埋葬を行ってくれていた。

だが生存を誰にも知られてはいけないだけが、墓参りを禁じられていたのである。

自身も己の危険を考慮し、その方針に納得していたつもりだった。

けれど、あの日、両親の命日にずっと溜まっていた想いが爆発し、一人墓参りに出かけてしまったのだ。








「大豪院さん達に男塾で初めて会ったあの日、私は久しぶりにの姓を名乗りました。
それまでずっと今の両親の姓を名乗っていましたから。
その時、塾長は察したはずです。私の意志を」







復讐を、戦う決意を、は捨てたはずの本名を名乗ることで塾長に示したのだ。

塾長はそれを認めた。だからこそ、が此処へ来ることを許したのである。







誰もが、口を噤みを見つめた。

虎丸や富樫もその事実に言葉が出ず、飛燕はその現実の残酷さに目を逸らした。

普通ならば武器を持つことすらも出来ない少女が両親の、一族の敵を討つべくその手を血で濡らす。

本来ならば雨も風も当たらない場所で、真綿で包むように大切に護ってやりたいか弱い存在が、その瞳に怒りを宿すことなど誰も望まなかったに違いない。

それでも現実は残酷で、こうして少女は戦場で血にまみれる。

ならばせめて、彼女が仇を討つその日まで、彼女を護る事が自分達に与えられた使命ではないだろうか。









「センクウさん?」

「護ろう、何からも。が目的を遂げるその日までありとあらゆるものから」




「雑魚は相手にすんじゃねぇ、お前の目的は一人だろうが」

「卍丸さん・・・・」

「だからそのご自慢の腕は大ボスを倒す為にとっとけ。やたらとひけらかすんじゃねぇ」




「止めることは出来ないんだろうな・・・見かけによらず頑固そうだ」

「羅刹さん」

「ならばせめて傍に。この羅刹、伊達に鬼と呼ばれてはおらん」







死天王の三人が、の前に膝を付いた。

先の闘いで影慶が死ななければ、きっと影慶も同じようにしていたのだろう。

赤石や一号生達は黙ってその光景を見守る。

彼らの間に風が吹き、マントを翻して現れたのはやはりこの男、大豪院邪鬼だった。








「ふふっ、大したものよ、死天王を跪かせるとはな・・・」

「だ、大豪院さん・・・・・」

「進むがいい、よ。己が目的の為に。我らその為ならば盾にも矛にもなろう」






邪鬼はの手を取り、その手に口付けた。

臆することなく邪鬼を見つめるの視線に心地良ささえ感じる。






「戦場に咲く華となれ、






邪鬼の言葉には静かに頷いた。



















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久しぶりの更新になりました。忘れられてそうですね。
サイトの名前の意味はこういうことでした。今更(笑)