約二週間ぶりに江田島平八が男塾の地に降り立つと、ばたばたと騒々しい音が聞こえてきた。

振り返れば血相変えて走り寄って来る鬼ヒゲと飛行帽の姿。




「じゅ、塾長〜〜〜〜〜〜!!」

「なんだ、騒々しい」

「昨日、天挑五輪大武会のヘリが再び校庭に!」

「それに赤石と・・・・あの娘が乗って行ってしまいました!!」

「ふっ、やはり行ったか赤石よ。それに・・・・・・・」




やはり血は抗えないものよ、と江田島は小さく吐息した。

戦いから遠ざけるつもりが、裏目に出たようだ。

だがそれすらこれから起こる戦いの前では些細なことなのかもしれない。





「も、申し訳ありません、塾長!!」




額を地に付けて土下座する二人を、江田島は一瞥して校舎へと歩き出した。



「ふっふっふ、度肝を抜かれるのは敵どもの方よ」

「はっ!?」

「心配無用だ。あの娘は神の愛娘」



大事な娘が死地へ赴いたというのに江田島は笑っていた。

鬼ヒゲと飛行帽はその様に互いの顔を見合わす。



「これも運命か・・・・」



江田島の呟きは誰の耳に入ることなく、風に消え失せた。










対峙











剣率いる男塾チームが決勝戦の地に着いたのは、予選会場を飛び立ってから五時間以上経ってからのことだった。

それぞれが物思いに耽る中、島全体がトーナメント場に象られた冥凰島がその姿を現した。







「ここが第一の闘場・・・・・・!!」

「相手チームはまだ来ていないようだな」

「ま、まて。見ろ、だれかいる」

「す、すでにだれか闘場に登っておるぞ・・・・・!!」






富樫と虎丸の言葉に一同は星型の闘場を見やった。

そこには二つの黒い影。






「あ、あれは・・・・!!すると男塾から送られた補充員の一人というのは・・・」

「待て、もう一人・・・・・・お、女!!女がおるぞ!!」




仰天する二人の声につられて視線が一点に集中した。

そこにはこの場に似つかわしくない娘が赤石に寄り添うように立っていた。




!!」

「何故此処に・・・・」

「赤石が連れて来たというのか!!」




驚きの声を上げる三号生達に、娘の存在に驚いていた一号生達が視線を向ける。




「あの娘を知っているのですか?」


センクウの隣に立っていた飛燕が意を決して尋ねた。

無言で彼女を見つめる桃に、伊達がちらりと視線を送る。


「どうやらお前も何か知っているようだな、桃よ」

「ああ、だが・・・何故ここに・・・・」





桃がに会ったのはたった一度きりだ。

怯えたように身を縮こませる一人の少女。

だが、今の彼女は赤石の隣に背筋を伸ばし堂々と立っていた。




!!」



卍丸が大声で叫ぶと、は赤石に頭を下げてから崖と闘技場とを結ぶ縄梯子を渡ってやってきた。

その瞬間息を呑む死天王の横を通り過ぎ、大豪院邪鬼の目の前に立つ。





「留守を頼まれたにも関わらず、来てしまいました」



申し訳御座いません、と頭を下げる彼女に邪鬼は一言も発することなくただ頷いた。

二人の間を崖の下からの厳しい風が通り過ぎていく。



「邪鬼様」



沈黙を破ったのはセンクウだった。

どうするんです、と目が訴えている。

卍丸も羅刹も困惑する様子で、互いに目を見合わせた。

三号生の様子に、一号生は口を出すことも出来ずただ黙るしかない。







、闘う覚悟はあるか」





邪鬼の静かな問いに、が目を逸らすことはなかった。

緊迫した空気が周囲にも伝わる。

その時ギシリ、と縄梯子が軋む音がした。




「その女の覚悟は俺が見定めました」

「赤石さん!」

「もしそいつが此処へ来たことを責めるのなら俺がその責めを負おう」

「貴様が・・・だと?」

「押忍。俺が命を賭してを護ります」



と邪鬼の間に立ち、赤石が邪鬼を睨むように見つめた。

それは誰が見ても挑発的だ。

桃は間に入ろうかと身体を動かしたが、伊達に肩を掴まれた。

黙って首を横に振る伊達に、仕方なく三人を見守る。







「ふっ面白い」




赤石の殺気立った瞳を見下ろした邪鬼はやがて微かな笑いを零した。

だが目は赤石同様殺気に似た闘気を放っている。他の三号生達も同様だった。




「よかろう。を咎めはしない。最もそのつもりも最初からないがな。
例え死地でも手元に置いていた方が安心ということもあろう」

「押忍、ごっつぁんです」

「だがな赤石よ。の護衛の任は元より我らが塾長より承りしもの。
貴様の出番はない」

「自分は任務ではなく、己個人の意志でを護るつもりです」





火花は、消えるどころかますます燃え上がるばかりだった。

突然現れた娘と赤石と三号生の対立に、一号生は成す術がない。




「と、富樫!こりゃあどういうことじゃ!?」

「俺が知るか〜〜〜〜!!!」

「ふっ、どうやら面白いことになっているようだな」




富樫と虎丸が周囲を取巻く殺気にあたふたしている横で、伊達はニヤリと笑った。



「先輩方も隅に置けないもんだぜ。なぁ桃よ?」

「あ、ああ・・・・・」

「ふっ、しっかりしてくれよ大将。とりあえず俺達に彼女を紹介してくれ」




伊達の言葉に他の一号生達も頷く。

周りの視線を受け、桃は弾かれたように赤石と邪鬼の間でオロオロしているの腕を引いた。

それに気づく様子もなく赤石と三号生の睨み合いはますます白熱していく。

そんな中で、













男塾を取巻くあまりの殺気に声を賭け損ねている宝竜黒蓮珠がいることに誰一人として気づく者はいなかった。